相次ぐ物流費の高騰 EC事業者同士で共同物流するのが急務な理由 野村不動産 Techrumに想う小売予想図
「EC事業者は本腰入れて、物流コスト軽減策を考えるべき。それは、物流費の高騰に手も足もでなくなるから。そこへの対処として、事業者側で立ち上がって、物流でまとまることが、必要になる」。そう熱っぽく語るのは、リンクス代表取締役 小橋重信さん。彼に促されるように、やってきたのは習志野。野村不動産が手掛ける「Techrum」というサービスの拠点である。確かに、ここ集まるような物流リソースを活用して、事業者は企業の垣根を越えて、事業者同士生産性を高めて、コストを抑えることが必要かもしれない。
不動産会社が立ち上がる意味
彼の言葉を整理すると、まず野村不動産がそのサービスを手掛けているというところがミソである。つまり、物流会社ではなく、もっと大きな枠組み、不動産会社がそれをやっていること。
というのも、物流会社はどうしても、個々の荷主の要望に応えることに手一杯。語弊を恐れず言えば、だからなのか、自ら新しい提案をするべく、物流会社自身が投資をして、新しいリソースで事業者の課題を解決しようという動きはあまり見られない。まして、荷主が物流に投資することは、大企業を除けば、まだ珍しい。
一方で、不動産会社は、土地の価値を向上させる会社ではある。けれど、そこに物流に関する施設を自ら立ち上げ、その土地の価値を高めることができる。それも、個々の物流会社では解決し得ない、物流リソースを集めることで、利用を促せば、差別化要因となりうる。だから、野村不動産は「Techrum」というサービスを手掛けているのだろうと思った。
「Techrum」は、倉庫内の作業とその周辺業務に目を向けた。というのも、実際、物流の新しいソリューションを取り入れようにも、選択肢が多すぎるからだ。また、自社の扱う荷物やオペレーション方法をどう改善するかの過程で、そもそも、それを進めるには、どんな考え方が必要なのかがわからない。
だから、なかなか、結局、導入に至らないのであって、そこに応えようという事なのだ。
広く実験段階のものも含めて集めて挑戦できる環境を
つまり、物流の生産性を上げる為の“新たな”投資ができないからこそ、それを率先して、彼らが取り入れ、活用してもらおうというわけである。故に、彼らは、実験段階のものも含めて、広く、それらの物流に関するリソースを「Techrum」というサービスを通じて、ここに集結させるわけだ。そして、この場で、解決できていない部分に道筋を示し、この場所を使ってもらう機会を創出する。
この日、説明会にも参加させてもらったが、集まっているのは、大きく分けて2つのどちらか。一つは、荷主。そして、荷主企業に代わって物流システム構築の提案を行う、サードパーティーロジスティクス(3PL)。要するに、物流会社である。
これに関連して、リンクスの小橋さんは、語るわけだ。これまでは、大手企業の荷主が中心にこれらを検討していたけど、中小企業もこういう新しいリソースを活用して、物流コストを見直す必要がある。それが2024年問題への一番の対処法だと。
ここからは、EC事業者にはマニアックな話になるだろう。だが、敢えて、幾つかそのソリューションに関して、ここで触れたい。それを踏まえ、これを通して店がどう、必要な課題に答えるか。それについて、言及できればと思っている。
例えば、こんな梱包作業の改善
例えば、TANAXは「梱包作業改善」を提案している。彼らは『Just fit BOX』というダンボール自動製造システムを持っている。段ボールの中に入れる商品とジャストサイズで梱包を早く行える。つまりそれは、緩衝材を極力、使わずに済ませることができるのと、無駄なサイズではない分、運賃を抑えられる。
その元となる段ボールのサイズは、スキャンパックテーブルで測定する。テーブルの角に商品を置くだけで、縦横高さをスキャンできるから、あとは箱の形状を決めて、スタートボタンを押すだけ。すると、すぐに、適切な段ボールができてきて、適切だから、誰がやっても務まる。作業効率がいいから、人件費も抑えられる。
わかるだろうか。事業者単位で、そういうコスト軽減に向けて意識を向けていかなければ、ならないように思う。そもそも、配送運賃がこれから格段に向上する中で、こういう面でやりくりしないと、お客様にこれまで以上のサービスを提供できないというわけなのだ。
実際に、TANAXによれば、長尺ものの商品を扱う事業者がこの仕組みを使った。その結果、年間2000万円ものメリットが出たというのだから、驚きだ。
商品ごと、大幅にコストが抑えられる箇所がある
考えれば、もっともだ。長尺ものだから、ひとまわり大きなサイズのダンボールで梱包していた。商品に対してサイズが大きいし、それを埋めるべく、緩衝材を多く使う。おまけにサイズの分だけ、運賃も高くなる。それらをこの機材一つで解決したわけだから、金額に置き換えれば、そうなるのも納得だ。
例えば、こちらは、シーネットの音声システム。ピッキングに関連して、指示を受け取るのに端末は使う。ただ、それはあくまで指示を受けとる為だけ。だから、端末はポケットに入れておく。それで、受け取った指示は、首から下げるスピーカーから発される。
だから、スタッフは画面を見ることなく、音声にだけ耳を傾けるだけで良いというわけだ。
それだけで作業に無駄がなくなる。正しいロケーションでその場所のバーコードをスキャン。商品名が音声で読み上げられ、商品をとってスキャンすると、その必要なピック数が音声で指示される。また、手にスキャナーがついている。だから、両手を使って数を集められるので、その分、時間が軽減される。
どれも些細なことである。だが、こまめな時間の短縮やスタッフの作業の軽減でも、出荷数が増えれば、それも変わる。塵も積もれば山となる、である。その「些細」は膨大な時間と作業量に置き換えられ、一気に軽減される。
見落としがちな個々の可能性
これが最初に話した小橋さんの文脈とも一致する。一つ一つは「ふーん」で済まされる地味なもの(失礼!)である。だがトータルで言えば「2000万円のメリットが出た」などの話があったように。要は、ある程度、EC事業者が自分たちの商品特性に従い、効率化を図れるはずなのだ。
物量が増えれば、それはかなりの金額となるから必要。だが、個々の企業が負担するのは、そこへの投資はあまりに大きい。だから、野村不動産の藤﨑 潤さんが、中小企業に対してこう提案をするわけである。
これまでTechrumの価値を実感してもらっていたのは、大企業である。それは、かなりの出荷数を誇るから、小さな技術革新であっても、それが自分たちの粗利の向上に大きく直結するからだ。ただ、昨今、2024年問題を前に、物流に関連する費用が向上するのは、避けられない。であれば、中小企業も改善できるべきは改善した方がいいのではないか。そう説き、こう続ける。
確かに、中小企業の出荷単位は大企業には及ばない。けれど、それをある共通軸で括って、まとめて、共同で物流を機能させれば、そのコスト軽減の恩恵を受けることができる。それが彼の提案の核心である。
なるほど。互いにその物流ソリューションを持ちあえばいい。例えば先ほどの長尺など、同じ特徴を持った店舗同士がまとまって、そのリソースを活用すれば、いい。それだけで、間違いなく、個々のコストが大幅に軽減する。
共同配送に倣い物流現場も共同で
一時、小さなスタートアップを対象にオープンロジが脚光を浴びた。つまり、物流のルールを予め、オープンロジ側が決めて、ある程度、その条件に事業者があわせてもらう。共通化することで、オープンロジが自動化できて、物流コストを抑えられ、それが、スタートアップへの恩恵を生むわけだ。その分、また、そこにかけるコストを考えなくてよいので、自分のブランディングに打ち込められて、今やそれは定着した。
ただ、野村不動産の話は、それよりは成長した中規模の事業者に対してである。ある程度、店の個性がお客様に受け入れられ、倉庫業務でカスタマイズの必要性が出て来た企業こそ、そこで効率化できるはずなのである。
そもそもの話として、小橋さんは、こんなことを言い出した。
ロボットを集めてやれば、今の金額の8掛けでできるといわれる。例えば、ピッキングは、ロボットを使えば、人間の10分1の時間でできてしまう。梱包も一人当たり、1日平均60個と言われる中で、機械を使えば、600個はできてしまう。作業単価を見て、それを時間で割るとすれば、何分の1かになるのが当たり前。
「使わない手はない」だから使えるように共同で
これらのリソースを使わない手はない。小橋さんが、そう言い切るわけだ。ただ、大企業とは違って、例えば、モールなどに出店する中規模店舗は、そこまでの物量がない。だから、そこは手を取り合って、ということになる。野村不動産の藤﨑さんがいう通り、まとまって共通軸で出荷する体制を整えれば、いい。そうすれば、個々の物流コストは軽減できて、2024問題で間違いなく高騰する物流コストは、同じく物流によって違う側面から改善できる。
最近、コンビニの共同配送など、企業の垣根を越えて、取り組むようになっている。その波は、中小企業にも及ぶようになっていくのだろう。何故なら、繰り返しになるが、他でコストがかかるのだから。今一度、店舗側も手を取り合うべきではないか。共通して活かせる物流リソースは何か。それを、企業の垣根を越えて、使うことができれば、そもそものコストが抑えられるのだから。
かけるべきコストを下げようとするのではなく、コストを下げるべき箇所に目を向ける。今まで、他人事に思われていた物流に関して、今こそ見直し、自らのビジネスチャンスと捉えるべきである。お客様の満足度を高める健全な企業の未来は、店舗が自ら、手を取り合って、踏み出せるかどうかにかかっている。
今日はこの辺で。