ウォルマートFY26通期決算──売上7,132億ドルの先にある「速さ・便利さ・個客化」の思想転換
世界最大級の小売企業ウォルマートが発表したFY26通期および第4四半期決算は、単なる増収増益の報告ではない。売上高7,132億ドル、グローバルeコマース24%増、広告事業46%増──そこに並ぶ数字の奥には、小売の定義そのものを塗り替えようとする意思が見える。店舗を持つ企業がデジタルを拡張するのではなく、テクノロジーを軸に「生活の接点」を再設計する段階へ。小売の進化が加速する今、この決算はウォルマートが“追随者”ではなく“牽引者”であることを示す節目となった。
1.決算全体像と時代背景
FY26通期の売上高は7,131億ドル(前年比4.7%増)、第4四半期は1,906億ドル(同5.6%増)となった。営業利益は通期で298億ドル(1.6%増)、第4四半期では87億ドル(10.8%増)と、四半期ベースでは売上を上回る伸びを見せている。
特に注目すべきは「営業利益が売上より速く伸びた」という事実だ。単なる規模拡大ではなく、収益構造の改善が進んでいることを示す。粗利率は通期24.2%へ上昇(+8bps)、第4四半期も+13bpsと改善。インフレや物流コスト上昇、為替変動など不確実性の高い環境下にあっても、利益体質を磨いている。
背景には、小売業の急速な再編がある。EC専業、プラットフォーマー、AI活用企業が競争を激化させる中で、ウォルマートは“オムニチャネル企業”から“テック主導の生活インフラ企業”へと進化を急いでいる。その過程が、今回の数字に凝縮されている。
2.主要数値の変化と意味
今回の決算で象徴的なのは、グローバルeコマース売上が24%増と大きく伸長した点だ。特に米国ではeコマースが27%増、店舗起点の即日配送やピックアップが50%超成長という構造的変化が起きている。
また、広告事業は通期で約64億ドル規模へ成長し、前年比46%増。第4四半期も37%増と高い伸びを維持した。小売が「商品を売る」だけでなく、「データを活用して広告価値を生む」モデルへ転換していることが読み取れる。
さらに、会員収入はグローバルで15.1%増。サムズクラブでは会員数・更新率・Plus会員増加が寄与している。安定収益源としての“メンバーシップ経済”が着実に拡大している。営業キャッシュフローは416億ドル(+51億ドル)、フリーキャッシュフローは149億ドル(+23億ドル)。
デジタル投資を進めながらも、財務体質を強化している点は見逃せない。
3.経営者の発言に見る意志
ジョン・ファーナーCEOはこう語る。
「小売の変化のスピードは加速している。私たちはその変化を受け入れるだけでなく、リードしている。未来は速く、便利で、パーソナライズされる。」
この言葉は今回の決算を象徴している。単なる“低価格戦略”ではなく、「速さ」「利便性」「個客最適化」が軸だ。従来ウォルマートの強みは価格優位性と店舗網だった。しかし今は、配送速度、デジタル接点、広告データ、会員基盤という“目に見えにくい資産”が競争力の源泉になっている。
利益率改善の背景にも、eコマース経済性の向上や在庫管理精度の改善があると明示されている。つまりテクノロジー投資が、思想として現場に浸透し始めているのだ。
4.事業構造の変化とトレンド
セグメント別に見ると、米国事業は第4四半期売上4.6%増、営業利益6.6%増。デジタルが牽引し、シェア拡大が続く。国際事業は売上(為替一定)7.5%増、営業利益(同)26.5%増と大幅改善。eコマース損失の縮小が収益を押し上げた。
サムズクラブは会員モデルを軸に、eコマース23%増。平均客単価はやや低下したが、取引数増で補完している。特筆すべきは、広告・マーケットプレイス・会費という“非伝統的小売収益”の拡大だ。粗利改善は商品販売だけでは説明できない。ウォルマートは今、「リテールメディア企業」「プラットフォーム企業」としての側面を強めている。
5.今後の注力領域とリスク
FY27ガイダンスでは、売上3.5~4.5%増、調整後営業利益6~8%増を見込む。営業利益の成長率が売上を上回る見通しは、収益構造転換への自信の表れだ。一方で、為替変動、金利、関税、地政学リスクなどの不確実性は明確に言及されている。テクノロジー競争やAI活用競争も激化する。
資本政策面では300億ドルの自社株買い枠を発表。財務余力を保ちながら成長投資と株主還元を両立する姿勢が示された。つまりウォルマートは、「攻め」と「守り」のバランスをとりながら次の段階へ進もうとしている。
6.まとめ
今回の決算から感じるのは、“ウォルマートが変わった”というより、“小売の定義が変わった”という事実だ。売上7,000億ドル企業がなお、eコマース24%成長を遂げる。その原動力は価格ではなく、「体験設計」にある。速さ、便利さ、個客化。これはEC企業の言葉だったはずだ。
店舗は物流拠点となり、広告は収益柱となり、会員はデータ資産となる。ウォルマートは巨大な実店舗網を“負債”ではなく“武器”に変えた。小売はもはや商品流通業ではない。顧客接点産業だ。
今回の決算は、その思想転換が数字として可視化された瞬間だった。
今日はこの辺で。