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「新規集客だけでは生き残れない」──AguがLINE活用でリピーター戦略へ舵を切った理由

人口減少が進む一方で、美容室の数は増え続けている。そんな厳しい市場環境の中で、これまでのように「新規集客だけ」で成長し続けることは、ますます難しくなっています。。「Hello Friends! W!th LINE ヤフー」SESSION2では、株式会社CHAINONエンターテインメントの坂口氏と、全国1,100店舗を展開するAguヘアを運営するB-first株式会社の鈴木氏が登壇し、美容業界の現状と、LINEを活用したリピーター戦略について語りました。印象的だったのは、LINEを単なる販促ツールではなく、「顧客との関係を積み上げる基盤」として設計していたことです。そこには、集客だけでは終わらない、美容室経営そのものを変えていく発想がありました。

「新規を増やせば伸びる」は、もう通用しなくなっている

 坂口氏が最初に語ったのは、美容業界が抱える構造的な問題でした。日本全体で人口減少が進む一方、美容室の数はこの10年で6.7万件も増加している。つまり、顧客は減っているのに競合だけが増えている状態です。その中で、美容室経営にはさまざまな課題が生まれています。採用難、人材育成、離職、デジタル化対応、高齢化、働き方の変化。課題は数え切れませんが、その中心にあるのが「集客」だと坂口氏は語ります。

 集客がうまくいけば、利益が生まれる。その利益を待遇改善や設備投資に回せる。働く環境が整えば採用力も上がり、サービス品質も向上する。結果としてさらにお客様が増える。そうした好循環が生まれる一方で、集客が止まると、その流れは簡単に崩れてしまう。

 これまで美容業界では、SNSや予約サイトを活用した「新規獲得競争」が主流でした。しかし坂口氏は、「新規だけでは利益が積み上がらない」と強調します。人口減少が進むこれからの時代、新しいお客様を取り続けることだけに依存する経営は、どうしても限界がある。だからこそ重要になるのが、「一度来店したお客様に、もう一度来てもらうこと」でした。鈴木氏も、Aguの初期フェーズでは新規獲得を最優先していたと振り返ります。渋谷・新宿・池袋といった都市部では、毎月1,500人規模の新規顧客が来店していたため、当時はリピート施策に大きく時間を割く必要がありませんでした。

 しかし、全国へ店舗展開が進み、地方への出店が増えると状況は変わります。都市型の「フリー客中心モデル」ではなく、地域に根ざした美容室運営が求められるようになったのです。そこでAguは、「欲しいメニューが、欲しい価格で、近所にある」というコンセプトだけでなく、「継続して選ばれる理由」を作る必要に迫られました。その転換点で、重要な役割を担ったのがLINEだったのです。

美容室は、「髪を切る場所」ではなく、「人に会いに行く場所」でもある

 今回のセッションを聞いていて、改めて感じたのは、美容室という場所の本質でした。美容室は、単に髪を切るだけの場所ではありません。もちろん、カットやカラーの技術は大切です。しかし、多くのお客様が美容室を選ぶ理由は、それだけではないように思います。

「この人に切ってもらいたい」
「この美容師さんだと安心する」
「ここへ来ると気分が変わる」

 実際には、そんな感情的な価値が非常に大きい。特に美容室は、施術時間が長い業態です。1時間、2時間と過ごす中で、会話が生まれ、空気感が積み重なり、人間関係が形成されていく。だからこそ、美容室には“指名”という文化があります。これは、単なるサービス業というより、「関係性の積み上げ」が価値になる仕事なのだと思います。

 だから、AguがLINE活用によって目指していたのは、単なる再予約導線の整備ではなかったのでしょう。一度来店したお客様との関係を、どう自然に続けていくか。来店がない期間にも、「完全に関係が切れない状態」をどう作るか。

 そのためにLINEが機能していた。興味深いのは、Aguが「押し売り型」の配信をしていなかったことです。むしろ、来店周期を見ながら、必要なタイミングでだけ接触する。その設計思想の背景には、「関係性を壊さない」という考え方があったように感じます。

 これは、美容室という業態だからこそ重要なのかもしれません。例えば飲食店なら、偶然の来店もある。しかし美容室は、誰に切ってもらうかが重要視される世界です。だからこそ、「また会いたい」と思ってもらえる関係性が、そのまま経営基盤になる。

 今回のセッションは、LINE活用の話でありながら、実は「美容室という仕事の本質」を改めて浮かび上がらせていたようにも感じました。

LINEが強かったのは、“生活導線”の中に存在していたから

 鈴木氏がLINEを導入した理由として最初に挙げたのは、「みんながすでに使っている」という点でした。新しいアプリをダウンロードしてもらう必要がない。美容師側にも、お客様側にも負担が少ない。これは、実際の店舗運営では非常に大きな意味を持ちます。

 ここには、単なる利便性以上の意味があったように思います。LINEは、今や多くの人にとって、日常生活そのものの中にある存在です。家族との連絡、友人との会話、仕事のやり取り。人によって使い方は違っても、「毎日必ず開く場所」になっている。

 つまり、LINEは“生活導線”の中に存在しているのです。だからAguは、「新しいサービスを覚えてもらう」のではなく、「すでにいる場所で関係を続ける」という設計を選んだ。これは、非常に重要な視点だと思いました。企業はつい、「自社アプリを使ってほしい」「会員サイトに来てほしい」と考えがちです。しかし現実には、人はそこまで多くのサービスを使い分けません。だからこそ、“人が自然にいる場所”に接点を置くことが重要になる。

 実際、Aguでは「新規獲得は予約メディア」「再来店はLINE」という役割分担を明確にしていました。SNSや予約サイトで新規のお客様を集め、そのお客様をLINE公式アカウントへ誘導し、再予約やコミュニケーションはLINE上で行う。この導線設計によって、予約サイトへの依存を減らしながら、顧客との直接的な接点を持てるようになったのです。

 中でも特に大きな成果につながったのが、「ショップカードのLINE化」でした。

 従来の紙のスタンプカードを廃止し、「ショップカードがLINEになりました」という形で案内したところ、友達登録数が一気に伸びたといいます。「LINEも登録してください」ではなく、「ショップカード自体がLINEへ移行した」という伝え方にしたことで、お客様に追加の負担感を与えなかったのです。紙のカードには、忘れる、なくす、二重付与など、さまざまな運用上の問題がありました。しかしLINE化することで、それらを解消しながら、自然な形で顧客接点をデジタルへ移行できた。単なるポイントカードの置き換えではなく、「継続的に連絡できる状態」を作ったことが大きかったのだと思います。

LINEを“予約導線”ではなく、“関係構築の基盤”として使う

 さらに興味深かったのは、AguのLINE配信設計でした。多くの企業では、「配信数を増やせば成果が出る」と考えがちです。しかしAguでは、むしろ「送りすぎない」ことを非常に重視していました。業界平均では約30%がブロックされると言われる中、Aguのブロック率は13.6%。90日後、180日後など、来店周期を意識したタイミングでメッセージを送ることで、不要な通知と思われない工夫をしていました。

 ここにも、「人との距離感」を大切にする考え方が見えていました。美容室は、一度来店したら終わりではありません。数か月後に、また来店する可能性がある。その時、「うるさい広告」という印象を与えてしまえば、関係性は簡単に壊れてしまう。

 だからAguは、“配信すること”より、“嫌われないこと”を重視していたように見えました。また、予約メディア経由で離脱した休眠顧客に対しては、電話番号を用いてLINEアカウントと紐づけ、再アプローチを実施。配信対象2万人のうち21%が2週間以内に再予約したという結果も紹介されました。

 ただ、この数字以上に重要なのは、「再び思い出してもらえる状態」を作れていたことだと思います。美容室は、忙しくなると足が遠のきやすい業態でもあります。しかし、その間にも、関係性が完全に消えるわけではない。だからこそ、適切なタイミングで自然に接触できるLINEは、大きな意味を持っていたのでしょう。

 LINEを単なる一斉配信ツールとしてではなく、「誰に、いつ、何を届けるか」を細かく設計する。その考え方が、ブロック率の低さと再来店率の高さにつながっていたのです。

LINE施策が変えたのは、集客だけではなかった

 セッションを通して特に印象的だったのは、LINE活用の成果が「予約数の増加」だけにとどまっていなかったことです。メーカーとのコラボキャンペーンでは、LINE経由の予約数が2か月で3.3倍に増加。さらに、2025年から2026年にかけて、LINEの会員数は16万人から32万人へと約2倍に拡大しました。ターゲットリーチ数も34万人から57万人まで増えています。

 ただ、本当に重要なのは、その先に起きた変化でした。リピーターが増えたことで、スタイリストの指名率が向上した。指名客には提案がしやすく、コミュニケーションも深くなる。その結果、客単価が全体で500円上昇し、年間では約1.7億円規模の売上インパクトにつながったといいます。

 さらに、LINE経由予約の増加によって予約サイトへの依存が減り、コスト削減にもつながった。削減できた費用は、新店舗への投資や働く環境の改善に回せるようになったそうです。つまり、LINE施策によって起きたのは、「予約が増えた」という単発の成果ではありませんでした。

リピーターが増える。
指名率が上がる。
単価が上がる。
利益が増える。
投資ができる。
待遇が改善する。
採用力が上がる。

そうした経営全体の循環が、少しずつ整い始めていたのです。

 坂口氏が語っていた「集客成功→利益増→待遇改善→採用強化→サービス向上→集客成功」という流れが、実際に形になっていたのだと感じました。美容室経営において、LINEは単なる販促ツールとして語られることが多いかもしれません。しかし今回のセッションでは、「顧客との関係をどう積み上げるか」という視点で設計されたとき、LINEが経営基盤そのものを支える存在になり得ることがよく分かりました。

まとめ

人口減少と競争激化が進む美容業界の中で、Aguが取り組んでいたのは「より多く集める」ことではなく、「来てくれたお客様との関係をどう継続するか」でした。LINE活用の本質は配信数ではなく、顧客との距離感を適切に保ちながら、長く選ばれ続ける関係を作ることにあったのだと思います。

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