リアルの買い物の様に現実的で 人々の気持ちに直接的 GMOメイクショップの変わらぬ情熱と変貌
その会見は、自らを振り返ることから始まった。けれど、そのポジティブな姿勢は今も全く変わっていない。僕はGMOメイクショップの戦略発表会に出席した。その変わることのない前向きな姿勢を感じつつも、責任感ゆえに、守りに対しての配慮も感じさせるものでもあった。
メイクショップ が描く次世代ECの原点
1.ECの歴史を紐解く
自ら振り返る。それは、代表取締役CEO 向畑憲良さんが、マイクを握った。彼は、ECの歴史そのものを振り返るところから始めたのである。
遡ること、ECの夜明けは、1994年、三井物産のキュリオ・シティだと、説明する。その後、楽天市場が始まったのが1997年。その後、検索エンジンのYahoo!JAPANがショッピングモールを開設し、まさにここがEC黎明期である。この時代においては、モールが先んじてECにおける存在感をあらわしていた。
自社ECにおいて日本で先鞭をつけたEストアーが創業しているのも見逃せない。向畑さんは素直に、自社ECの先輩的存在と讃えた。可能性があるか未知数な中、チャレンジする勇者達の体温をこの年表に感じる。
2.創業当初の情熱と想いは今も変わらず
「ECをもっと多くの人にとって手が届きやすいものを」。その中で向畑さんが思っていたのはそれである。つまり、モールが存在感を出す中で、彼は「オウンド系のECの必要性」を早くから、主張していた。そんな想いとメイクショップのスタートは直結しているのだ。
思いがけず、彼は創業時のことについても触れた。今の「メイクショップ」の元となる自社ECの考え方を持ち、韓国でそれを実践していたのが、コリアセンター。その代表に向畑さん自らメールを送ったのは、今から20年近く前の話であり、それこそが、日本でメイクショップが上陸するきっかけ。今ではもう、メイクショップは日本独自の仕組みとなって、世に浸透したのだから、その一歩がいかに大きいか。彼のパッションを感じさせるエピソードである。
周知の通り、メイクショップはGMOとの業務提携などを弾みに、積極的な投資を行う。そして、彼のいう世界を実現した。描いたその考えが正しかったのは2012年にGMVでNo.1となったことが何よりの証拠だ。当初から自分達の売上ではなく、自分達の仕組みで展開しているお店の流通総額で、日本一となることを思い描いていたから、この時の達成はさぞかし感慨深かっただろう。
3.ECの存在意義
一方で、この頃、向畑さんは東日本大震災が起きた際、ECの意義を痛感したという。一度は打撃を受けた売上がわずか数週間で、元の数字に戻ったからである。リアルの影響を最小限に食い止めて、事業者を救うその様子に自らの事業に自信を深めたという。
そんな時代を超えてメルカリの登場でCtoCが台頭。企業どころか、個人もECにトライするようになって裾野が広がる。だから、この頃、10分あればECを開設できるインスタントECと呼ばれる『BASE』『STORES』が出てきた。ECが徐々に人々にとって自らの可能性を生かせると気づき始めた。
4.もっと自由に多様性のあるECへ
誰もができて、誰もがそこに価値を感じて、ECができる時代。インフルエンサーにより商品の魅力が伝えられ、ECで実績を積み上げていく。D2Cといって、もはやリアルのお店を持たずして、お客様とダイレクトに意思疎通を交わして、商品を販売できるようになった。だからこそ、その変化を目の当たりにして、向畑さんは今も先を見越している。メイクショップ大変革の必要性を説く所以だ。
例えば、もっとECは色々な表現力を身につけられるということ。同じような風に見えるスイーツも、その伝え方次第で、全く値段が違っていたりする。つまり、表現力を磨くことで、商品が多様性を持たせて、多くの人に浸透する可能性があることを挙げたわけだ。
さらに、彼曰く、ECが存在するのに、リアル店の方が買いやすいと思うことが少なくない。つまり、直感的で、触ったり感じたりするようなリアルの感動に近い体験がまだECでは訴求できていない。そこの部分から根本的に変えていく必要性がある。
今、メイクショップが見ているのは、まさに2004年当時、誰も自社ECがここまで、浸透するとは思えない中で、主張していたあの時と変わらぬ、変化に対するパッションである。
着々と今にふさわしい土台固め
1.EC業界を俯瞰してみる
さて、続いて語ったのは、常務取締役COO 古屋智久さんである。未来を描く上での同社の立ち位置などを俯瞰して説明したわけだ。EC業界を見渡してみると、大きく4つの束で考えられる。
- ・SIer(より全てをカスタマイズして作る)
- ・パッケージEC(標準装備されているが、それを礎にエンジニアとオリジナルを作る)
- ・高性能ASP(基本、標準装備されているものを活用)
- ・低価格ASP(0円カート)(個人でも始められる安価で簡易なリソース)
GMOメイクショップ社がすでに提供しているのは、『メイクショップ』のような高性能ASPと、『GMOクラウドEC』というパッケージECである。よく僕は(わかりやすいかどうかわからないが)それを車に例えている。パッケージECはマイカーのようなもので自分の車だから自由にできる。一方、高性能ASPがレンタカーで常に新車に乗れる。
それはさておき、その市場規模は、SIerが890億円、パッケージが470億円、高性能ASPが260億円、低価格ASP(0円カート)が150億円という具合である。
2.来たるEC全方位時代に備えて
つまり、自らはその二つを軸に、上下にそれをもっと柔軟に対応させていく。その根拠として、先ほどの向畑さんの話がある。言うなれば、それがEC利用者にも事業者にももっと多様性を持たせるための仕組みになろうということ。
具体的には、toHight toWide戦略と言っている。既に先ほどの「GMOクラウドEC」はもとより、GMOシステムコンサルティングが扱うシステムだが、合併。retroからもEC受託サービスを事業譲渡されている。SNS系に強みを持つライスカレーなどに出資を行うなどして、より柔軟性を持たせたEC運用を行えるように土台づくりをしてきたわけだ。
勿論、サイト構築に始まり、マーケティング、CRM、ペイメントとコンサルティングという具合に、様々な強みを持った企業とも、メイクショップが連携して、多様性のあるECサイトを作れるようにしている。
一丁目一番地メイクショップの大変貌
1.大元を作り替える
ここまできて、彼らは根本からその仕組みを見直して「次世代EC開発プロジェクト」に着手するわけである。ここからは石井貴さんにバトンタッチして、その説明が始まった。
今の仕組みは18年、運用してきたものだから、先ほど触れたような、直感的で柔軟性のあるサイトを作るためのリソースとしてはまだ不十分。積み上げたジェンガのように崩れそうでもある。それゆえ、慎重にそのリソースを上書きしていかない限りは、それができないこともなくはなかった。だから、もっと大胆に思い切った動きが迅速にできるようにと、その大元の仕組みを完全に作り替える決意をしたというわけである。
つまり、売り場もより直感的になっているから、操作もそうでなければいけないということなのだ。例えば、小売業とは言いながら、売るだけではない。お客様との接点である物流の強化は顧客満足度に直結し、必須である。例えば、それを自然にそれが必要だと直感的に感じさせて、そのリソースと紐づけるUIではなければならないということだ。先ほどの古屋さんが話していた連携などが、石井さんのいうそういう柔軟性を持った仕組みに活きる。
そして、アプリストアを作って、開発者が自由にアップロードして、店はそれを個々の店の特徴に合わせて使える場所を用意するという。
2.変化を実感している店舗も
その転換はあらゆるところに及んで、今、もう成果を出している店舗も存在している。例えば、インフラを既に一部、AWSに徐々に移行していて、それゆえ、知らず知らず売上が向上していたというのである。それをもう店舗から喜びの声として寄せられたくらいである。
つまり、セールを行った際に、急なアクセスが発生。それに対しても、負荷がかからず、そのまま、販売し続けることができた。おかげで、ECサイトにおける機会損失を防いで、売上向上に寄与したのである。それに象徴される様に、彼らがこの刷新で意図しているのは、知らずにそれが作り替えられていたという状況を作れるかだ。また、それこそが冒頭に、僕が話した攻めの姿勢を見せつつも、守りに対しての配慮を感じさせるものであったというわけである。
3.管理画面が心地よく
先ほどの直感的、という部分はシステム上で反映される。彼らは管理画面も刷新することを明らかにして、その具体的な中身も見せてくれた。ダッシュボード形式で見やすく、情報も豊富になり、検索もしやすくなる。操作も、まとめて編集ができたり、一覧画面でここの商品の編集ができる。利用者想いの設計へとドラスティックに変わっていく。
実際、「変わること」に抵抗を感じる店舗も少なくない。ただ、ここも繰り返すが、自然に変わっていたと思える状況を作り出すために、メイクショップは注力するのである。いつの間にか、以前よりやりやすくなっていて、違和感なく移行でき、結果、店舗の負担を軽減しているわけだ。
4.変わらぬ情熱と大変革の根本的仕様
変な話であるけど、いい意味で、彼らは変わっていない。向畑さんが創業当初に、感じていた「誰にとっても使いやすいEC」という根本は何ら変わらない。使いやすいの意味は、お客様と事業者の両方だ。そして、よりドラマチックなネット上での購買体験は、自社ECでこそできるという思いを持って、新しい1ページを開くのである。変わらぬ彼らの礎。それを推進しようとするほど、お客様、事業者とのタッチポイントは、より魅力的に、時代とテクノロジーの進化によって変わっていくのである。
まるでリアルの現場でショッピングをするように、あるいは人々の気持ちをリアルよりもダイレクトに感じて購入できるように。
最後に、個人的に興味を持ったデータが、全国各地の流通総額に関してのものであった。まだまだその数字を見ると、地域差が生まれていることがよくわかる。
まだ多くの人にとって寄り添えていないわけだ。この薄い部分こそ、伸び代である。今こそ、もっとリアルに近づき、リアル以上の価値を各々の地域で訴求すべき時。ここを触発することで、実はECが真に、日本の活性化の担い手たりうることを証明できる。向畑さんが、最初に話していたその買い物をもっと身近にという思いは変わらず、でも進化して、ドラスティックに変わろうとしているのだ。
今日はこの辺で。