“大量に売れるという事は何を削るかである” AMS 社長 村井 眞一さん
その答えは目の間にいるお客様と、商品にある。僕は、株式会社AMSの代表取締役村井 眞一さんにお会いして、そんなことを思った。話を聞いていると、本当の原点は、彼の鈴屋でのバイヤー時代にあると気付かされ、それがご自身の経験とともに確立されて、信念たる「商売人人価」という言葉にも活きる。その視点は時代を問わず、本質的で、応用の効く発想だからこそ、今にも通じる。
マイナスを考えると、プラスが見えてくる
1.そもそもどんな仕組みを作ってきたのか
こう言っちゃ語弊があるけど、村井さんの考え方を学びたいと思っているので、敢えてAMSの話は控えめでいく(すみません)。AMSは「PRAMS EC」というECシステムと「ミドルウェア」のシステムを提供しており、この「ミドルウェア」は、ECと倉庫と店の間に入って「つなぎ込み」をするという意味合いで使われる。
なぜ、「つなぎ込み」が必要なのか。それは、今までリアル店は店頭にある商品を売ることに終始していたからである。つまり、「入荷してきたものを売る」という風だから、在庫に対しての意識が薄い。結果、売れ残った在庫はセールでまかなうが、利益率は良くない。一方、ネットはネットで、店頭在庫の数量分を把握できていない。だから、自社倉庫の数の中でしか売ることができない。これでは生産的とはいえない。
はたから見れば、お互いの動きはチグハグだったと言える。だから、ネットショップへの商品掲載も、店頭に入荷してからという有様。よく考えれば、店側に発売日という概念すらあまりなかった。それでは施策も伴わず、熱狂も生まれにくい。同時にそれはどう解決するのかが分からなかったとも言える。
2.在庫を一つと考える為に「つなぎこむ」システム
ゆえに、彼らは、最初から「店頭と倉庫の在庫を一つ」で考え、そこから在庫をリアルとネットに振り分けようと考えた。すると、足並みを揃える必要性が出てくるから、スケジュールを組み立て、互いにどのタイミングで手を加えるのかを考える。つまり、店と倉庫を「つなぎ込む」システムを手がけて、商品在庫の最大化を図ったわけである。
こうすれば、常に在庫は一元化される、それとともに、リアル店舗を補完する役目として、ネットショップが機能するようになったのだ。
おかげで、リアル店は接客や試着など自らの強みに気づくことになった。それと共に「どこで売るか」にこだわらなくなる。リアル側がネットに理解を示すほど、ネット通販がリアルをフォローして売りやすくなる。だから、商品の価値を正当に活かして、企業の利益率に大きく貢献したのである。
この「商品の価値を正当に活かして」という部分が大事。これが村井さんの本筋である。
AMSの話はこのくらいにして(失礼!)、今から10年も前からこういう着想をして、この会社に実践するようになった理由は、彼のどんな考え方によるものなのか。その本質的な部分を探ることで、「未来の小売のあり方」を考える上でのヒントにしたいと考えた。
3.他にはない視点を着想した理由は?
その意味で言うと、冒頭にも書いた通り、本当の原点は、彼の鈴屋でのバイヤー時代にあると僕は気付かされた。ここから始まる一連の話は「過去から今」と「今から未来」。その二つを見据える上でも参考になる思考の仕方である。
真っ先に彼の言葉で驚かされたのは、この言葉。
「鈴屋時代、月商1000万円の部門を渡されるとすると、僕の場合、一年以内に1億円にしたいと考えていた」。思うに彼は勝負師なのである。でも、それは闇雲にやるのではなく、メリハリをつけることで、大きなことを成し遂げてきたのである。
そもそも彼は、鈴屋時代、バイヤーとして名を馳せた。古くから鈴屋の伝統で、数字を出した人が全てであり、年齢に関係なく、高く評価された。
つまり、彼は「どうすればトップを取れるか」を考えていて、それにより彼の欲しいものが手に入ると考えた。欲しいもの、それは世の中を知り、自分がチャレンジすることでその仮説と検証を繰り返せる立場である。結果、この職場はその後、彼の人生を満たすだけの十分な経験をもたらした。
だから、彼はこの会社でとにかく打ち込んだ。それゆえ、鈴屋出身の経営者は案外多いと村井さん。いずれにせよ、自分は経営者になっていたと語る。この環境こそが、先ほどの強気な言葉が出てくる所以である。
在庫を制するものが小売を制する
1.多くを売る為に必要なのは沢山商品を用意することではない
一方で、先ほど、僕が「メリハリ」という言葉を使わせてもらったように、それはただ色々な商品を買い付けすればいいというわけではない。確かに高い売上を目指そうとすれば、たくさんの商品を仕入れれば、結果が出やすい。でもそれだけでは意味がない。
彼は言う。バイヤー時代に「予算が未達成」など、悔しい思いをするときの大抵の理由は何か。それが在庫の問題だ。当時、在庫によって倒産した企業も少なくない。だから在庫を残せば、いくら売り上げてもその評価はマイナスになった。
ここが彼の話の肝で、恐る恐るやる人は、「発注するのが量的に少ない」から目標達成できない。その上で「月商1000万円の部門を渡されるとすると、僕の場合、一年以内に1億円にしたい」という言葉を考えてみよう。それを具現化しようとすれば、そうは簡単なものではないということにお気づきいただけることだろう。ちょうどいい数の見極めが実に難しいからだ。
でも、実際、彼はそこで結果を出したから高く評価された。彼が今、AMSの代表取締役として、皆を指揮する上でも、実は、この「在庫」に対しての意識は徹底されていて、いわば、彼の考え方の礎である。
2.それまで大手メーカーから仕入れるには時間を要した
だから、その考えに至る起源をたどりたい。彼曰く、今から何十年も前の話にはなるけど70年代、トレンドの商品の押さえ方が違っていた。発注を8ヶ月前くらいからし始めるわけである。鈴屋はセレクトショップ的な売り方をしていて、例えば、国内大手アパレルメーカーなどの企業から「仕入れ」を行っていたわけだ。
すると、在庫の部分が一番、リスクとなる。つまり、一流の大手企業ばかりやっていると、機転が効かないのである。だから、それ以外の中小企業などとも「仕入れ」をやらせてもらっていた。それは、彼らならシーズンが迫ってきても作ってくれていたからだ。つまり、それらを織り交ぜながら、売場を構築したのである。
それでも流石に1週間で入荷することなんてあるわけはない。シーズン最盛期になって、仕入れも遅いから、それらに加えて、少しでも早くトレンドに気づいて、量に対してしっかり向き合う。そうすることで、お客様のトレンドに対しての最大値をとりやすくしていったのである。
3.お客様のニーズは繊細である
ゆえに村井さんの「売れ筋」への指摘は繊細である。
例えば、洋服が紺とベージュと黒の3色展開。「今夏、ベージュがかった白の動きがいいよね」。そうなれば1:1:1では発注するはずがない。白10、ベージュ5、黒1という具合になる。どれが売れるかを見極める一方で、どれを減らすかを考える。それで取りこぼしがなくなる。そうやって売場を構築していくわけだ。
だから、僕は「大量に売るということは、実は『何を削るか』ということなのですね」と村井さんにいうと頷いた。だから、お客様を自分の目で見て、確認していくことが大事になる。彼はバイヤーであり、販売員ではない。けれど1週間のうち、4〜5日は売り場に顔を出していた所以だ。
これが、僕は今に通じる本質的な話だと思った。今も昔もお客様を理解するという部分では村井さんの行動は変わっていない。時代背景を考えれば、過去は今よりずっとマスメディアの影響が大きく、画一的で大きなトレンドが生み出されていたけど、年を追うごとに、商圏が小さくなっていった。その中身は、一見、異なるように思える。
でも同じなのだ。当時でいえば、トレンドを読みながら、足繁く通ってお客様の細かなニーズを取りに行った。一方、今はお客様の行動データをとりに行くことで、それができる。同じくお客様あっての事だし、そのニーズを掴む為の手段が、トレンドなのかデータなのかの違いに過ぎない。
トレンドに乗るのも、ヒットを生み出すのも同じ
1.答えがお客様にあることには変わりない
だから、その後、TSUTAYAを運営するカルチャーコンビニエンスクラブ(CCC)を、増田宗昭さんと立ち上げることとなるが、そこでもその知見は生かされる。彼は、トレンドを追うだけではなく、自ら生み出すことで、進化していくのである。
その後、TSUTAYAで怪獣コンテンツを大体的に展開して、ヒットを作り出した。そのコンテンツは60年代に放映されていたものだったのに、レンタルで動いていたのを見逃さなかった。しかもそのキャラクターのぬいぐるみが売れていると言う。つまり、これは世代を超えて、受け入れられる可能性があると直感したわけだ。
ところが、TSUTAYAの加盟店ではどうだろう。それらのシリーズをどれだけレンタルできているかというと、殆ど仕入れられてない。それは今更、買おうとしても絶版で買うことができなかったからだ。
2.世の中的な流れではなく自らヒットを創出
でも、村井さんはだからこそチャンスだと思った。絶版であろうが、版権元は存在する。そのコンテンツに関係する今までの作品を全巻、発売しましょうと交渉を開始して話をまとめた。
それで販売して分かったのは、怪獣が多く出てくるものほど、売れる。加えて、彼は玩具メーカーにも話をしに行く。それはコンテンツの新たな価値を知ってもらうことになりからだ。いうまでもなく、版権元にはリップサービスになるから、協力体制は強化される。同時に、おもちゃを作る方向へ話が進む。それゆえ、それも販売して、TSUTAYAでフィギュアが売れるという現象も起こった。
全然、時代の手段に左右されていないのだ。見るべきが分かっているから。だから、ネット通販に関心を抱くのも自然だった。今でこそ、AMSの代表取締役を務めて、ECに関わることになった。だが、彼がネットの可能性に着目していたのは、1995年当時。その視点もまた、彼が想像力豊かなリアリストであることを示す。
3.想像力豊かなリアリストであれ
ECにどんな可能性を抱いていたのか。すると「本をまず売ればいい」と思っていたと語る。その理由もまた、センスに溢れている。彼はここでも「在庫」の概念を持ち出し、それを自らの強みに変える視点で、全く違ったアイデアを生み出す。
要するに、本は返品が可能であるという部分を活かすのである。当時の本の問屋は大手書店を優先していた。だから、ネット通販を始めたところで意味はない。当然、後回しにされて直ぐには届かないからだ。しかし、そこに光明を見出す。
バイヤー時代と同様に、欲しい時にサッと販売することが大事。ならば、彼は自社で倉庫を構えて、本を仕入れればいいと着想したのである。それはバイヤーとして大きな勝負をかけた時と同じ発想の仕方である。大きな投資を必要とする。だがしかし、その一方で、出版には返品という文化があるから、リスクヘッジが可能である。
面白いのは、大きな売上を作るには敢えて、何を省くかを考える事が大事なのが、ここでも証明された。
その倉庫を最小限に活用して、直ぐに届けられたら、そこで覇権を握れるだろう。具現化されることはなかったが、それってAmazonではないか。そういうと、村井さんはニヤリ。偶然、その時代に会って同じ価値観だと話が盛り上がったのが若きジェフベゾスだったというから、尚更驚きである。本質的視点は時代に左右されない。
商売人人価で貫く人生を
1.鈴屋でもTSUTAYAでもAMSでも同じ
そんな彼が、折に触れて、使う言葉が「商売人人価」というものだ。この言葉は自らが経営に関わったCCCにいた時代も口にしていたもの。これも鈴屋のバイヤーの頃から、成長してご自身が身につけた様々な知見が込められていて、非常に奥が深い。
まずは商品(「商」)である。それは相応しい商品を持って売ることで、機会損失なく、売り尽くすことである。そのためには、然るべき売り場「(売)」がきちんと設計されていること。
さらには、人である。例えば、TSUTAYAがそうであるように、スタッフ(「人」)が映画の知識を深めれば、それが、お客様との接点を重んじて、映画のソフトの購入(レンタル)へと繋げられる。そこまでの土台ができれば、あとは、集客(「人」)を行い、ふさわしい値付け(「価」)をすれば、結果はついてくると。
まさにAMSはそれを活かす中で成長している。提供するECシステムとミドルウェアとなるOMOソリューションはその中でも、「売」に相当するところだろう。売り場を最大化するための商品の陳列である。彼の核なる部分「在庫」をベースに、システムを構築して、AMSの価値を引き上げたのは、手堅い。来るネット時代に備えて、この会社にジョインして、彼が手腕を発揮したのが2012年のことである。
2.AMSの仕組みで、アパレル店員がかつての“村井”体験をしていく
いかにその視点が先駆けであったのかは、お分かりだろう。今でこそ、リアルとネットを繋いで、シームレスに在庫を管理していく発想はもうこの段階で、彼の頭の中では存在していた。彼自身が、鈴屋でやっていたように、在庫を的確にコントロールすることで、店は最大級の売り上げを作ることができる。
流石に村井さんのレベルまで緩急を上手にできるかは別。だが、村井さんを“疑似体験”できるだけの武器をシステムによって、全国のスタッフに提供してきたわけだ。自ずとスタッフの意識が変わる。必要な在庫をどれだけ仕入れて、売りつつも、機会損失を作らずに利益を生み出すか。それを味方につければ、結果が出る。
村井さんが「売り場まで通っていた」という話が先程あった。同じように、AMSの社員も売り場を大事にする。システム側と販売側に溝が生まれがちだからこそ互いに寄り添い、ギャップをなくした。それはより多くの企業に提供できるようにと、それを共通化させて、今に至る。コロナ禍で多くの企業が救われたのは、AMSの社員のここまでの頑張りによるところだ。
3.現場に入り込むことは当時の村井さんと今も変わらず
自分流に切り開いてきた村井さんだ。月並みだけど、小売が今後、大事すべきことは何かと聞いてみた。すると、彼は自らの歴史を彷彿とさせる未来の提示をしてくれた。彼が初期、大手企業から仕入れてから売るまで、相当な時間を要した。けれど、望む商品とお客様と距離感を縮めていくことが大事だとその働きかけをしてきた。
故に今で言うなら、生産と物流の距離をいかに縮められるかだと言う。昨今、話題の「SHEIN」では提携工場をいくつも構えている。その中で、大事なのは製造内容に合わせて、うまく棲み分けしながら、発注をしていることだと。アメリカで売りつつも、その工場は中国がベストだと判断したのは、その地域や土壌を含めて、工場のバックグラウンドがわかっているからで、これは大きいと。
どの工場が何にどれだけ強いのか。それが分かればリードタイムが減少し、それがトレンドやニーズを逃さず、適量生産できる。あとは連携するハブとなる物流環境を整えれば、お客様の感覚と商品との間のギャップがほぼなくなると。サプライチェーンマネジメントである。
不思議な話だけど、彼がお客様の元へ足繁く運んで、お客様のニーズと売り場の提案、そして何より商品がずれないようにしてきたこととオーバーラップする。それを最大化するには、何を削るかであり、それで必要なのは、お客様を知ることである。今も昔も人の心を動かす本質は普遍的である。
今日はこの辺で。