モバイル重視になるのは時代の要請 常に変化する「全体最適」に成長の跡 楽天G 2023Q3(決算)発表
常に中身を変容させて、時代に合わせていく。それが企業の本質。思うに、企業が大きくなるほど、その「全体最適は変わっていく」。楽天グループは、2023年第3四半期決算(2023Q3)に関して、発表を行ったが、それを感じた。代表取締役会長兼社長 三木谷浩史さんは、赤字が続く経営でも、終始、戦略に自信を見せたのだ。
・全体最適は時代とともに変わる
楽天は、元々「楽天市場」から始まっているが、その後、トラベルなどのEC系の事業の買収に始まり、カードをきっかけに金融事業へ参入してきた。特に、EC系のサービスとカードは親和性が高く、それらを相互に掛け合わせることで、今の経済圏の発想にたどり着く。
特に経済圏のことが叫ばれた時に、EC系のショップから聞かれたのは、ECに対しての思いはないのだろうかという声であった。その声も自分たちの生活に直結するから、よくわかる。経済圏の発想こそが、全体最適を考えた上での、部分最適だったのではないかと思う。
早速、決算内容を見てみると、インターネットサービスでは、売上収益が+13.9%(前年同期比3012億円)となっている。
その中のコアビジネスである、国内ECは、2023Q3で前年同期比+15.7%で、1.6兆円。
これが先ほどの部分最適と全体最適の話に通じると思っている。例えば、競合のLINEヤフーでみれば、国内eコマース取扱高の成長率が、+0.4%だ。彼らの場合は、戦略を変えたことでやむを得ない話だが、それだけ伸び続けること自体が、難しいかがよくわかる。
金融を含めたこの経済圏こそが全体最適。それでECという部分最適が機能している。これはECだけでは解決できない。いち早く経済圏の構想を取り入れたからこそ、ネット事業に依存せず、ネット事業が伸びている。
・世の中の動きを吸収して事業にプラスの価値を
ちなみに、今回、顕著に伸びているのが、楽天トラベル。なお、全体最適の利点がここでも活きる。おそらく「ふるさと納税」における制度改正がプラスに作用している。10月から改正するのに伴い、9月に駆け込み需要が、寄付行為の上昇につながっている。
そして、秀逸だなと思うのは「ふるさと納税」の返礼品として「楽天トラベル」の割引クーポンを用意していたりする。要するにトラベルの売り上げに寄与しつつ、ポイント経済圏が触発できる。もちろん、これが全てではない。しかし、些細な外的な要因すらも、経済圏の中のプラス材料にして、会員の付加価値をあげていることは間違いない。
言うまでもなく、トラベルでポイントが貯まれば、楽天市場での利用機会は増える。
だから、やっぱり部分最適ではなく、全体最適を考えた戦略。だから、ECなどの売上も伸び続けているのだろう。そして、その全体最適を、常に彼らは新たな事業を取り込みながら、変容していくわけだ。
ちなみに、フィンテック事業も売上収益+13.6%でNonGAAP営業利益も、営業利益も、+35.8%である。
これらは、特に、楽天市場に関連して、カード利用を促し、またカード自体の利用をするヘビーユーザーにポイント還元をしていくことで、確固たる土台を築いた。これも、全体最適を考え、カード事業を筆頭に、金融を経済圏の核に据えることで、成し得てきた成果である
・経済圏に今必要なボリュームを創出するモバイル事業
この全体最適を考える上で、新たな材料として彼らが注目したのが、モバイル事業となる。これに関連して言えば、先ほどのインターネットビジネスの中に、今回から、コンテンツ系の収益も混ぜて説明を始めていることがわかる。
これまでなら、大きな枠組みで、小売と金融だった。そこに配信などのモバイルから発信される「コンテンツ」ジャンルも混ぜて解釈していくのは、時代の流れ。これが、「モバイル事業を主軸に置く」意味あいと重なっている。モバイル端末の価値があって、コンテンツの価値が発揮されるものだから。小売や金融の概念とは異なり、縁遠かった。
しかし、コンテンツは新たにその経済圏の入り口として価値が高まる「全体最適」の一因を担うものに、より高く位置付けられたということになる。
それらコンテンツ系はモバイルを継続利用している人が、恩恵を受けやすくなる。だから、モバイルを持っている人に、それらを還元していく。その利用機会が増えれれば、旧来、経済圏を担ってきた他の事業にプラスの価値をもたらしていく。おそらくそういう意図なのだろう。近々、モバイルのユーザーのポイント還元の度合いを上げるのもそこに通じている。
・モバイル事業を核にする理由
モバイルに関しては、2023Q3は、売上収益では前年同期比+21.6%(557億円)、NonGAAP営業利益の改善が+351億円(-767億円)。特筆すべきは、解約率が、一時は8%程度だったのが、2.06%まで落ち着くに至っていること。
ここからの変化について、IDとデータをポイントによって最大化させるところを、モバイルを入れることで、AIジャンルにまで広げて、楽天経済圏としての価値を高めるとしている。
それだけ、モバイルは人々に密着しているからだ。面白かったのは、AIに関連しての説明でこれまでの商品のたどり着き方と随分変わっていくのを実感した。
AIによって検索の質が高まっており、それを高めている要因が個々人のデータなのである。モバイルで密着するほど、色々な情報が集まりやすくなるので、AIの価値を宝の持ち腐れにすることなく最大化させることができるわけだ。
だから、モバイルを優遇すれば、その分、「これからの時代においては」かつての楽天カード並みに時代の恩恵を得られるという説明ができそうである。
だから、ダイヤモンド会員以外3倍だったものを、楽天モバイルユーザーであれば、毎日全員5倍にしていく。(2023年12月1日〜)。特に、現状の事業との相性もよく、楽天市場の流通総額が+60%などに見られ、その意義を強調した。まさに「全体最適」を考えた上のシフトチェンジといえそうだ。
・モバイル単体での収益も追う
事業として安定させるべく、モバイルの法人契約も開始し、6000社が契約。まずは、楽天の取引先を中心に行い、それは全体の40%を占めている。これらの要因も含めて、2024年12月には契約件数800万件に到達する、月次の純増。また、お客様の利用額も、スマホの利用時間の増加に伴い、ARPUが当初、837円だったところから、2046円に至っている。
彼らが意図する大容量の利用がお客様に浸透するほど、彼らは安定した収益を作れる。その一方で、このARPUが向上するということは、ポイント還元の度合いも大きくなるので、お客様の恩恵が増える。彼らとしてはここを底上げするために、配信などのコンテンツ系の強化を行うわけだ。そして、最初のインターネットビジネスの話に戻ってくる。
そういう動きが会社としての成長に欠かせないことを伝えて、モバイルへの投資に理解を促す。ともに、それらのために費やした「借金=デット」をなくしていくことを強調した。例えば、楽天証券HDの上場然り、負債ではなく、資本となりうる資金調達を行い、運転資金の改善をしていく。
その借金の額を意識しながら自分の未来を思い描く。いまだベンチャースピリッツの姿勢を崩さず、突き進む。三木谷さんが再三、言う「現状に甘んじず、リスクをとってやり切る姿勢」はまだまだ続くのだ。
今日はこの辺で