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老舗の百貨店「高島屋」リアルな店舗を飛び出して、いざ「バーチャルマーケット」へ参戦。

 レンズ越しに、空を見上げると「Takashimaya」というお馴染みのロゴがある。「あっ!」その背後には花火が浮かび上がり、うっすらバラの模様が視界に届いて、声を上げる。ここは、VR法人HIKKYが手がけた「バーチャルマーケット2023 Winter」というVR空間。目の前に聳え立つのは、正真正銘、老舗の百貨店の「高島屋」なのである。その組み合わせが、なんとも今という時代を象徴している。

「バーチャルマーケット」が作った世界

1.VR法人の地道な積み重ね

 僕は、この日、HIKKYの会議室で、ヘッドセットをつけて、その光景を見ていた。人生初のVR空間を散策した、最大の目的は「高島屋」を見てみたかったからだ。リアルの会議室で、横には高島屋の営業本部企画宣伝部木島さんがいて、時折、デジタルを見ながら、その案内をしてくれる。なんとも不思議な光景である。

 「VR」とは「Virtual Reality」の略で「仮想現実」。そして、「バーチャルマーケット」というのは、VR空間上に広大な“街”を作成し、そこで期間限定で開催されるバーチャルイベントである。そもそもの話をすれば、VRChatというプラットフォームの上に、HIKKYが作り上げたマーケット。VRChatはアメリカの会社が作り上げた。だから、そもそもの利用者に海外の人が多く、最初からグローバルな土台ができている。

 ただ、HIKKYが素晴らしいのはここで独自の価値観を作り上げることで、日本人を主として、クリエイティブな集まりを形成したこと。日本に関心がある海外の人も来る。だから、VRChatが日本用にサーバーを作ったくらいなのである。

 さて、論より証拠だ。

 ヘッドセットをつけてみると、自分の目の前に、リアルさながらのデジタルの“街”が広がる。その没入感たるや、全く今までにない経験。見て触って、飛び跳ねて、散策できる。

2.街に人と企業と創造がある

 「バーチャルマーケット」は広大で、いくつもの会場が用意されている。その各々が、きちんと区画されていて、ブースがあり、サークルと呼ばれる単位で、クリエイターが自ら制作物の発表などもしている。それだけの見せ場があれば、人は集まり、それは多くが交流で楽しむ場所として、定着。言わずもがな、人々の熱狂はこの場所の価値となって、企業もまた、ブース出展をすることが定番となった。

 「バーチャルマーケット」の開始は遡ること、2018年。最初こそ、出展・協力企業IP数はわずか2。しかし、その数は回を重ねるごと伸び、「バーチャルマーケット2023 Winter」では過去最多の85以上。だから、当然、来場者も増える。

 過去の実績としては2020年4月29日から12日間、「バーチャルマーケット4」を開催した際、延べ約100万人を超える来場者数を記録した。それ以降、毎回100万人以上の来場者数を誇っている。(VRChat社協力による算出)。

 先ほど、少し触れた通り、独自の価値観を築いたことと、そしてそれが世界に受け入れられたこと。それが大きい。VR機器はもちろんPCからでも24時間、アクセス可能で日本はもとよりアメリカ・韓国・ヨーロッパ諸国など世界中から来場者が集ったのである。

 ヘッドセットがあれば没入感が高いが、なくても世界は堪能できる。ネットの価値をフルに活かして、今の勢いに繋げている。

3.いざパラリアルロンドンの世界へ

 その世界を見ていて、改めて老舗の「高島屋」が着目したものだなと感心する。年々、メタバース市場が拡大している中、デジタルを活用した新たなマーケットとしての可能性を感じ、高島屋という屋号を掲げ、独立したブースを構えての出展に至ったのである。

 さてさて、満を持してパラリアルロンドンに、彼らの世界観が生まれた。ロンドンの中心部。地下鉄のホームがあり、出口に向かって歩いていくと、ファンタジックなロンドンに出る。

 ヘッドセットを付けると、街の方から自分に迫ってくるほど、臨場感がある。実際に歩いていくには無理がある。だから、コントローラーを手にして、全身、方向転換、ジャンプに至るまで、そこで操作して先へ進むのだ。それを使えば、実際にそこに並んでいるものも手で掴むことすら、できるのだ。

 少し話が逸れるが、街はそれ以外にもある。パラリアル沖縄や、パラリアル渋谷、原宿も存在する。渋谷、原宿に至ってはリアルの施設を巻き込み、連動してリアルの渋谷・原宿でもイベントを開催するという。一つの都市では収まりきらない規模なのである。言い換えれば、それだけの人が来るわけで、その回遊の末、高島屋にも来る。これらは、リアル店では到底、得られない利点である。

ヘッドギアのその先に老舗百貨店

1.高島屋の新しい顧客接点

 さて、高島屋のVR空間の中の話に戻ろう。上空には、煌々と輝くロゴ。そして空の彼方で花火が上がり、手前でも、バラの花火が上がる。バラ???そうか、高島屋のバッグを連想させる。

 そして、ブースに入って、パッと浮かび上がるのは日本地図である。

 「なんだろう?」そう駆け寄ると「この場所を産地とするお酒があるんです」と木島さんはいう。確かに近づくと、日本各地にピンが刺されていく。

 「今回、日本の国産のお酒を紹介しようというコンセプトにしていて、産地が視覚的にわかるようにそのようにしています。そのピンに「直に」触れると、実際に、その場に陳列されているお酒に光が当たります。すると、上にはモニターがあるので、そこに、産地のお酒の情報が出てきます。」

 なるほど。列島とお酒一体で、流れるような演出がそこにはあるのだ。

 実はこれこそが、「高島屋」の取り扱うお酒の銘柄から30種だけを厳選したもの。中には、リアルのお店ではなかなか手に入らないものもバーチャルマーケットでご紹介するために特別に用意したとのこと。

 彼らは、お酒の詳細を伝えるだけではなく、自社のECサイトに飛べるようにしている。ボトルが陳列されている下には、プライスカードがあり、Buyを押すと、ブラウザが立ち上がり、ECサイトへ。要するに、リアルでは、発信しきれないプロモーションの一つと位置付けていることがわかる。

2.リアルで伝えきれない価値と体験を

 彼ら曰く、基本、オンラインサイトや店頭が商売の場所になる。けれど、そこでは持てない接点の人々が、ここにはいるというのだ。「バーチャルマーケット」というのは、自分たちがアプローチできない層が集まる。だから、そういう方々に、まずはこういう拠点を通じて、高島屋はこういうものも売っているんだと実感してもらいたいと木島さん。

 さらには、お酒の診断も入れて、お客様が自発的に、接点を生み出しやすい工夫も忘れていない。こんな楽しいこともやるんだね。そう実感してもらう狙いがあるからだ。

 先ほどにも少し触れたが、30種類のお酒はラベルがついて、地図の横の棚に、陳列されている。それぞれのボトルも、ギミックで持つことができる。HIKKYの方々に操作の仕方を教わって「ああ!お酒を持てた!」とはしゃぎ、取り乱す僕。(苦笑)。

 360度、回して楽しめ、体験である。だから、ラベルにも個性があって面白いと気づく。そうやってボトルを手にした自分のアバターで記念撮影もできる。

 その写真はブース上部のモニターに再現する。それこそ、バラの花火と一緒に収まれば、それが拡散的効果を持つ。

 12月9日には、アバターに扮したバイヤーが接客するイベントを開催する。このバイヤーこそがその厳選にも関わっていて、存分に酒のこだわりを対話で実感できる。わかるだろうか。デジタルと言いながら、メタバース空間は、より人間的であることに価値があるわけだ。

高島屋の真骨頂

1.今まで培ってきた価値を注ぎ込む

 そして、高島屋は、多種多様な価値が集まるバーチャル空間の中で、自分たちの築き上げてきた価値を発信することの意味を語るわけである。

 それも、「世界に対して」である。

 その証拠に「高島屋」は今回のブース出展を『SAKE祭』と銘打っている。もはや「SAKE」というキーワードは世界に定着している。厳選したお酒も、全て日本国内にしているのは、それこそが、長年培ってきた、自らの価値を活かせることだと踏んでいるから。

 お客様とともに、受け入れられてきた誇りある日本のブランド。それらを今こそ、世界に向けて発信することで、彼らは過去を重んじつつ、未来を思い描いていける。

 実際、百貨店といえば化粧品などもある。年末年始でお酒を飲む機会が多い。バーチャルマーケットのユーザーには男性が多く、家飲みが増えているので、それらを鑑みてのこと。バーチャルを捕捉するリアル体験というのが面白い。

 「VRを楽しむ人はこの街を散策しながら、つまみ片手に、家飲みをする傾向が高いんですよ」。そう、HIKKYの育良さんも教えてくれた。そうやって街の雰囲気をうまく自分たちの価値と掛け合わせる。だから、相応しい化学反応を起こせるというわけである。なるほどなあ。

2.長年培ってきた価値

 もはや、百貨店は「場所」だけではなく「価値」を重んじていく時代なのだ。

 今までであれば、百貨店という場所に多くの人を集めることから始まった。そして、その中で全てが完結するようにしていくことに、重きが置かれていたように思う。でも、実は、彼らはそうやりながら、「価値を創造してきた」のだ。

 お客様との関係を深く築き上げ、それをフックに、多くのメーカーや専門店など、企業と一緒に、良質な価値観を醸成してきたわけである。それらの「価値」は、外に持ち出しても遜色ない。

 それがわかった時に、大事なのは、全てが自前でやらなくてもいいという割り切りだ。

 自分たちの価値を活かす土壌を探るべく、常にアンテナを張り巡らせる。良い意味で外にある要素に乗っかって、そして、その価値を活かす土壌においては、内製ではなく、その専門家に委ねるわけだ。

 ここでいうなら、高島屋はそのコンセプトを伝え、ブースづくりはHIKKYに任せている。HIKKYはバーチャルマーケットに集まる人の感性を取り入れながら、自ら形成する街とそれらのブースの調和を図る。そうすることで、出展企業のその価値を最大化させる。高島屋の場合、9月に作り始めて12月に出来上がるスピード感である。

 場所に依存することなく、価値とは何か。今後、高島屋においては、お酒に限らず、どんな価値を以て、バーチャルの世界で人を魅了してくれるのか期待したい。

 今日はこの辺で。

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