垣根を越え多様化認め 伊勢丹 GISELe 百貨店や雑誌の 変化
かつては確固たるブランド力を誇っていた雑誌や百貨店。しかし、SNSの普及や消費者の多様化を背景に、今やその存在だけでは支持を得るのが難しくなっています。そうした中、ファッション通販サイトやインフルエンサーなどと連携しながら、“ブランド力×編集力”を駆使して新たな価値を提供する動きが広がってきました。本稿では、雑誌「GISELe」とオンラインショッピングの連動企画、そして伊勢丹新宿店の“小柄女性”向けイベントを通じて見えてくる、雑誌や百貨店が進むべき方向性を整理します。
1.雑誌とネットが連携する新しい形──「GISELe × d fashion」
●ファッション誌のコンテンツ力をオンラインで拡張
ファッション通販サイトを運営するマガシーク株式会社は、NTTドコモと運営している「d fashionⓇ(ディーファッション)」上で、ファッション誌「GISELe(主婦の友社)」との紙面連動企画を実施しています。
誌面に掲載されたアイテムが、QRコードを通じてその場で購入できる仕組みや、定額制で様々な雑誌が読める「dマガジンⓇ」との連動によって、“読んで楽しむ”だけにとどまらず、“そのまま買える”購買体験を提供。これにより、紙の雑誌・オンラインメディア・ECを一体化し、それぞれの強みを最大限に活かしています。
●狙いは付加価値の最大化
従来の雑誌販売は、紙の誌面をいかに多くの読者に届けるかが主眼でした。しかし、消費行動がネット中心に変化し、SNSなどを通じて情報があふれる今、紙媒体も“購買へ直接つなげる”導線を整える必要があります。雑誌そのものの世界観を武器にしながら、ネットによる拡散やECサイトの利便性を合わせることで、読者・ユーザーにとってより魅力的な体験を提供しているのです。
2.ニッチなニーズを拾う──「伊勢丹新宿店 × 150cm-ish STYLE」
●百貨店の新たな挑戦:小柄女性への徹底アプローチ
一方、百貨店の雄・伊勢丹新宿店では、小柄女性向けの催事「150cm-ish STYLE」を2020年9月2日から開催。バランスにこだわった洋服やシューズをはじめ、伊勢丹館内から小柄さん向けアイテムを横断的にセレクトして紹介しています。
大きなブランドを一堂に集めるだけでは多様化する顧客ニーズに応えきれない時代。SNSで好みが細分化される中、こうしたニッチなターゲットに向けた丁寧な提案が求められています。このイベントが4回目を迎えることが、そのニーズの高さと評価を裏付けています。
●インフルエンサーと共創する“百貨店の編集力”
小柄女性向けイベントの主役には、インフルエンサー田中亜希子さんが登場。彼女の「~わたしたちのマイルール~」をコンセプトに、スタイリングやメイク、ライフスタイルなどを提案し、多様化する価値観を後押ししています。
伊勢丹新宿店の本館2階・3階・4階から厳選したアイテムを小柄さん向けにコーディネートするというのは、まさに“百貨店の総合力”と“インフルエンサーの情報発信力”の融合。広いターゲットに向けた“大量提案”ではなく、限られたターゲットに向けて“的確な編集”を施すのが特徴です。

3.これから問われるのは「編集力」
●場所やブランド力だけでは勝負できない時代
雑誌だから読まれる、百貨店だから来客がある──そんな時代は終わりを迎えつつあります。消費者の好みが細分化・多様化し、情報がネット上にあふれる現代では、いかにニッチなニーズを拾って魅力的に発信できるかが鍵です。
●連携で生まれる新たな価値
今回の「GISELe × d fashion」のように、紙媒体とECをシームレスに結びつける取り組みは、雑誌の世界観と購買体験を融合させ、さらに付加価値を高めています。伊勢丹新宿店がインフルエンサーと組み、“小柄女性”というターゲットに向けて店内全体をコーディネートする試みも、ニッチと高品質の組み合わせでオリジナリティを打ち出しています。
●企業の“編集力”こそが勝機をつかむ
今後、雑誌や百貨店だけでなく、ファッションビジネス全体において重要となるのは、ターゲット設定・商品選定・発信方法などを巧みに編集し、“わたしにちょうどいい”と思わせる提案をいかに作り上げるか、という視点です。
ブランドとしての歴史や規模に頼るのではなく、他社とのコラボレーションやインフルエンサーの活用などを通じて、一人ひとりの顧客が共感できる価値を生み出す編集力が、これからの勝敗を左右するといえるでしょう。
4.まとめ
• GISELeはオンライン通販や「dマガジンⓇ」と連携することで、雑誌の世界観をそのまま購買につなげる取り組みを展開。
- • 伊勢丹新宿店は小柄女性を主役に据えたイベントを開催し、“多様性”を受け入れながら百貨店ならではの高品質かつ的確な編集力をアピール。
- • 雑誌や百貨店は“そこにあるだけ”で支持される時代ではなくなったからこそ、ネット連動やニッチターゲットへの丁寧な提案で、新たなステージを切り拓こうとしています。
- • 今後は、いかに他業態やインフルエンサーと連携してターゲットを深掘りし、“共感”と“購買”を同時に生み出せる編集力を発揮できるかが問われるでしょう。