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西垣幸則氏が語る、イオンの実装型DX——現場・データ・店舗をどうつなぐか

イオンリテールの西垣幸則氏が語ったのは、理想論ではなく、すでに現場で動いている具体的な取り組みでした。セルフレジやAIによる業務効率化、顧客データを活用したマーケティング、そして店舗を起点としたEC連携。それぞれが単独の施策として存在するのではなく、「現場」「データ」「店舗」という三つの軸を起点に、一つの構造として統合されている点が特徴的です。

 さらに印象的だったのは、そのすべてが“現場出身の意思決定”から生まれていることです。西垣氏自身が店長経験を持ち、「現場最上主義」を掲げているからこそ、デジタルは現場を置き換えるものではなく、現場を強くするための手段として設計されています。

本セッションでは、イオンがどのようにして現場とデータを結びつけ、成果へと転換しているのか。その具体像が明確に示されていました。

1)業務効率化は「人を減らす」ためではなく、現場の役割を再設計するため

まず語られたのは、生産性向上に向けた具体的な取り組みです。セルフレジと「レジゴー」の導入により、レジ業務の約70%がセルフ化されました。さらに、AIによる勤務計画の最適化で作成業務は約70%削減、発注業務は約50%削減、値下げ作業は約70%削減と、大幅な効率化が実現されています。

特に重要なのは、「値下げ業務が経験不要になった」という点です。これまで属人的だった判断がAIによって標準化され、入社間もないスタッフでも実行できるようになっています。これは単なる効率化ではなく、“現場の再設計”に近い変化です。

一方で、西垣氏はセルフ化を100%にする考えはないと明言しています。高齢者やサポートが必要な顧客のために、必ず有人レジを残す。つまり、効率化と顧客満足を同時に成立させる前提で設計されているのです。

さらに重要なのは、その先です。削減された工数はどこに向かうのか。答えは明確で、「接客」と「売り場づくり」です。

現状、衣料品売り場では接客や売り場づくりに使える時間は約20%にとどまっているといいます。これを将来的には半分近くまで引き上げたい。つまり、DXの目的はコスト削減ではなく、「人が価値を発揮する時間を増やすこと」に置かれています。

ここにはもう一つ、構造的な背景があります。2030年に向けて、人件費は年率7%で上昇し、労働力は10%不足すると予測されている。だからこそ、「同じ人数でより高い価値を出す」前提での再設計が不可欠なのです。

DXは“省人化”ではなく、“価値の再配分”である。その思想が、すでに実装として動いていました。

2)2000万人データは「個人商店の再現」である——リテールメディアの本質

デジタルマーケティングの核となるのが、約2000万人の会員データです。このデータに対し、171種類の趣味嗜好タグを付与し、顧客ごとに最適な提案を行う仕組みが構築されています。

ただし、ここで重要なのは“精度”ではありません。西垣氏が語った本質は、「商売の原点は個人商店である」という一言に集約されています。

かつての八百屋や肉屋は、顧客の顔を見て、その日に最適な商品を提案していました。イオンがやろうとしているのは、その関係性をデータで再現することです。

つまり、171タグの本質はセグメンテーションではなく、“関係性の再構築”にあります。

さらに、このデータはリテールメディアへと展開されます。アプリ、サイネージ、売り場、レジを連動させたエコシステムを構築し、顧客・メーカー・自社の三者に価値を提供するモデルです。

ただし、ここには難しさがあります。リテールメディアは一歩間違えれば「ノイズ」になります。

そのためイオンでは、一斉配信ではなく、趣味嗜好に応じた情報提供に徹底的に寄せています。広告ではなく、「その人にとって意味のある情報」に変換することで、初めて機能する。

この設計が成立する理由は明確です。
“データを売る”のではなく、“関係をつくるために使っている”からです。

結果として、顧客には有益な情報、メーカーには購買接点、自社には売上と広告収益が生まれる。リテールメディアが成立する条件が、すでに具体的に示されていました。

3)店舗は「物流拠点」ではなく「体験とデータの中心」である

ECにおいても、イオンの戦略は明確です。Amazonのような純オンラインとは戦わない。その代わりに、「店舗というアセットを最大化する」方向に振り切っています。

オンラインとオフラインを統合し、
・自宅配送
・店舗受取
・ロッカー受取
・ドライブピックアップ
といった複数の受け取り手段を用意。

注目すべきは、その使われ方です。

店舗来店のピークは12時までと16〜18時。一方で、ドライブピックアップは14〜16時、ロッカー受取は18時以降に増加する。つまり、リアル店舗とECが時間で補完関係にあるのです。

これは単なる利便性の話ではありません。
「顧客の生活リズムを設計に取り込んでいる」ということです。

さらに重要なのは、データ活用の主体が本部ではなく現場にある点です。分析基盤「ADaM Portal」を通じて、店舗の担当者が自らデータを見て仮説を立て、売り場を改善する。

象徴的なのがギフト売り場の事例です。
伝統的な儀礼ギフトは縮小する一方で、グルメカタログギフトに需要が集中していることをデータから発見。売り場を大胆に再設計し、売上を回復させました。

ここで重要なのは、「正解を本部が配らない」ことです。

かつての小売は、成功事例を全店に横展開していました。しかし現在は、店舗ごとに顧客が違う。だからこそ、「店舗ごとの最適解」が求められる。

データは意思決定の中央集権化ではなく、分散化を加速させるためのツールとして機能していました。

4)DXの成否を分けるのは「人材設計」である

この取り組みを支えているのが、人材設計です。

イオンでは、現場出身の人材を選抜し、データ分析やツール活用を教育する専門チームを構築しています。さらに、事業部長・店長・売り場担当者に対して同じツールを使わせることで、「同じ目線で議論できる状態」を作っています。

ここで興味深いのは、「経験と勘を否定していない」点です。

むしろ、ベテランの経験や直感が、データによって裏付けられることで精度が上がる。実際、ベテランは短時間で顧客像を描き、それをデータと結びつけていく。

つまり、
経験 × データ = 意思決定の加速
という構造が生まれています。

さらに、従業員向け端末の導入も進められており、在庫情報、マニュアル、AIサポートを統合。これにより、どの売り場でも対応できる“横断型の現場”が実現されつつあります。

ここまで来ると、DXはシステム導入ではなく、「人の能力を拡張する設計」に変わっていることが分かります。

締め

イオンの取り組みは、デジタル導入の話ではありません。
現場・データ・店舗という三つの要素を一体として再設計する試みです。

そして、その中心にあるのは常に「人」です。
効率化の先にあるのは無人化ではなく、人がより価値を発揮する状態をつくること。

DXとは何か——その問いに対して、イオンは「現場を起点に再構築すること」だと、具体的な形で示していました。

 

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