「検索」でも「決済」でもない──LINEヤフーが“AI時代の接点企業”へ進み始めた決算
さきほどまで、LINEヤフーの2025年度 通期及び第4四半期決算に行ってきた。今回のLINEヤフーの決算を見ていて、僕が強く感じたのは、「派手な変化」というより、“積み上げてきた資産を、AI時代にどう活かすか”というフェーズに入ったのだな、ということだった。
もちろん数字だけを見ても、売上収益は2兆363億円、調整後EBITDAは4966億円と過去最高を更新している。アスクルのシステム障害という大きなイレギュラーを抱えながら、それでも増収増益を実現したことからも、企業としての基礎体力は十分に見えた。
ただ、今回の決算で本当に重要だったのは、そこだけではない。
AI時代の接点
LINEヤフーは今回、“AIそのものを作る会社”というより、「AI時代の接点」を握る会社として、自らの立ち位置を整理し始めているように見えたのである。
そして、その考え方は、僕自身が決算説明会で投げかけた「UCP(Universal Commerce Protocol)」に関する質問への回答にも、非常によく表れていた。AI時代になると、「全部AIに置き換わる」という話になりがちだ。だが実際には、そう単純ではない。むしろ重要になるのは、
「自分たちは何を積み上げてきたのか」
「どこに接点を持っているのか」
「その資産をAI時代にどう再編集するのか」
・・・ということなのだと思う。
今回の決算は、その方向性がかなり明確に見えた内容だった。
アスクル障害下でも増収増益──“接点の厚み”が支えたLINEヤフー
今回の決算でまず印象的だったのは、アスクルのランサムウェア被害によるシステム障害という大きなマイナス要因がありながら、それでも全社として増収増益を実現した点だった。
2025年度の売上収益は2兆363億円、前年比6.2%増。調整後EBITDAも4966億円で、前年比5.5%増。しかもアスクル影響を除くと、売上収益13.3%増、調整後EBITDA12.6%増という、かなり力強い成長を見せている。
改めて、LINEヤフーは「単一サービスの会社」ではなくなっているということを強調する。
検索。LINE。PayPay。Yahoo!ショッピング。広告。金融。店舗DX。
それぞれが独立して存在しているのではなく、“生活接点”として横につながり始めている。だから一つの事業でイレギュラーが起きても、全体が崩れにくい。
しかも今回、検索広告の減収をLINE公式アカウントなどのアカウント広告が補っていた構図も象徴的だった。従来の検索広告は、「検索されること」が前提だった。だがLINE公式アカウントは違う。“繋がっている状態”そのものに価値がある。
つまりLINEヤフーは、「検索の会社」というより、“関係性の接点を持つ会社”へ変わり始めているのである。
LINE公式アカウントは、“広告”から“生活導線”へ変わり始めた
今回の決算資料の中で、個人的にかなり重要だと思ったのが、LINE公式アカウントの進化だった。有償アカウント数は増加し、アカウント広告売上も前年比15.3%増。
だが、本質はそこではない。彼らがやろうとしているのは、“企業の顧客接点そのもの”をLINEの中に移すことだ。
モバイルオーダー。予約。会員証。CRM。ミニアプリ。店舗DX。
つまりLINEヤフーは、広告枠を売りたいのではなく、「お店とお客の関係性」をLINE上に定着させようとしているのである。
思うに、AI時代になると、「どれだけ賢いAIか」だけでは差別化できなくなるのではないか。むしろ、“どこに接点があるか”の方が重要になる。つまり彼らは、“AIを使わせる”というより、“AIが自然に存在する生活導線”を作ろうとしているのだ。
コマース事業は増収も減益──Yahoo!ショッピングが“課金モデル”を変える意味
コマース事業の2025年度実績は、売上収益8576億円で前年比1.1%増。一方で、調整後EBITDAは1299億円となり、前年比12.8%減だった。背景には、アスクルのランサムウェア被害によるシステム障害影響に加え、ショッピング・リユース領域での販促費や広告宣伝費の増加がある。
ただ、その中で非常に印象的だったのが、Yahoo!ショッピングの「課金モデル変更」だった。LINEヤフーは、2026年9月から、従来の広告モデル中心の構造を見直し、売上ロイヤリティ型へ移行する方針を打ち出している。
具体的には、
・月額システム利用料 1万円
・売上ロイヤリティ 2.5%
・LINEショッピングタブ経由手数料 2〜4%
・・という新たな構造を導入する。さらに、「AI経由手数料」の導入予定まで明言した。
また、リユース領域でもAI活用が進んでおり、Yahoo!オークションではAIが詐欺疑いを検知し、Yahoo!フリマではAIが写真から相場価格を提案する機能を導入している。
また、リユース取扱高は前年比14%増と大きく伸長した。単純な「モール売上」の話ではなく、AI活用やリユース強化を含め、“次のコマース構造”へ移行しようとしていることが、今回の数字からは見えてきた。
「AIが探して、推薦する」時代──コマースの入口が変わり始めた
今回、僕が決算説明会で特に気になっていたのが、「AI時代のコマース」に対して、LINEヤフーがどう向き合うのか、という点だった。そこで投げかけたのが、「UCP(Universal Commerce Protocol)」に関する質問だ。
今、海外では、AIエージェントが買い物を代行する未来を見据えたルール整備が始まっている。ShopifyやWalmartなどは、AIが商品情報を理解し、比較し、推薦し、そのまま購入まで導く世界を想定し、“AIとコマースを接続する共通基盤”を作ろうとしている。
つまりこれからは、「人が検索して探す」のではなく、「AIが探して、比較して、推薦する」という世界が本格化していく可能性が高い。
だからこそ僕は、「Yahoo!ショッピングもその流れに対応していくのか」「それともAgent iのような自社AI経済圏を中心に作っていくのか」
・・・という問いを投げかけた。
この問いは単なる技術論ではない。AI時代になった時、“どこが買い物の入口になるのか”という話だからだ。従来は、人が検索し、比較し、ECサイトへ訪問していた。
だがAIエージェント時代になると、その入口そのものがAI側へ移っていく可能性がある。その時、EC企業やプラットフォームは、どこで価値を発揮するのか。そこが、今まさに問われ始めている。
「AIですべてがゼロになる」のではなく、“積み上げた資産”が武器になる
だが、出澤さんの回答を聞いていて、僕自身、かなり納得した部分があった。要するに、“これまで積み上げてきた資産を、AI時代にどう活かすか”を考えているように見えたのである。LINEという接点。PayPayという決済。Yahoo!ショッピングという購買データ。店舗との関係性。つまり彼らは、「AIですべてがゼロから作り変わる」とは考えていない。
既に持っている接点やサービスを土台にしながら、そこへAIを組み込むことで、より自然で良質な体験を作ろうとしている。
AI時代になると、「全部AIに置き換わる」という極端な話になりやすい。だが実際には、検索が強い会社。決済が強い会社。コミュニティを持つ会社。接点を持つ会社。
それぞれが、自分たちの特性に合わせてAIを組み込んでいくことになる。つまり問われるのは、「AIを使うかどうか」ではなく、「自分たちの強みを、AI時代にどう再編集するか」なのである。
PayPayは“決済”ではなく、“生活OS”になり始めている
今回の決算では、PayPayを中心とした戦略事業の成長も非常に目立っていた。売上収益は前年比30.6%増。調整後EBITDAは85%増。さらにPayPay連結取扱高は19.3兆円に達している。
ただ、ここも単なる「決済成長」ではない。
PayPay銀行。PayPayカード。証券。保険。
つまり彼らは、“お金の流れ全体”を一つの生活導線の中に統合し始めている。ここでも重要なのは、“接点”だ。LINEで会話する。Yahoo!で情報を見る。PayPayで払う。予約する。買い物する。全部がつながっている。
だからLINEヤフーは、「サービスを持っている会社」というより、“生活そのものを横断している会社”になり始めているのである。そしてAI時代になると、この“生活文脈”が非常に重要になる。
単なる検索履歴ではなく、「この人は普段どう生活しているのか」が、AIにとって価値ある情報になるからだ。
Agent iが意味するのは、「AIを起動する時代」の終わり
今回の決算で集中したテーマは、やはり「Agent i」だった。ただ、ここでも重要なのは、「最強AIを作る」という話ではない。彼らがやろうとしているのは、“AIを自然に存在させる”ことだと思う。
決算資料では、日本で生成AIを日常利用している人は16%程度と説明されていた。つまり逆に言えば、84%はまだ“AIを意識的に使っている段階”にある。LINEヤフーはそこを変えようとしている。LINEを開けばAIがいる。買い物を迷えばAIが補助する。予約しようとするとAIが提案する。
つまり、「AIを起動する」という概念そのものを消そうとしているのである。そしてその時に重要になるのは、“どれだけ賢いAIか”だけではない。“どこにAIが存在しているか”の方が重要になる。
その意味で、毎日使われるLINEという存在は圧倒的に強いというわけだ。今回の決算を見ていて感じたのは、LINEヤフーが目指しているのは、「AI企業」というより、“AI時代の接点企業”なのだということだった。
そして、それは派手な革命というより、“積み上げてきた資産を、AIで再接続する”という、非常に現実的で、しかし強かな戦略なのだと思う。
今日はこの辺で。