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変わらない価値のために、何を変えるのか──KDDIとユニバーサル ミュージックが語る、AI時代の人と社会のつなぎ方

 通信会社と音楽会社。一見すると、まったく異なる事業を営む二社。だが、AI時代をどう生きるかという問いに対して、共通する考え方を示していた。2026年10月27日、「KDDI SUMMIT 2026」の基調講演に登壇したKDDIの松田浩路社長と、ユニバーサル ミュージックの藤倉尚社長。二人の話から見えてきたのは、テクノロジーが変わっても、企業が大切にしてきた価値そのものは変わらないということだ。

 変わるのは、その価値を届けるための方法である。通信と音楽、それぞれの歴史と新しい挑戦を通して、企業が時代に合わせて進化することの本質を考える。

AIが合理的に選ぶ時代、人間は何を理由に選ぶのか

 まず、松田社長の講演は興味深い問いかけから始まった。

 これからAIエージェントが普及すれば、買い物やサービスの選択をAIが代行する場面が増えていく。

 例えば、AIがさまざまな金融機関を比較して、今より条件のよい銀行を見つけたとする。そして、合理的な判断に基づいて、長年利用してきた銀行の預金を移してしまったらどうだろう。

 数字だけを見れば、間違った判断ではないかもしれない。しかし、長く付き合ってきた安心感や愛着は、そこに反映されているのだろうか。

 もう一つ、松田社長が挙げた例が印象的だった。

 大好きなアーティストのファンクラブに入っているのに、最近ログインする回数が減っているという理由で、AIが無駄な支出だと判断して解約してしまう。

 そんなことをされたら、たまったものではない。

 なぜなら、人間にとっての価値は、数字だけでは判断できないからだ。

 人は必ずしも合理的な理由だけで商品やサービスを選んでいるわけではない。長年の信頼関係があったり、何かの思い出があったり、その人や企業を応援したいと思っていたりする。

 松田社長は、こうした心を動かす体験こそが、AI時代になっても変わらない大切な要素だと説明した。

 ただし、その体験を生み出すための方法は変わっていく。つまり、人の心を動かすことの重要性は変わらないけれど、そのために必要な仕事のあり方は、AIによって大きく変わるということだ。

 この考え方が、後に続くKDDIの事業戦略にも、ユニバーサル ミュージックの話にも通じていた。

AIが仕事を支えるほど、人間は人間らしい仕事に向き合える

 その考えを最初に示したのが、auショップの取り組みである。KDDIは全国に約2,000店舗の販売拠点を持っている。スマートフォンの機種変更や料金プランの相談など、顧客と直接向き合う場所だ。

 松田社長によれば、機種変更の際に、より上位の料金プランを選択する割合は、オンラインよりも店頭の方が約3倍高いという。単純に店頭であれば、高いプランを選んでもらえるという話ではない。スタッフとの対話を通じて、顧客が商品の内容を理解し、納得して選べることに、店頭ならではの価値があるというわけだ。

 そこで重要になるのが、スタッフの接客をどう支えるかということである。従来、スタッフは膨大な商品知識を覚え、接客の方法を習得する必要があった。しかし、AIを活用すれば、必要な情報を瞬時に調べることができる。

 実際、KDDIが導入した「AIセールスサポート」によって、問い合わせへの回答時間は8〜9割削減されたという。こうして商品知識を調べる負担が減ることで、スタッフは目の前の顧客と向き合うことに、より多くの力を注げるようになる。

 要するに、冒頭で松田社長が触れた、人間にしか発揮できない価値とは、こういうことなのだろう。その価値が顧客の納得や信頼につながり、結果として、より上位のプランを選んでもらえる理由にもなる。

 相手が何に困っているのか。どんな暮らしをしているのか。その人にとって、どの選択がふさわしいのか。こうしたことは、単に商品の情報を並べるだけではわからない。AIが合理的な部分を支え、人間が感情を通わせる部分を担う。その組み合わせによって、顧客体験を豊かにしていこうというわけだ。

 つまり、AIの導入によって何人分の仕事を減らせるのかではなく、人間が本来向き合うべきことに、どれだけ時間を使えるようになるのか。

 この視点に立つと、テクノロジーへの投資の意味も変わってくる。

通信の縁の下の力持ちが、社会全体のインフラへと広がっていく

 では、KDDI自身はAIによって何を変えようとしているのか。今回の講演から見えてきたのは、KDDIがこれまで通信で培ってきた役割を、社会全体へ広げようとしている姿である。

 通信インフラは、いわば縁の下の力持ちだ。

 スマートフォンがつながることは、もはや当たり前である。しかし、その裏側では、全国に基地局を設置し、通信品質を維持し、トラブルに対応するために、多くの人と設備が働いている。

 松田社長は、その通信品質の改善にもAIを活用していることを紹介した。基地局の配置や通信容量、電波の干渉など、通信品質を決める要素は複雑である。従来、膨大な時間をかけて最適化していた作業を、AIによって大幅に短縮できるという。

 その先にあるのが、大阪堺データセンターへの投資である。

 KDDIは、かつてシャープの液晶工場だった施設をAIデータセンターとして生まれ変わらせ、2026年1月に稼働を開始した。ここに高性能なGPUを整備し、AIの学習や推論を支える計算基盤を構築している。さらに、2027年度にはNVIDIAの次世代GPU「Rubin」の導入も計画している。

 なぜ通信会社が、これほどAIの計算基盤に投資するのだろうか。

 それは、AIが社会に広がっていけば、あらゆる産業で、そのAIを動かし続けるための基盤が必要になるからだ。企業がAIを使って新しいサービスを始めようとすれば、計算資源だけでなく、安定したネットワークや運用の仕組みも必要になる。

 つまり、KDDIは個人向けの通信サービスを提供するだけでなく、企業がAIを活用して事業を展開するための土台を整えようとしているのである。しかも、こうしたインフラは、一度提供すれば終わりではない。継続的に利用されることで、初めて価値を持つ。それは利用する企業だけでなく、基盤を提供するKDDIにとっても、継続的な事業の基礎になっていく。

 従来、通信網を社会の隅々に張り巡らせてきたように、今度はAIを使うための基盤を、さまざまな産業へと広げていく。これは通信事業からの転換というより、通信会社だからこそできる、縁の下の力持ちとしての進化なのである。

堺でAIを育て、社会で動かす。投資の先にあるもの

 また、この考え方は、自動運転やロボット、ドローンの事業にも表れている。

 例えば、KDDIは自動運転タクシーの開発を進めるnewmoと連携し、大阪・堺で走行データの収集やAIの学習に取り組んでいる。自動運転を実現するためには、車両が周囲の状況を認識し、適切に判断できなければならない。そのためには膨大なデータを集め、AIを繰り返し学習させる必要がある。

 そこで使われるのが、まさに先ほど挙げた「堺のデータセンター」だ。現実の道路を走行してデータを収集し、そのデータを使ってAIを育てる。さらに、AIが進化した車両を社会で運用していく。

 こうした循環を、KDDIは支えようとしている。

 ロボットの分野でも、新会社「ELYZA Robotics」を立ち上げ、2030年度までに研究開発へ300億円を投じ、300名以上の専門組織を構築し、1,000台以上のロボットを現場へ導入する目標を示した。また、ドローンではAlphabet傘下のWingと提携し、2027年中に一部地域でローソンの商品を含む食料品や日用品の配送開始を目指すとしている。

 つまり、AIそのものを売ることが目的というより、AIを使うことで企業が新しい価値を生み出し、その先にいる人々の暮らしを変えていくことに意味がある。

 これは、通信インフラを整えることで、社会の利便性を高めてきたKDDIの歴史とも重なる。そして、この話を聴いた後に登壇したユニバーサル ミュージックの藤倉社長も、まったく違う事業を通じて、同じことを語っていたのである。

音楽の130年で変わったのは、人との時間と距離だった

 藤倉社長は、ユニバーサル ミュージックが歩んできた約130年の歴史を振り返った。その話で興味深かったのは、音楽そのものの価値が変わったのではなく、音楽を楽しむための環境が変わってきたということだ。

 蓄音機からレコードへ。さらにCDが登場し、音楽を所有して、好きな場所へ持ち歩けるようになった。その後、ダウンロードによって音楽はデジタルになり、ストリーミングの普及によって、膨大な楽曲の中から好きな音楽を自由に選んで聴ける時代になった。

 音楽との接し方は大きく変わった。そして、その変化に合わせて、音楽会社に求められる役割も変わってきた。ここに、KDDIの話と通じるものがある。

 藤倉社長は、音楽会社の役割が、作品を届けることから、ファンとの関係を長く深く築くことへと変わってきたと説明した。従来のマーケティングは、商品を知ってもらい、買ってもらうために、いかに情報を伝えるかという部分に重きが置かれていた。

 けれど、今は違う。

「伝える」から「関係を育てる」へ。音楽会社の仕事が変わった

 アーティストが自らSNSで発信し、それを受け取ったファンが反応する。さらに同じ思いを持つファン同士がつながり、そこで新たな盛り上がりが生まれていく。いわゆる推し活の世界では、こうした関係性がとても重要になっている。

 好きなアーティストの曲を聴くだけでなく、その人の活動を応援し、同じ気持ちを持つ仲間と喜びを分かち合う。その積み重ねが、ファンであることの意味を深めていくわけだ。

 藤倉社長は、その中でグッズの役割についても触れていた。

 グッズは単なる物販ではなく、アーティストの分身のような存在だという。アーティスト本人と会っていない時間にも、ファンのそばにあり、喜びや安心を与えられるもの。そう考えれば、グッズの価値は、物としての機能だけでは測れない。

 ライブも同じである。

 音楽そのものはストリーミングで聴ける。それでも、人々はライブ会場に足を運ぶ。そこにしかない空気があり、同じアーティストを好きな人たちと時間を共有できるからだ。つまり、デジタルによって距離が縮まったからこそ、リアルな場で得られる体験の意味も大きくなっている。

 藤倉社長の話を踏まえると、原宿などで展開するポップアップショップの意味も違って見えてくる。商品を販売するだけでなく、アーティストの世界観を体験し、ファン同士が気持ちを共有できる場所を作る。

 音楽会社は、もはや作品を流通させるだけの存在ではない。アーティストとファン、そしてファン同士の関係が育っていく環境を作ることが、新しい役割になっているのである。

変わらなかったのは、才能を見つけ、その可能性を伸ばすこと

 ただし、藤倉社長は、130年の歴史の中で変わらなかったこともあると話した。それは、新しい才能を見つけ、その才能を育て、世の中へ届けるということだ。レコードがCDになり、ダウンロードやストリーミングへと変わっても、その役割だけは変わらなかったという。

 この話には、音楽会社の存在意義が凝縮されている。AIが普及すれば、音楽を制作するための技術や、作品を世の中へ広めるための方法は、これまで以上に身近なものになる。しかし、まだ世の中に知られていない人の才能を見つけ、その可能性を信じることは、単にデータを分析すれば済む話ではない。

 藤倉社長が紹介したMrs. GREEN APPLEのエピソードも、その象徴だった。まだ十分な実績もデータもない段階で、その才能に可能性を感じ、挑戦を支えてきた人たちがいたという話だ。

 そして、もっと興味深いのは、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴さんが、藤倉社長に対して放った一言だ。それは、

 「もっとワクワクさせてほしい」

 この言葉は、実に深い。

 アーティストの才能を育てるというのは、単に制作の環境を整えることではない。本人がまだ見たことのない景色を見せ、その想像力を刺激し、もっと挑戦してみたいと思える状況を作ることも、重要な仕事なのである。

 それによってアーティスト自身が成長し、その新しい表現によってファンも心を動かされる。その一方で、先ほどのポップアップショップのように、ファンがアーティストの世界観を体験できる場所も創出していく。

 つまり、才能を見つけ、育て、感動を届けるという本質は変わらなくても、そのためのアプローチは時代に合わせて変わっている。その変化を捉えながら、才能が輝くための環境を作り続けることこそが、これから重要になるのである。

二つの会社に共通していた、変わらない価値を新しい方法で届けるという思想

 こうして二人の話を振り返ると、KDDIとユニバーサル ミュージックが、実は同じ構造の中で事業を進化させようとしていることに気づく。

 KDDIが大切にしてきたのは、人々が安心して通信を利用できる環境を整えることだった。その役割は変わらない。ただ、人々が便利だと感じるものや、社会が必要とするものが変わってきたからこそ、通信の領域だけでなく、AIを通じてさまざまな産業を支えようとしているのである。

 一方、ユニバーサル ミュージックが大切にしてきたのは、才能を見つけ、育て、その音楽で人々に感動を届けることだった。こちらも、その役割は変わらない。ただ、音楽との接し方やアーティストとの距離が変わったことで、作品を届けるだけではなく、ファンとの関係を長く育てる仕組みが重要になってきたのだ。

 どちらも、時代に合わせて新しい事業を始めているように見える。

 実際、今回の講演では新たな取り組みとして、藤倉社長が「SCAN」を発表した。TBS、KDDI、ユニバーサル ミュージックの3社が連携し、YouTubeを活用して継続的に新人アーティストを発掘するオーディションプラットフォームである。

 約130年間、変わらず取り組んできた才能の発掘。その方法を、今の時代に合わせて進化させようというわけだ。単に新しい才能を見つけるだけでなく、その挑戦を支え、多くの人に知ってもらう機会を作る。まさに、変わらない価値を、新しい方法で実現する取り組みといえる。

 これもまた、変わらない価値があるからこそ、変わることに意味があるということの証である。通信と音楽。まったく異なる二つの事業の話が、一つの考えにつながった今回の基調講演。

 新しい時代に合わせて、自分たちの存在意義をどう形にしていくのか。

 その答えは、何もかも新しくすることではなく、変えてはいけないものを知っているからこそ、変えるべきものを大胆に変えていくことにあるのだろう。

 今日はこの辺で。

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