ポッドキャストが変える未来──映像解放時代の最前線から考える

これまで「映像」といえば、テレビや映画のような大資本がつくるマス向けコンテンツが中心であった。活字には新聞や週刊誌、本といった多様なフォーマットが存在したのに対し、映像にはその余白がなかった。いまや映像は独占から解放され、誰もが自分の物語を発信できる時代に入った。例えば、その象徴のひとつが、先日発表された「ダウンタウンチャンネル(仮称)」である。テレビの枠を飛び越え、独自プラットフォームを自前で築く動き。それは、日本の映像史における大きな転換点を示している。
そして特に僕が、中小企業をはじめとする読者との関わりで注目したのは、PIVOT佐々木紀彦氏が語った「ビデオポッドキャスト」という新しいフォーマットである。同内容は、第17回 マーケティングWeek -夏 2025で語られた。大資本でなくとも始められ、思想や専門性を軸に物語を届けられる。まさに次の時代の武器になると確信している。
1. 豪華さより「中身の濃さ」へ──YouTubeが示した新常識
これまで映像といえば、ドキュメンタリーやスポーツ中継のように“豪華さ”が重視されてきた。しかしYouTubeが示したのは、視聴者は豪華さよりも「何を語るか」に価値を見出すという新常識である。
その代表格がジョー・ローガン。もともと YouTube上で「Joe Rogan Experience」 という超ロングインタビュー番組を継続していて、これが爆発的に人気を集めた。
それで、Spotifyと2200億円という破格の契約を結び、数時間にわたるロングインタビューを配信している。再生回数は100億回を超え、影響力はもはやテレビのゴールデン番組を凌駕しました。
経営者や著名人にとっても、テレビで数分間コメントするより、ポッドキャストでじっくり語った方が自分の思想を深く伝えられる。だからこそ、マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクといった経営者たちが、ポッドキャストを優先するのである。
2. 企業が自ら“メディア”になる──ポッドキャスト参入の現実
佐々木さん曰く、アメリカではすでに、金融からテックまで幅広い企業がポッドキャストに参入しているという。ゴールドマンサックス、マッキンゼー、マイクロソフト、Amazon AWSなどがその例だ。自社の社員や専門家を招き、業界の知見を共有する番組を制作している。
日本では「トヨタイムズ」が象徴的だが、制作費も含めてハードルが高い取り組みである。
その点、ビデオポッドキャストなら身近な環境と企画力さえあれば始められる。BtoC企業に限らず、専門性を持つBtoB企業にとっても、新しいマーケティングの武器になるだろう。それが今、ここで記事にした最大の所以である。
つまり、企業が自ら“メディア”になる──この構造転換は、従来の広告中心の広報とは異なり、対話や思想の共有を軸にした関係づくりを可能にする。
3. 映像の独占が終わった──“ニッチ”が力を持つ時代
それは、制作の観点から見ても、大きな変貌ぶりを感じる。1950年代から2020年まで、映像をつくれるのはテレビ局や映画会社だけだった。だからこそ、映像は「マス向けのどでかいコンテンツ」に限られていたのである。
しかし、いまや映像制作は個人や小さなチームでも可能になった。本の世界に新聞、週刊誌、単行本と多様なフォーマットがあるように、映像にも「数万人規模に刺さるニッチコンテンツ」が成立する。
サッカーの戦術を徹底的に語る動画が数十万人に届くように、マニアックな関心が市場として成り立つ。これは、活字の世界では可能だったけれど、映像では長らく不可能だった領域である。つまり、誰でも作れるようになったということは、今まで拾い上げられなかったコンテンツが拾い上げられることを意味する。
要するに、“ニッチ”の解放こそ、ビデオポッドキャストの本質的な価値なのだ。
4. 耳から記憶に残る──音声の親密さとエンゲージメント
また、映像が力を持つ一方で、音声だけの強みも侮れない。ポッドキャストやラジオは「ながら聴き」ができる点で生活に溶け込みやすく、記憶に残りやすいのである。
例えば「オールナイトニッポン」のオードリーの番組が東京ドームを満席にした事例は象徴的だ。耳だけで聴くからこそ、二人が隣で話しているような親密さが生まれる。結果として、強い愛着やエンゲージメントが形成されるのである。
企業や個人がファンとの関係を深めるなら、映像+音声の両面を意識することが重要です。ビデオポッドキャストは、その接点を自然に備えたフォーマットなのだ。
5. 広告市場のシフト──CTVとスマホ動画が伸ばす未来
アメリカではすでに、テレビ広告の3分の1が「コネクテッドTV広告」に移行しています。もし日本でも同水準に達すれば、市場規模は約5800億円に達すると推計される。
同時に、スマホでの動画広告市場も急成長しているのである。インストリーム広告を中心に、SNSや動画配信サービスを通じた露出が増え、広告の接点が細分化している。
特に注目すべきはBtoB領域。これまで「広告はBtoCのもの」という常識が支配していましたが、近年はBtoB企業がリクルーティングやブランディングを目的に広告を打ち始めている。動画やビデオポッドキャストを駆使すれば、専門性の高い業界でもブランドを広げられるのだ。
6. 未来を読む──YouTube × ビデオポッドキャストの最強タッグ
色々なメディアがある。この点、佐々木さんは「YouTubeに変わるものは出てこない」という見方は根強く、10〜20年はその影響力が続くと説明している。一方で、Spotifyがビデオポッドキャストを強化し、二大巨頭の構図が明確になりつつある。
YouTubeの拡散力と、Spotifyのプラットフォームとしての信頼性。これらが相互補完しながら、市場は拡大していくだろうというのだ。動画広告、ビデオポッドキャスト、音声コンテンツ。この三位一体の流れが、次の10年を形づくる本流になるはず。
そこに加えて、誰でも作れて、誰でも見れる環境。企業が、自らの事業を語るために、その想いを深掘りするために、メディアを持つのも現実的なのではないかと思う。
7. 結論──「自分の物語」を映像化する時代
ビデオポッドキャストがもたらす未来は明快だ。
繰り返しになるが、豪華な設備がなくても、思想や情熱さえあれば世界に届けられる。企業も個人も「自分の物語」を映像化できる時代に突入したのだ。
これは、マスメディアがすべてを独占した時代は終わったことを示す。
これからは、ニッチな声が世界に響く時代。重要なのは、その流れを“自分たちの文脈”に引き寄せて、どう実践していくか。ポッドキャストは単なる流行ではありません。広告市場やBtoBマーケティングにまで広がる「構造的変化」です。
だからこそ、今のうちからこの領域を抑え、自らが物語を紡ぐ側に立つことが、未来の競争力につながっていくのだと思います。
今日はこの辺で。