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AIを使いこなす人は、何をしているのか──孫正義氏が語った「スーパーヒューマン」の正体

SoftBank World 2026で、ソフトバンクグループ代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏は、AIがもたらす未来について、およそ1時間半にわたって語った。2040年には100兆個のAIエージェントが動き、10億体のヒューマノイドが働く。AI関連市場は世界GDPの20%を占め、年間7000兆円規模になる──。講演では、そうした壮大な未来予測が、次々と具体的な数字とともに示されていった。 

 でも、僕がこの講演を聞いていて印象に残ったのは、その数字ではなかった。孫氏は、「AIを使って何を商売にするか」を語っていたわけではない。

 「これから○○業界が伸びる」といった未来予測でもない。そうではなく、AIという時代の中で、自分は何をAIへ任せ、何に時間を使うべきなのか。その考え方そのものを語っていたように僕には思えた。

⓪スーパーヒューマンとは何か

 AI時代だからといって、自分の価値観や興味、得意なことまで変える必要はない。企画が好きなら企画をすればいい。営業が好きなら営業をすればいい。人と向き合うことが好きなら、もっとそこに時間を使えばいい。

 変えるべきなのは、自分ではない。時間の使い方である。

 そのために、自分がやらなくてもいい仕事はAIへ任せる。そうすることで、人間は自分の能力を、これまで以上に発揮できるようになる。

 孫氏が語った「スーパーヒューマン」とは、人間がAIになることではない。AIを使うことで、自分らしさを極限まで伸ばした人間の姿なのである。

① AIは人間を変えるのではない──自分らしさを、もっと伸ばすための道具である

 孫氏は、人間は好きなことまでAIに任せる必要はないと言う。営業が好きなら営業をすればいい。企画が好きなら企画をすればいい。起業したいなら起業すればいい。陶芸が好きなら陶芸を続ければいい。人間が本当にやりたいことは、そのままでいいのである。

 では、何が変わるのか。変わるのは、「自分がやる必要のない仕事」である。

 そこをAIに任せることで、人間は、自分が本当に価値を発揮できることへ、これまで以上に時間も能力も注げるようになる。

 だから、繰り返しになるが、スーパーヒューマンとは、特別な能力を持った人間ではない。AIという新しい道具を使うことで、自分らしさを極限まで伸ばした人間の姿なのである。

 考えてみれば、人類はこれまでも同じことを繰り返してきた。歩くより速く移動するために自動車を発明し、空を飛ぶために飛行機を作った。文明とは、人間を置き換えるものではなく、人間の能力を広げるためのものだった。そして今回は、その対象が手足ではなく、初めて「頭脳」になった。その意味で孫氏は、「スーパーヒューマンのクライマックスがここから始まる」と表現したのである。

 つまり、AI時代に求められるのは、自分を変えることではない。自分は何に時間を使う人なのか。その答えを持つ人ほど、AIの価値を最大限に引き出せるのである。

② AIエージェントは、人間から仕事を奪うのではない──人間の時間を取り戻す

 その考え方を最も象徴していたのが、「AIエージェント」の話だった。孫氏は、自分の知識や経験、考え方を学習したAIエージェントを持つ時代が来ると語った。

「どう思う?」

「これを進めておいて。」

 そう指示を出せば、自分の代わりにAIが考え、判断し、仕事を進めていく。しかも、その分身は眠らない。夜中でも、休日でも、自分が家族と旅行へ行っている間でも働き続けるというのである。

 この本質を辿るときに、ロボットを思い浮かべてみるとわかりやすい。

 これまでロボットは、人間がプログラムした通りにしか動かなかった。しかしAIエージェントは違う。目的を与えれば、自ら考え、必要な相手と連携しながら仕事を進めていく。つまり、鉄腕アトムなのである。

 だから孫氏は、2040年には100兆個ものAIエージェントが動き、人間同士ではなく、AI同士がコミュニケーションを取りながら社会が回る世界になると語ったのである。

 そこに生まれる現実は何か。それは、AIによって実行される大量の作業である。

 資料を集める。調べる。整理する。繰り返し行う作業をAIへ任せる。かつてなら人間が時間をかけてこなしていた膨大な作業を、AIが担うようになる。その分、人間は、人と会い、企画を考え、新しい挑戦をする。

 つまり、自分だからこそ価値を出せる仕事へ集中できるようになる。

 だからAIエージェントとは、人間の代わりではない。人間の可能性を広げるための「もう一人の自分」なのである。

③ AIを使う企業が強くなる──だから必要なのは「AIに投資すること」である

 では、その世界を実現するために、企業は何をすればいいのだろうか。孫氏は、「AIを導入しろ」と言って終わらなかった。AIが能力を発揮できる環境を整え、その成果を測りながら、継続して投資し続けることが重要だと語った。

 その象徴が、「ROAI(Return on AI)」という考え方である。

 AIへ投資した結果、生産性はどれだけ上がったのか。売上や利益はどう変わったのか。設備投資と同じように、AIも投資対効果で考える。そして、すぐに結果を求めるのではなく、3年程度の時間軸で育てていくべきだというのである。

 この考え方は、とても現実的だった。AIは魔法ではない。導入した瞬間に成果が出るものでもない。だからこそ、企業は試行錯誤しながら、人もAIも育てていく必要がある。

 一方で、孫氏はAIの光だけでなく、影についても具体的な数字を示した。

 最先端のAIを使って自社システムへ攻撃を試みたところ、ソフトバンクでは1500件もの脆弱性が見つかったという。さらに大企業63社を調査した結果、すべての企業で脆弱性が確認されたとも語った。だからAIへ投資するとは、便利なツールを導入することではない。AIを安全に使いこなせる環境まで含めて整備することなのである。

 自社にとって何をAIへ任せ、人間は何に集中するのか。その答えは、それぞれの会社が見つけなければならない。

 つまり、AIを導入することが目的ではない。AIによって、自社の強みをどこまで伸ばせるのか。そこにこそ、企業の競争力が生まれるのである。

④ AIの価値を最大化するのは、技術ではなく「ビジョン」である

 では、自社の強みを伸ばすために、何をAIへ任せ、何を人間に残すのか。その判断は、どこから生まれるのだろうか。

 ここで、講演の冒頭とつながってくる。

 孫氏は、経営者にとって最も大切なのは、ビジョンと戦略であると語った。そして、ビジョンとは「AIは大切だ」「これからすごい時代が来る」といった曖昧な言葉ではなく、期限と数字で示すものだとした。2040年に世界がどうなっているのか。

 自分たちの業界は、どのくらい変わっているのか。その中で、自社はどの位置にいるのか。そこまで具体的に描けなければ、今何をすべきかも決められないのである。

 だから孫氏は、「このAIを使えば儲かる」といった商売の答えを示さなかったのだと思う。

 業界も違えば、会社の強みも違う。そこで働く人の得意なことも、守るべき価値も違う。だとすれば、AIをどう使うべきかという答えも、会社ごとに違って当然である。だから孫氏は、最後まで「答え」を教えなかったのである。

 重要なのは、AIが何をできるかを知ることではない。

⑤「何を実現したいのか」を曖昧にしてはいけない

 自分たちは、AIを使って何を実現したいのか。

 そこが曖昧なままでは、どれほど高性能なAIを導入しても、できることが増えるだけで、価値は最大化されない。反対に、自分たちが目指す姿が見えていれば、AIに任せるべき仕事も、人間が集中すべきことも自然に決まってくる。

 孫氏は、15年後の自社の姿を、まるでタイムマシンに乗って見てきたかのように語れと話した。その未来から逆算して、5年後、来年、そして今、何をすべきなのかを決める。未来を当てることが目的なのではない。未来を具体的に描くことで、現在の行動を決めるのである。

 その先に現れるのが、孫氏の言う「スーパーヒューマン」であり、AIによって進化した企業なのだろう。

 AIを使いこなす人とは、最新のAIを知っている人ではない。自分は何をAIへ任せ、何に時間を使うのか。その答えを持っている人なのである。

 そして、その答えを導くのが、ビジョンなのである。

今日はこの辺で。

 

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