たまごっちは、30年かけて「指」までやってきた──世界最小Tamagotchi ringに見る、変わるものと変わらないもの
1996年、女子高生たちのカバンに、小さなたまごがぶら下がった。中にいる生き物にご飯をあげ、遊び、時にはうんちを流す。学校へ行くときも、友達と遊ぶときも一緒だった。それから30年。たまごっちは、とうとう「指」にまでやってきた。
2026年8月27日、東京ビッグサイトで開幕した「東京おもちゃショー2026」。バンダイ・BANDAI SPIRITSブースのオープニングセレモニーで発表されたのが、シリーズ初のリング型デバイス「Tamagotchi ring」だ。
新しいデバイスの登場
全長は約28mm。初代「たまごっち」の約50mmに対して56%という小ささで、0.56インチのカラー液晶を搭載する。バンダイによれば、カラー液晶を搭載したたまごっちデバイスとして世界最小だという。
ただ、30年という歴史を振り返ってみると、面白いのは「小さくなった」ということだけではない。
カバンから腕へ。そして、指へ。たまごっちは時代に合わせて姿を変えながら、少しずつ人間との距離を縮めてきた。その一方で、今回の小さなリングにも、初代から続く「たまごっちらしさ」がちゃんと残されている。
そこには、30年続くIPが「何を変えて、何を変えないのか」という、一つの答えが見えてくる。
カバンから腕へ、そして指へ──たまごっちは人間に近づいてきた
初代「たまごっち」が発売されたのは、1996年11月23日。当時のトレンドセッターだった女子高生がカバンにつけて持ち歩けるよう、ボールチェーン型で発売された。そもそも、たまごっちの大きな特徴は「携帯型デジタルペット」であることだ。
家に置いて遊ぶ玩具ではない。ご飯をあげたり、遊んだりしながら、いつでも一緒にいる。その体験そのものが、たまごっちだった。
だから、時代が変われば「一緒にいるための形」も変わっていく。ボールチェーン型からネックストラップ型などへ。そして2021年には、腕に装着する「Tamagotchi Smart」が登場した。さらに30周年を迎えた2026年、たまごっちは腕よりもっと先、指にまでやってきたのである。
今回発表された「Tamagotchi ring」は全長約28mm。2008年に登場した初のカラー液晶機「たまごっちプラスカラー」が全長約68mmだったことを考えれば、その差は大きい。
しかも、単純に小さくしたわけではない。
カラー液晶はボタン電池では消費電力に対応しにくい。そこで今回は、たまごっちシリーズとして初めて充電式の構造を取り入れた。USBコネクタを直接差し込める構造にするなど内部スペースを削減し、部品数もわずか64個に抑えた。最新デバイス「Tamagotchi Paradise」が116個というから、ほぼ半分である。
マジちっちゃ!オシャレ!
この開発には約2年を費やしたという。
セレモニーに登場し、実際にリングを指につけたゆうちゃみさんは、その姿を見て「アクセサリー感覚でつけられる」と話した。
「マジちっちゃ、みたいな。たまごっちのサイズって、ちっちゃくてもやっぱりこのぐらいのサイズだったので。どこまでたまごっち進化するっていうワクワク、ドキドキが止まらないですね」
自身が子どもの頃には「ここまで小さくなるとは予想がつかなかった」とも話す。
30年前、カバンにつけることで「いつでも一緒」を実現したたまごっちが、今度は指輪になった。技術の進化によって小さくなったというより、「いつでも一緒にいる」という最初から変わらない体験を追いかけ続けた結果、指までたどり着いた、と考えた方がしっくりくる。
小さくしても「3つのボタン」を消さなかった理由
一方で、Tamagotchi ringをよく見ると、不思議なところがある。ここまで小型化を追求しているのに、正面には、おなじみの3つのボタンがちゃんと並んでいる。
実は今回、実際の操作は本体の左右に配置されたボタンを使って行う。つまり正面の3つは、従来と同じ役割を担う操作ボタンではない。
それでも、なくさなかった。ゆうちゃみさんも、そこに気づいていた。
「今回、両サイドにあるのに、ちゃんと今までのたまごっち同様にボタン3つの飾りがあるっていうのは、なんかすごい好きです」
司会からは「まさに、たまごっちが大切にしていることなんです」と返された。ここが、今回の商品を見ていて興味深い。28mmにするためなら、不要なものは削りたいはずだ。実際、内部では部品数を大幅に減らし、充電方法まで変えている。
けれど、「たまご型」「液晶画面」「3つのボタン」という、ひと目見てたまごっちだと分かるものは残した。
つまり、30年前と同じものを作り続けているわけではない。変えるところは、大胆に変える。けれど、変えてしまったら「たまごっちではなくなるもの」は残す。
長く続くIPに必要なのは、昔の姿をそのまま保存することではなく、「何を変えてよくて、何を変えてはいけないのか」を見極め続けることなのかもしれない。その判断が、わずか28mmのデバイスにも表れている。
子どもだったファンが大人になっても、また一緒にいられる
そして、30周年という時間を実感させたのが、ゆうちゃみさん自身のたまごっちとの関係だった。これまでに6台ほど、最近のものまで含めれば8台ほどのたまごっちを持っているという。妹と遊び、友達とは通信して楽しんできた。
遊ぶためだけではない。さまざまな色や種類が発売されるため、「殻だけでパケ買いしちゃうような感じ」とも話す。
好きなたまごっちは「くちぱっち」。子どもの頃は「まめっち」が好きだったものの、最近は別のキャラクターにも惹かれているという話からも、たまごっちとの付き合いが一時的なものではなかったことが伝わってくる。
今回のTamagotchi ringには、30周年を記念して歴代の人気たまごっち30体が登場する。1996年の初代期からは、まめっち、くちぱっち、みみっちなど。2004年からの「ツーしん期」、2008年以降の「カラー期」のキャラクターも含まれ、育て方によって成長先が分岐する。
思い出すたまごっちはそれぞれに違う
だから、同じリングを手にしていても、そこから思い出すたまごっちは世代によって違う。かつてカバンにつけていた人もいる。通信して友達と遊んだ人もいる。腕につけるたまごっちから知った子どももいる。
その30年間が、小さなリングの中に入っている。
ゆうちゃみさんが「どこでもいつでも一緒にお出かけできるのが、ものすごく嬉しい」と話していたのが印象的だった。子どもの頃に一緒にいたものが、大人になった自分のファッションにも馴染む姿になって、もう一度、指についてくる。
これもまた、30年続いたIPだからこそ生まれる関係なのだと思う。
30周年なのに「実は300周年?」──積み重ねた世界観まで遊び始めた
もっとも、バンダイは30周年を普通に祝うだけでは終わらせなかった。セレモニーの途中、突然「たまごっちラボ」から緊急発表が入った。笑。
東京おもちゃショーの会場を発掘していたところ、「たまごっちに関する石碑」が見つかったというのである。そこから飛び出したのが、「たまごっちは30周年ではなく、300周年なのではないか」という説だった。笑笑。
もちろん、これは30周年を盛り上げるための演出だが。
そもそも、たまごっちは1996年に地球で発見された「地球外生命体」で、たまごっち星からやってきたという設定を持つ。地球の空気では生きられないため、デバイスの中でお世話することで生命を維持しているという。
そこへ「300年前にも地球に来て、人類と交流していたのではないか」という新たな“歴史”を重ねた。さらに会場には『ムー』の編集長まで現れ、石碑に描かれた円盤らしきものを根拠に、古代宇宙飛行士説へと話を広げていく。
ゆうちゃみさんも途中で、「これ、いつまでするんですか?」「これなんですか?」と思わず突っ込むほどの展開だった。笑笑笑。
渋谷、原宿で何かが!?
そして石碑の解読からは、今年11月、日本では渋谷・原宿、さらに米国ではニューヨークで何かが起こるのではないか、という話まで飛び出した。30周年を「これまでの歴史を振り返る日」にするだけではなく、そこから新しい物語を始めてしまう。
その自由さもまた、たまごっちらしい。初代から30年。カバンについていたたまごっちは、腕を経て、ついに指までやってきた。技術は変わった。遊び方も変わった。ユーザーも大人になった。
それでも、「いつでも一緒にいて、お世話をする」という体験は変わらない。たまご型も、液晶も、3つのボタンも残っている。変わり続けるから、残っていける。でも、全部を変えないから、「たまごっち」であり続けられる。
28mmの小さなリングを見ていると、30年続くIPの大きさは、むしろそんなところにあるように思えた。
今日はこの辺で。