もっと日本企業よ世界へ 真に付加価値を活かすべき時 BEENOS 越境ECランキング 2023
世界は一つ。そのもとに「健全に」価値を分け合い、手を取り合って成長していく。ただ海外で売れればいいのではないのだ。自分たちの価値は何かを考え、必要な対価をお客様に提示して、それを受け入れてもらえる。その土壌を作らなけれならない。先程、行われたBEENOSの「越境ECランキング」でそれを代表取締役 直井聖太さんの言葉から感じた。おかげで課題と解決も見えてきた気がする。彼の言葉は後段に触れるとして、まずはそのランキングについて振り返ろう。
越境ECはコロナ禍終息でも伸び
1.若年層にも浸透し幅が広く
「越境ECランキング」に関しては年末の定番。BEENOSが越境ECに関する流通総額で国内ナンバーワンであることをベースに、自らのデータからその傾向分析をしたものである。彼らは言語と決済、物流に関する土台を作った。『Buyee』では国内ECサイトにHTMLタグひとつを入れるだけで、海外の人が買えるような環境を作り続けたのだ。
さて、現状を把握する上で「Buyee」の流通総額について見ると、2023年Q2で179億円。
この一年の傾向としては海外での購入者層が、20代からに広がっている。それに伴い、エンタメに関する消費が世界に広がっているように思う。それまでは、勿論、全世代で売れてはいた。ただ、ランキングで見ると、越境ECは50代以降がゆとりの中で、趣味嗜好品を購入している傾向が見てとれた。少々高くても購入され、ニッチなものが消費していく傾向が見られたのだ。
それが若い層にも広がった理由。それは、コロナ禍で生活変容が起き、その利便性と価値を知ったこともあるだろう。手軽に、お客様の側でも、世界で流通するものを購入する行動が広がった。
彼ら曰く、これが「世界総オタク化消費」が展開される所以である。
昨今の傾向を見るには、伸長率で見た方が良い。最も伸びたのが、若い層ならではというところで、タレントグッズである。ちなみにK-POPのトレーディングカードは2022年対比で、2.1倍の推移。
2.若い層ならではの商品に動き
「若い層ならでは」の傾向は他にもあって総合ランキングでも、2位に入っている「音楽」。伸長率でも9位であり、K-POP以外に「ガチャポップ」が伸びている。
ガチャポップ?
そう思われる人もいるだろう。最近の「Spotify」のプレイリストのことである。おもちゃのカプセルトイのように「何が出るかわからない」ミュージックリスト。音楽を所有するのではなく、サブスクリプションが定着した故のトレンドである。
このリストは、1990年代から2020年までの歌手が混在しているのが特徴。越境ECの文脈で見れば、それらにまつわるアーティスト関連グッズが好調。
トレンドが反映されやすくなったことで、コンテンツ系では「ちいかわ」の関連グッズがヒットするなどの現象が起こる。驚く勿れ、伸長率が1590%という伸びである。
市場が伸びているのは、これまでのジャパン・カルチャー商材、コレクティブな要素を持つ商品が継続的に売れた上に、これが成り立っているから。これを踏まえれば、コロナ禍を経て、さらに伸び代があると考えるのが自然だろう。
高まる世界物流の意義
1.日常品を越境ECで買う時代
さて、最近の傾向を振り返った中で、代表取締役の直井聖太さんの話に注目してみよう。毎年、僕は彼の考えを聞くために、ここに来ていると言っても過言ではない。彼が言及したのは、物流に関する意義である。
昨今、SHEINやTEMUが台頭していることを挙げ「これは越境ECなのです」と強調した。何が大きく変わったのかというと、日常、使う商品を購入する手段として、越境ECが当たり前に浸透していることである。今までであれば、日本の商品然り、その国でしか手に入らないものを越境ECで手に入れるという流れが一般的。
だが、SHEINやTEMUは違う。まるで国内で買うようにして、越境ECを活用する。SHEINやTEMUなどは、アメリカで売れているけど、生産拠点の多くは中国である。
これが本当によくできた仕組みだと思っている。これまでは世界の工場として中国が脚光を浴びていたが、あくまでもそれは下請けだった。しかし、自らお店を持って、ユーザーを海外の人にすれば、その世界の工場としての強みを最大化できるわけである。SHEINはまるで国内のお店にようにして、アメリカのお客様とダイレクトに繋がる。そして、自らの生産の知見を活かして、安く販売することで、マーケットを席巻したのである。
2.とはいえ、物理的な手段は増加傾向にない
つまり、直井さんが言いたいことはここだ。流通額が増えても、それを運ぶ、船や飛行機の数が増えるわけではない。そうすれば、世界の物流網がそれらの流通額の増加に伴い、逼迫することを予見しているのである。
だから、「今後、物流が大事になる」と結ぶ。それとなく、この場で関連会社tensoの「転送コム」で新しいサービスを発表しているのも、そういう背景にあるのだろう。それが、従量課金型のグローバル物流サービスである。
思えば、Buyeeは彼らが自ら物流倉庫を抱え、海外の注文に対して、日本のEC企業に代理注文をして、それを自らの倉庫に入れた。そうすることで、日本企業が、海外の人たちに商品を売り、お客様に届けることを可能にした。つまり、海外との接点に関しては知見がある。
その利点を活かして、グローバル物流サービスでは、あらゆる海外への配送を一個から従量課金で受け入れる。既に難しいとされる上に、コストが上がると想定される、海外物流の部分を、新しい自らのサービスによって解決しようというのだ。
直井さんの言葉はここに直結しているのかと思った。
実際、富士ロジテックホールディングスは、このサービスを活用。同社もまた物流企業であり、最近、D2Cなどは、海外ニーズも高いのだ。D2Cは価格比較の中で売るのではなく、ブランディングが徹底できているからである。ゆえに、彼らのサービスを取り入れて、付加価値を最大化させた格好だ。
3.広がるほどに海外の窓口として存在感を発揮
何気ないことだが、海外にものを送る知見は、ほとんど日本企業は持ち合わせていない。そこに伴う問題は、為替、国際送料、法律関連と複雑。加えて、案外、スルーされがちだが、海外は配送状況が異なる。実際に、ちゃんとラストワンマイルで届けられる環境のため、梱包に関して日夜、工夫したという話も過去に聞いた。だから、彼らがこれまでの知見を活かして、シームレスに課題を解決するわけだ。
たとえば、商業施設、百貨店なども、免税配送をこれでスタンダードにできる。これまでにはなかったBtoB取引でも、彼らを活用して海外に送ることも可能になる。
逆に言えば、彼らはこの部分で圧倒的なプラットフォーマーとしての立場を握れば、いい。そうすればスケールメリットが生まれて、冒頭話した「Buyee」などの既存事業にコスト面で還元できるからだ。
よく考えられていると思った。
4.今後、注目されるであろう関税に対しての動き
そして、僕は意地悪かもしれないが、敢えてこんな質問を直井さんにした。「各国の課税基準の改訂の動きに対して、BEENOSのサービスに影響が生まれることはないのだろうか」。
実は、SHEINなどが市場を席巻できたのは、理由があると思っている。それは彼らが、関税における免税制度を上手に活用して、配送費のコストを抑えている点にある。扱う額が小さい場合、通関業者もそれをいちいち、承認しているのならば手間がかかるので、免税の対象となる。
つまり、SHEINなどはその商品の額を小さくすることで、その免税対象となって、安さを実現できている。しかし、そうすると、自国で作ったのと変わらぬ状況が生まれて、その意味でも価格は、大きな差別化要因になっているのである。
だから、直井さんも上記の通り、「国によってはその課税基準の改訂などが実施されている」ことを明らかにした。そりゃそうだ。各国にとってみれば、自国の経済を守る為に必要なこと。
では、 BuyeeなどのBEENOSで扱う商品では、関税の免税に対してどう向き合っているのか。もしも免税対象であれば、彼らの事業に影響が生まれるのではないか。そう尋ねたのである。直井さんは寧ろ、関税を免税なく支払う方向で姿勢を明確にする。そして、会社にとって、その社会の動きは、プラスの要因だと説明した。
安さを超えた付加価値を
1.企業は自らの価値で世界でも価格競争に巻き込まれない努力を
「安さ勝負ではないはず」。彼の言葉が印象に残った。
安いから。その視点で越境ECを見てしまうと、それによって失われるマーケットがあるはずだと指摘する。本来、上記の通り、自国が自国の経済を回せるように、関税を受け入れるべき。彼らとしてはそれを遵守して、やっていくのが筋だとした。最初から関税に関しても各国と実際に、交渉をしっかり重ねて、曖昧さを回避するようにしているという。
逆にいえば、彼らは「価格が安いから買いたい」という市場とは距離を置いているという。基本的には、何かしらの技術、何かしらのユニークさなど、ブランドがある程度、強調されている。そういう商材で越境ECを盛り上げていく。その決意を示したのだ。
すると、今度は、日本企業の姿勢が大事になってくると思う。だから、関連して、これがまた、意地悪な質問かもしれないが、彼に聞いた。
BEENOSの越境ECは、新品よりリユースの方が存在感が強い印象。それはランキングを見ていて、僕自身が思うこと。自動車のパーツやトレーディングカードが上位を占める。その内容を鑑みれば、新品が上位になるとは考えづらく、恐らくリユースがそれなりの割合を占めるはずだ。
ではなぜ、新品よりもリユースの方が存在感があるのか。新品を増やしてこそ、価格訴求ではない価値を訴求できるはず。何がこれから必要でBEENOSは現時点、そこに向けて働きかけをしているのか。それを彼に直撃した。
2.新品もリユースも多種多様な選択肢を
すると、直井さんはそこに対する課題として、こんなことを言い始めた。
企業として越境ECという部分に着手しきれていない。特にホビー関連は、リユースでも大きいので、新品であれば、売れる商材もある。なのに、それがないからリユースに流れている。それで、多くの企業は機会損失をしているということなのだ。だから、IP系の企業と積極的に交渉を重ねて、そこを促していきたいと話した。
また、マーケティングの重要性についても触れた。せっかくインバウンドで来てくれていて、百貨店などで購入している。つまり、新品を買っている。だから、それを戻ってからも買ってもらえる工夫が企業側に大事だと。会社としても今期、力を入れていきたい部分であると明らかにしたのだ。
リユースを含めて、どのジャンルでどれだけ売れているか。思えば、これだけ、ランキングで提示されているということは、その情報は新品で企業がやるべきかを考える上でのヒントになる。
逆にいえば、もしも新品で販売されていれば、十分、それは売れるポテンシャルがあるということに他ならない。改めて、彼らのデータやランキングから学ぶことの意味を僕は見た気がした。
それを踏まえて、先ほどの物流の議論に戻ってくる。まずはインフラを確保することは大事だから。そして、販売機会を作る。それとともに、価値に見合った対価で払ってもらえるように、マーケティングを強化していく。それは、世界規模での話で。
3.今こそ立ち上がるべき日本企業
今こそ、日本のメーカーが筆頭になって、世界に立ち上がるべきなのだ。そして、自らの価値を試行錯誤しながら、謳い続ければいい。
しかし、それは価格競争ではない。真摯に自分たちの価値を追い求めなければならず、案外、自分たちを理解するというのは難しいから、簡単ではない。
でも、そこを乗り切れば、安さを訴求する議論で、越境ECを考えなくて良い。また、世の中の流れで別に免税など考えることなく、その付加価値を理解し、それに見合ったお金を支払ってもらえる土壌ができる。そうやって、日本企業やコンテンツの価値は確固たる地位を築いて、マーケットの規模を拡大できるというわけである。
思えば、今、ゴジラの映画が話題になっているではないか。あれは大きな資本が動いているけど、ニッチなところでもYouTuberのグッズが世界で売れているという話も聞く。言語対応など、ローカライズを徹底させたことの功績による。
日本の価値を正しく、世界に伝えれば、世界は反応する。自らの商品に誇りを持ち、しかるべき発信をしていく。そして、その受け皿としてちゃんとECで海外に対して門戸を開かないといけないということなのだ。
今日はこの辺で。