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女性のあした大賞 2025──生活者の声をすくい上げ、未来の社会をつくる人たちへ

 10周年を迎えた今年の「女性のあした大賞」。HERSTORY代表取締役・日野佳恵子さんが冒頭で語ったのは、ひとつのシンプルなことだった。「生活者の小さな声に耳を澄ませた人こそ、社会を動かす人になる」──ということ。僕自身、このイベントで実感した通り、それは従来の枠組みではなく、人の心に寄り添う形で持続可能な社会をつくっていくためにこそ、今求められている姿勢なのだと思う。

 そして、そのスケールは確実に大きくなっている。それは、ステージに立った受賞者4組の姿を見れば、すぐにわかる。

【最優秀賞】ヒューリック株式会社 こどもでぱーと

──都市の子育てを“構造から”軽くする挑戦

親の負担を“構造から”軽くする──都市型子育てを再編集した「こどもでぱーと」の思想

 ヒューリックは、「こどもでぱーと」という新たな施設を作り出した。それは、都市に暮らす親たちが長年抱えてきた“見えない負担”を、構造から解きほぐす装置だ。共働き世帯の増加、教育費の高騰、送迎の手間、医療へのアクセス不足──。

 こうした課題は、一つひとつ切り離して見れば“個別の問題”に見えるが、実際にはすべてが複雑に絡み合い、親たちの心身を圧迫している。ヒューリックは、この“負担が散らばっている状態そのもの”を問題として捉えた。

 だからこそ、一つのビルに、学習塾、学童、保育、運動教室、小児科クリニック、親向けのケア、カフェ、そしてコミュニティを育むスタジオまで。──あらゆる機能を層のように重ねて集約した。それがこの施設である。

 この建物に入れば、子どもの一日が途切れずに流れていく。預ける、学ぶ、遊ぶ、診てもらう。その合間に親もケアを受けられ、帰り道は送迎サービスが引き継ぐ。都市の中で分断されていた行為が、ひとつの“動線”としてつながるように設計されている。

 ヒューリックはその思想を、ビルという器に落とし込んだのだ。

・教育・医療・地域・送迎を“ひとつの物語”に束ね、子どもの未来を支える──都市の新しい子育て拠点としての進化

 教育、医療、地域交流、送迎。──それぞれ別の領域として語られてきたものを、ひとつの物語として再構築した。大事なのは、その表面的な構造ではない。フロアを上がれば学習塾があり、隣には幼児保育室がある。その奥には探究型のプログラムやダンス、アート、ロボットなど、子どもの好奇心を刺激する学びが広がる。さらに建物内には小児科が入っているため、体調に不安があるときも移動の負担は生まれない。

 こういう気持ちに寄り添うインフラであることが大事なのだ。

 ゆえに、親のための環境も丁寧に整えられている。ピラティスで体を整え、カフェで一息つき、スタジオでは地域コミュニティの活動が育まれていく。「子どもを預ける場所」ではなく、「親と子が安心した状態で時間を過ごせる場所」として成立しているのだ。

 しかも、学童、運動、教育、医療、送迎の専門家たちが参画し、それぞれの専門性を“ひとつの体験”として結び合わせている。親と子が無理なく、健やかに今日を生きられる環境を「設計」として作り出したことが、最大の意義ではないかと思う。

【優秀賞】カインズ

── 暮らしの“微細なストレス”を価値に変える生活者発のものづくり

・生活者の“微細な困りごと”から未来のホームセンターをつくる──カインズが女性の声に向き合った理由

 ホームセンター最大手のカインズが今回評価された理由。それは、日常を生きる人の“かすかな困りごと”を見逃さず、その声を商品企画の中心へと持ち込んだ姿勢にある。実は、カインズの顧客の半数以上が女性。日用品・収納・インテリアといったカテゴリーでは、その比率は七割を超える。

 生活者のリアルな温度を持つ人々が主役であるにもかかわらず、商品開発者の女性比率は約一割にすぎず、「使い手の感覚」が企画に十分届かない構造があった。そこで同社は、HERSTORYとともに生活者の実態に深く踏み込み、家の中の写真や行動の流れ、微妙なニュアンスの声まで収集し始めたのである。

 水回りの使いにくさ、掃除道具の置き場の不自然さ、収納の“あと一歩足りない”感覚…。

 言葉にならず、誰にも相談されない小さなストレス。

 それが、実は生活の質を大きく左右していることが見えてきた。ゆえに「浮かせる洗面収納」や「引っ掛けられる清掃用品」などの商品が生み出された。従来の枠組みとは違った繊細さが宿る商品。これこそ女性の感性がもたらす真骨頂である。暮らしの動線全体の“ストレスをほぐす商品”が形になっていく。

女性視点がものづくりを再発明する──調査・分析・デザインをつなげるカインズ流の価値創造

 その意味で、カインズの革新は、生活者の声を“確かなものづくり”へと変換するプロセスにある。

 生活の実態を“動線”として捉え直したところに、それが顕著に表れていると言って良い。キッチン、洗面所、掃除、収納……。家の中の一つひとつの行為を、写真や行動観察から読み解き、「どこで時間が止まるのか」「どこが不自然なのか」を可視化する。

 次に、その気づきを定量的なデータとすり合わせて、改善すべきポイントを浮かび上がらせていく。そして最後に、その“生活の声”をデザイナーや開発チームと共有し、具体的な商品へと落とし込み、試作、検証、社内承認のプロセスへつなぐ。

 つまり、生活者の声が“気づき → 構造化 → デザイン → 商品”という流れで自然につながっていく仕組みが出来上がっている。この循環が強固であるほど、カインズの商品は暮らしに馴染みやすい。結果として国際的なデザインアワードの連続受賞にもつながっていく。

 これは“企業の規模”ではなく、“生活を理解する姿勢”の結果だ。

 商品を売る企業ではなく、暮らしのあり方そのものを編集する存在へ。──今回の取り組みは、その未来像を示す象徴だった。

【優秀賞】はなさく生命

「私は大丈夫」を問い直す──女性の健康と向き合うI’m OK? PROJECT

“私は大丈夫”の裏にある沈黙をほどく──女性の健康を支える「I’m OK? PROJECT」の本質

 女性にとっての健康課題は、長い間“声にならないまま”内側に押し込められてきた。更年期の不調、月経による体調の揺れ、家庭や仕事での負担、そして「自分だけは大丈夫」という思い込み。

 誰にも言えず、後回しにされ、日常の中に溶けてきた“沈黙”である。

 例えば、生命保険という従来の枠組みで言えば、もしもの時に「困らない未来」を先に用意しておくもの。そこで止まっていた。しかし、はなさく生命が立ち上げた「I’m OK? PROJECT」には、個々の抱える健康に対しての繊細な思いやりが宿る。

 “私は大丈夫(I’m OK)”という言葉を、まず女性自身が見つめ直すきっかけをつくる。そこにあるのは、保険会社としての利益で動くのではなく、「女性が自分を後回しにしない社会をどう実現するか」という視点だ。プロジェクトは、イベント、ウェブメディア、SNS・音声配信という三つの軸から立ち上がる。リアルイベントでは、全国の乳がん検診率が低い地域へ足を運び、医療機関と連携しながら無料検診を実施した。

 その場で実際に異常が見つかった女性の割合は二割。それは、いかに多くの女性が“忙しさゆえに自分を後回しにしてしまっているか”を突きつける結果だった。文章や動画で学ぶだけでは届かないものがある。

 身体の変化に向き合い、その場で検診を受け、医師の言葉を受け止める──その一連の体験を通じて初めて、“自分に立ち戻る瞬間”が訪れる。

・啓蒙と行動の“往復運動”で社会を変える──地域とつながるリアルプロジェクトの力(読み物版)

 つまり、「I’m OK? PROJECT」の強さは、啓蒙に留まらず、“知る”と“行動する”を往復させる仕組みを持っていることにある。北海道や広島など、検診率の低い地域を中心に、はなさく生命は地元メディアや医療機関と連携しながら、マンモグラフィー検診車を走らせ、直接その場で検診を提供してきた。

 そこでは、著名人による体験談が語られ、医師がその場でアドバイスを行い、受け身ではない“参加型の学び”が生まれている。

 女性たちは、「忙しいからまた今度」「大げさなことではない」と自分を後回しにしてしまいがちだ。しかし、プロジェクトが目指したのは、その“今度”が訪れないまま時間が過ぎてしまう現実を変えることだった。

 だからこそ、リアルイベントで身体を動かして検診を受ける行為と、オンラインで知識を蓄え、専門家の声を聞く行為が組み合わされている。この往復運動こそ、女性たちが自分の健康に対して主体性を取り戻すための鍵になる。

 社会の価値観が揺らぐ今、“自分を大切にする”という当たり前が、いかに難しく、そして大切であるかを、このプロジェクトは教えてくれている。これこそ今の時代を反映する考え方。

 静かに、しかし確実に社会の地図を書き換えていく活動だ。

【優秀賞】Amazing Cambodia

──才能の芽を拾い上げ、女性の未来を循環させる「社会実装のアート」

・美術教育すらなかった国で──女性の才能を見つけた原点

 なんと言っても、これに関しては、温井和佳奈さんのキャラクターに尽きる。彼女の二十年の歩みは、「女性の自立支援」という一点から始まった。

 近年、彼女が着目したのがカンボジア。そこでは、美術教育がほとんど存在せず、クリエイティブ産業の文化も育っていない。それでも、女性たちの中には“何かを描きたい”という衝動が確かにあったのだ。

 この胸の高鳴りを見逃さないところにこそ、女性的感性がある。その小さな芽に光を当てるため、温井さんはデザインコンテストを立ち上げ、“デザインとは何か”という基礎から教える活動を始める。

 はじめは子どもが描くような素朴な線画だった。しかし、学びと経験を重ねるたび、線は洗練され、色は深まり、やがて“商品として世に出るデザイン”へと育っていく。採用された作品はラコルベイユなど日本企業の商品パッケージとなり、売上の一部は女性の育英基金として還元される。

 デザインが商品を生み、商品が収益を生み、その収益がまた次の才能を育てる。ここに「才能 → デザイン → 商品 → 収益 → 教育」の循環が生まれた。

コロナで95%売上消失──仲間と再生させた復活劇

 とはいえ、コロナ禍では売上が95%減り、撤退を決断するほどの危機に陥った。しかし、企業再生の専門家と出会い、わずか一か月で赤字が止まる。止まっていたコンテストも復活し、クオリティは以前より高くなった。

 一時、温井さんは引きこもりをしていた時期すらあったという。しかし、信念を持つ人の強さは、ここに表れている。Amazing Cambodia は再び息を吹き返し、成長の第二章が始まったのだ。進化は止まらない。2025年、新空港への二ブランド同時出店が実現した。

 「Amazing Cambodia」と「I LOVE CAMBODIA」が並び、世界へ飛び立つゲートで、カンボジアの文化と才能が旅を始めている。売上は約七億円規模まで回復し、来年には十億円を超える見込み。

 二ドルの小さなお菓子や雑貨が、世界で何百万個も売れていく。これは、構造を持ったビジネスだからこそ成し得た成果だ。温井さんは、支援とビジネスの境界を溶かし、教育・生産・流通を一本の線にまとめあげた。

 Amazing Cambodia は、“助ける”でも“売る”でもない。その中間にある“未来を育てる営み”を、社会に実装しているのだ。

従来の枠組みでは果たせぬ人の気持ち

 授賞式の最後に、日野佳恵子さんは彼らを讃えながら語った内容が心に残る。実に、日野さんらしいなと思うエピソード。それは、35年前、日野さんが子育てをしながら働いていた頃の話だ。

 子どもに習わせたいものはたくさんあった。スイミングも、英語教室も、そろばんも。

 けれど、それぞれがまったく別の場所にあり、移動だけで一日が終わってしまうような日々だったという。

「どうにか、ひとつの場所で完結できないだろうか」。

 その思いを胸に、広島にいた頃、日野さんは昼間に空いていた学習塾を訪ね、飛び込みでこう頼んだ。

――「昼間は使っていませんよね。この教室を貸していただいて、ビルの中で書道と英語教室と、そしてお母さんのマッサージを一つにできませんか?」

 しかし、当時は、誰も耳を貸してくれなかった。

 これこそが先見性だと思った。それを彼女は、まだ誰も言語化していなかった35年前の時点で、直感的に求めていたのである。従来の枠組みや“ハコ”では、人々への細やかな気遣いができないのである。そこで、社会は、人は疲弊していく。

 そこに救いの手を差し伸べるのが、女性の感性だと僕は思う。まさに、今回受賞した方々にも共通することだ。

 冒頭にも書いた通りだが、縦割りではすくえなかった日常の断片を拾い、形にし、未来へと手渡す人たち。その姿は、「誰かの生活のすぐそばから、社会は変えられる」という希望の証でもある。

 これからはより人間的で、安らぎのある世の中になっていくだろう。女性の手により、新たな“あした”が始まる。

今日はこの辺で。

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