通信の、その先へ。KDDIがAIで広げる「暮らしを支えるインフラ」の新しい姿
AIが基地局の通信品質を改善し、自動運転バスやドローンの安全を支え、物流ロボットが人の作業を引き受ける。KDDI SUMMIT 2026の展示を見ていると、通信会社として知られるKDDIが、AIを通じて社会のさまざまな領域へと役割を広げようとしていることが見えてきます。そこには、モバイル通信で人々の暮らしを支えてきた同社らしい、新しい時代への向き合い方がありました。
2026年10月26日、高輪ゲートウェイで開催された「KDDI SUMMIT 2026」の内覧会に足を運びました。会場には、AIを活用したさまざまな技術やサービスが並んでいました。AIグラス、自動運転、ドローン、物流ロボット、データセンター。どれも興味深い取り組みですが、最初は少し不思議な印象も受けました。
なぜ、通信会社であるKDDIが、これほど幅広い領域に取り組んでいるのだろう。ところが、一つひとつの展示を見て、担当者の説明を聞いていくうちに、共通するものが見えてきたのです。それは、KDDIがこれまで通信という領域で担ってきた役割を、AIによって社会全体へと広げようとしているのではないか、ということです。
考えてみれば、携帯電話の通信ネットワークも、普段はその存在を意識することがありません。つながって当たり前。使えて当たり前。けれど、その当たり前を維持するために、膨大な設備と技術、そして人の努力が費やされています。
いわば、社会の縁の下の力持ちです。そのKDDIが、AIという技術を手にしたとき、何をしようとしているのか。今回の展示は、それを考える機会になりました。
通信品質を守る仕事そのものが、AIによって進化する
まず興味深かったのが、KDDI自身の通信ネットワークをAIによって改善する取り組みです。
私たちはスマートフォンを使っていて、通信が遅くなると不便に感じます。しかし、その裏側で基地局がどのように調整されているのか、普段は考えることもありません。実際には、通信の混雑状況は場所や時間帯によって変わります。人が集まる場所もあれば、時間によって利用状況が大きく変化する地域もあります。
こうした状況に合わせて基地局の設定を最適化するため、KDDIは分散型AIを活用しています。
特徴的なのは、一つの巨大なAIにすべてを任せるのではなく、基地局の設定を最適化するAIと、そこから得られた経験を学習するAIを組み合わせていることです。現場に近いところで判断しながら、得られた知見を次の改善へとつなげていく仕組みです。
展示パネルによれば、この技術の導入によって、対象基地局の上り通信速度が平均約60%向上したといいます。
ここで注目したいのは、単純に設備を増やして通信速度を上げるという話ではないことです。すでにある通信設備を、AIによって、より適切に動かす。つまり、インフラそのものを賢くすることで、利用者の体験を改善しようとしているわけです。これは、KDDIが長年取り組んできた通信品質の改善が、AIによって次の段階へ進もうとしている姿なのだと思います。
AIを作るだけでなく、社会で使い続けるための土台を作る
こうした取り組みを、通信の世界だけにとどめないための基盤も用意されています。その一つが、大阪堺データセンターを中心としたAI基盤戦略です。展示では、AIの学習から推論までを支えるインフラとして「KDDI GPU Cloud」などが紹介されていました。AIの話題というと、どうしても新しいモデルの性能や、何ができるようになったのかという部分に注目が集まります。
しかし、企業がAIを本格的に活用しようとすると、別の課題が出てきます。膨大な計算処理をどこで行うのか。機密性の高いデータをどう扱うのか。安定した通信環境をどう確保するのか。そして、サービスを継続的に動かしていくための運用をどうするのか。
AIを使うということは、モデルを選ぶだけでは済まないわけです。KDDIは、国内データセンター、高性能GPU、通信ネットワークを組み合わせ、こうした課題に応えようとしています。さらに興味深いのが、AIの学習だけでなく、推論のための基盤にも力を入れていることです。学習がAIを育てる工程だとすれば、推論は育てたAIを実際の仕事で使う工程です。
どれほど優れたAIが開発されても、それを社会のさまざまな現場で使えなければ、暮らしは変わりません。KDDIは、GoogleのGeminiを国内のオンプレミス環境で利用する構想や、複数のAIモデルを用途に応じて利用できる推論基盤も紹介していました。
医療、製造、バックオフィスなど、活用する業種によって求められるAIは異なります。その違いを受け止められる土台を作る。ここに、通信会社としてのKDDIの強みが生きてくるように感じました。
自動運転が普及するほど、人が支える仕組みも必要になる
もう一つ、印象に残ったのが「モビリティコントロールセンター」の取り組みです。自動運転バス、ドローン、配送ロボット、農機、建機など、さまざまなモビリティを統合的に運用する構想が紹介されていました。自動運転と聞くと、どうしても人が運転しなくても走れる技術そのものに目が向きます。
しかし、担当者の説明を聞いていて、なるほどと思ったことがあります。自動運転が普及したからといって、人の役割がすべてなくなるわけではないのです。例えば、自動運転バスに何らかの異常が発生したとします。車両が自動で走行できたとしても、その状況を把握し、必要に応じて人が判断する仕組みが求められます。ドローンも同じです。災害時の状況確認や捜索活動などで活用する場合、機体を飛ばす技術だけでなく、状況に応じた運用が重要になります。
KDDIが目指しているのは、こうした多様なモビリティを一つの運用基盤で支えることです。さらに興味深いのは、移動手段を提供すること自体を最終目的にしていない点です。地域によって抱える課題は異なります。公共交通が不足している地域もあれば、高齢化によって移動が難しくなっている地域もあるでしょう。
だからこそ、自治体や地域の関係者と連携し、何のために移動手段が必要なのかというところから考えていく。展示では、公共ライドシェア、オンデマンド交通、自動運転などを組み合わせ、導入から運行、運用保守、地域連携までを一気通貫で支援する構想も示されていました。
これは単に、新しい乗り物を普及させる話ではありません。地域の暮らしを維持し、より快適にしていくために、移動という機能をどう支えるかという話なのです。通信網を安定して運用してきたKDDIが、今度は人やモノの移動を支える。その発想には、共通するものがあるように思います。
物流ロボットが示す、AIが現実の世界で働く可能性
そして、今回の展示でAIの進化をわかりやすく感じられたのが、フィジカルAIを活用した物流ロボットです。物流センターでは、日々さまざまな商品を扱っています。スマートフォンのように形状が比較的一定のものもあれば、ケーブルのように柔らかく、置かれた状態によって形が変わるものもあります。人間にとっては何気ない作業でも、ロボットにとっては難しいことが少なくありません。
今回紹介されていたのは、商品を認識してつかみ、出荷用の箱に入れるという作業です。商品が整然と並んでいなくても、AIが状況を判断して取り扱う。さらに、緩衝材や乾燥剤のように、従来のロボットでは扱いが難しかったものにも対応しようとしています。
興味深かったのは、その動作だけではありません。KDDIは、現場で働く人の普段の作業からロボットの学習に必要なデータを集める技術や、シミュレーション環境でロボットを学習させる技術にも取り組んでいるといいます。
つまり、ロボットを導入して終わりではないのです。現場で行われている作業を学び、さまざまな状況に対応できるようにしていく。その積み重ねによって、AIが現実の世界で働ける範囲を広げていこうとしています。
ここでも重要になるのが、AIを動かす計算基盤や通信環境です。ロボットだけが進化しても、それを支える仕組みがなければ、社会全体への普及は難しいでしょう。
先ほどのデータセンターの取り組みと、物流ロボットの展示が、ここでつながってくるわけです。
AIグラスは、仕事の記録という当たり前を変える
AIの活用は、ロボットのような大がかりな設備だけではありません。身近な業務を変えるものとして紹介されていたのが、AIグラスです。見た目は眼鏡に近いものですが、カメラやマイクなどが搭載されており、装着した人が見聞きした情報を記録できます。その画像や音声をAIで解析し、作業内容をレポートとしてまとめる仕組みです。
例えば、設備の点検業務です。これまでは、現場で設備を確認し、その内容を記録して、後から報告書を作成する必要がありました。ところがAIグラスを使えば、普段通りに点検を進めながら、作業の様子を記録できます。記録された画像や音声をAIが整理することで、報告書作成の負担を減らせる可能性があります。
接客の現場でも、会話の内容や顧客が手に取った商品などを記録し、担当者間で情報共有することが想定されています。
さらに、介護や医療の現場では、食事の内容だけでなく、食べる速さや順番などを可視化し、一人ひとりに合った食事指導につなげる活用も紹介されていました。ここで面白いのは、AIを使うために、仕事のやり方を大きく変えなくてもよいという点です。眼鏡をかけて、いつも通り仕事をする。その過程で生まれる情報をAIが整理し、次の仕事に役立てる。
人間がAIに合わせるのではなく、AIが人間の自然な行動を支える。もちろん、実際の導入には撮影や録音への同意、個人情報の取り扱いなど、慎重な設計が必要です。それでも、こうした仕組みが現場に定着すれば、仕事の進め方そのものが変わっていく可能性があります。
モバイルで培った「縁の下の力持ち」が、社会全体へ広がっていく
こうして展示を振り返ると、KDDIが取り組んでいることの意味が、少し違って見えてきます。基地局をAIで最適化する。企業がAIを利用するためのデータセンターを整える。自動運転やドローンの安全な運用を支える。物流ロボットが現場で働けるようにする。AIグラスによって、日々の仕事の負担を減らす。
一見すると、それぞれ別々の事業です。しかし、どれにも共通しているのは、新しい技術を、社会の中で安心して使い続けられる状態にするという役割です。
ある意味、KDDIらしい。通信会社は、もともと目立つことが目的の仕事ではありません。スマートフォンがつながることも、必要な情報が届くことも、今では当たり前になっています。しかし、その当たり前を支えるためには、設備を整え、状況を監視し、問題があれば対処し、絶えず改善を続けなければなりません。その積み重ねが、人々の生活を支えてきました。
考えてみれば、AIが社会に浸透していく過程でも、同じことが必要になるはずです。どれほど便利なAIが登場しても、安定して使えなければ困ります。ロボットが動けるようになっても、安全に運用できなければ普及しません。自動運転が実現しても、それを地域の暮らしに合わせて使い続けられる仕組みがなければ、社会は変わりません。
だからこそ、AI時代には、技術そのものを開発する企業だけでなく、それを社会の中で機能させる企業の役割が大きくなっていくのでしょう。KDDIは、モバイル通信で培ってきたその力を、AIによって広く人々の生活へと展開しようとしているのかもしれません。
それは、通信事業から別の事業へ転換するというより、通信を通じて担ってきた役割の延長線上にある進化なのだと思います。その縁の下の力持ちとしての役割が、AIによって、さらに広い世界へと伸びていく。
今回の展示は、そんな進化の始まりを感じさせるものでした。