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検索順位は「答え」じゃない──20年、ECの現場を歩き続けた倉持匡志氏が、市場の「何丁目何番地」を記録するツールを作った理由

 EC運営の現場では、「検索順位を上げる」という言葉が呪文のように飛び交う。もちろん、順位は大事な指標だ。だが、店主が本当に知りたいのは、順位という数字そのものではない。市場という広い街の中で、自社商品が今どこに立っているのか。その「現在地」のはずだ。

 株式会社アイコンコーポレーションが、Chrome拡張機能「EC-Tracking」を大型アップデートした(v1.4.3)。楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングの検索順位に加え、モールのランキング、そして今回新たに検索サジェストまで、毎日自動で記録できるようになったという。

 一見すると、よくある機能追加のニュースだ。 

 しかし背景をたどると、このサービスが追いかけているのは「順位」ではないことが見えてくる。20年以上ECの現場を歩き続けた開発者・倉持匡志氏が、「市場の現在地を知る」という一つの思想を、そのまま形にしたサービス──僕にはそう見えた。

「順位を見る」から「市場を見る」へ──現場を歩いたから生まれた発想

 倉持氏は、SEO黎明期からWebマーケティングに携わり、楽天市場やYahoo!ショッピングをはじめ、数多くのEC事業者を支援してきた。SEOシステムの提供、EC運営のBPO、そして現在はSaaS開発まで、その仕事は時代に合わせて広がってきた。

 ただ、経歴をたどって浮かぶのは「システム開発者」という肩書よりも、現場との距離の近さだ。店舗に入り、売上が伸びれば理由を掘り、伸び悩めば改善策を一緒に探す。その積み重ねの中で、倉持氏は毎朝30分以上を「目視チェック」とExcelへの転記に費やす店舗を、いくつも見てきたのだという。

 今日の順位は分かる。だが、一週間前はどうだったか。広告を出す前はどうだったか。ランキングに入っていたのは、いつまでだったか。

 忙しさの中で、そんな記録はいとも簡単に途切れる。すると人は、「先週は一ページ目だった気がする」「この前までランキングに入っていたと思う」と、記憶を頼りに経営判断をするようになる。今回のアップデートを見ていて、倉持氏が本当に潰したかったのは「順位を取得する手間」ではなく、この「記憶に頼る運営」そのものだったのだと僕は思う。順位も、ランキングも、サジェストも、毎日残す。

 感覚を記録に置き換える。現場を長く見た人でなければ、この地味な執念は生まれない。特に大事な作業ではあるけど、AI時代において、人間が打ち込むべき作業はそこではない。

 ではその答えはどこにあるのか。

楽天では、「どこにいるか」が戦略そのものになる

 今回の発表で、倉持氏はこう問いかけている。

「自社商品は、モールの何丁目何番地にあるのか? 今がどこなのか?」

 この一言が、とても印象に残った。楽天市場は、商品単体の良し悪しだけで勝負が決まる市場ではない。レビューが積み上がり、ランキングに載り、カテゴリの中で認知される。その積み重ねが店への信頼となり、まだ見ぬお客様との接点を生む。

 だから重要なのは「何を売るか」だけではない。どの商品を入口にするのか。どのカテゴリで存在感を示すのか。季節が変われば、どの商品へ軸足を移すのか。その判断の連なりが、店全体の成長をつくる。裏を返せば、自社商品が街のどこに立っているかを掴んでいなければ、次の一手が打てない。順位が上がったのは広告の結果か、SEOが効いたのか、それとも市場全体が動いたのか──現在地が分からなければ、その違いすら見えてこない。

 「何丁目何番地」は、市場を一枚の地図として捉えた、実に的確な比喩だと思う。

三つの情報が揃って初めて、「市場」が立体的に見えてくる

 そして、今回の目玉は、検索サジェストの記録だ。これで、検索順位・モールランキング・検索サジェストという三つの層を、同じ時間軸で毎日蓄積できるようになった。

 一つひとつは、これまでも見られた情報だ。だが、同じ物差しで並べて眺められることに意味がある。順位が落ちても、サジェストには新しい言葉が増えているかもしれない。ランキングから外れても、検索需要そのものは伸びているかもしれない。もちろん、その逆もある。順位という数字だけでは「何が起きたのか」は分からない。ランキングだけでも、サジェストだけでも分からない。異なる情報を重ねて初めて、市場の変化を読み解く材料が揃う。

 そして僕が今回のアップデートで一番面白いと思ったのは、機能表には小さく載っているだけの一点だ。

 サジェスト収集の対象に、楽天・Amazon・Yahoo!に加えて「メルカリ」が入った。これは、単なる4モール目ではない。B2Cのモール店舗が、C2C(フリマ)という”別の天気図”を、初めて毎日眺められるようになったということだ。いま消費者がどんな言葉で中古やハンドメイドを探しているか。その気配は、次のヒット商品や、まだ空いている棚を教えてくれる。表向きの主役は「サジェストが追える」ことだが、隠れた本命はここではないか、と僕は睨んでいる。なぜなら、全体感を掴むことが、もっと大きな“立ち位置”を知ることになるからだ。

 だから今回のアップデートは、「機能を足した」というより、市場を見るための視点を一つ増やしたと捉えるほうが、本質に近い。

「結び目」という思想──点を、線にする

 倉持氏はもう一つ、示唆的な言葉を残している。同社が展開する「EC KNOT」シリーズについて、彼はこう語る。「KNOTは『結び目』です」。つまり、複数のツールが持つデータを結び、「再現性の高いEC運用」を目指す。

 元々、同社は価格・在庫を監視する『EC Catcher』、今回の『EC-Tracking』、商品ページの品質を分析する『EC Scope』、モバイル表示を検証する『EC Mobile Viewer』を手掛けている。つまり、それらをチェックと結びつけて、そのチェックすることを最大化するのである。

 今回EC-Trackingが、順位・ランキング・サジェストという散らばった点を一本の時間軸で結んだことは、まさにこの「結び目」の思想の体現だと思う。

 「現在地を、感覚と記憶ではなく記録にする。これが支援マーケティングの原点です」──倉持氏のこの言葉に、僕は頷く。感覚は、優れた店主ほど当たる。だが感覚は引き継げないし、検証もできない。記録に変えて初めて、勘は「戦略」になる。

「現在地」が本当に価値を持つかは、これから数字が証明する

 その考え方には、大いに納得できる。一方で、敢えていうなら、ドライだが、本当に知りたいのはその先だ。現在地を掴んだ店舗が、その後どう判断し、どんな成果につなげたのか。順位の変化をどう読んだのか。ランキングの動きをどう活かしたのか。サジェストに現れた新しい言葉を、商品開発や販促へどう結び付けたのか。

 そしてそれが、売上や転換率、あるいは新たなヒット商品につながったのか。そこまで見えて初めて、「現在地を知る」という思想の価値は、くっきりと輪郭を持つはずだ。今回のアップデートは、そのスタートラインだ。

 しかも、Chromeに追加してから3分。クレジットカードもパスワード登録も要らず、誰でも自分の店の「地図」を描き始められる。思想を試すためのハードルが低く設計されていること自体、この考え方を、できるだけ多くの店舗へ届けたいという意思の表れにも見える。

 モールで、自社の立ち位置を知ることに、どれほど意味があるのか。その価値は、このサービスそのものではなく、使った店舗の実績が証明していくのだと思う。

 倉持氏が描く「市場の現在地」という思想が、実際の店舗運営にどんな変化をもたらすのか。その答えは、これから導入する店舗が積み上げる数字が教えてくれる。その成果が顕在化する日を、僕は楽しみに待ちたい。

 今日はこの辺で。

 

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