20年かけて築いた「自分たちの正解」を、なぜ手放すのか。AMSの周年パーティーで見えた村井眞一の商売哲学と次の挑戦
会社の20周年を祝うパーティーなのに、そこには少し不思議な光景があった。中心にいるはずの村井眞一会長が、インフルエンザのため欠席していたのである。ところが、集まった人たちに話を聞いていると、口々に村井さんの人柄を語る。「親分肌」「常識にとらわれない」「とにかく自ら動く人」。会社の取引先としてだけではなく、個人的な付き合いのある人も少なくない。だから僕には、会社の20周年でありながら、どこか村井さん自身の歩みを祝うパーティーのようにも感じられた。
もっとも、村井さんはAMSの創業者ではない。それでも、その後の経営に深く関わり、会社の方向性を大きく変えてきた人物である。その意味で、今回の挨拶で僕が最も興味を惹かれたのは、AMSがこれまで大切に育ててきた自社開発のECシステム「PRAMS」の提供を終え、Shopifyを軸とした事業へと舵を切る決断だった。
自分たちの強みを、なぜ自ら手放すのか。
実はそこにこそ、村井さんが一貫して大切にしてきた商売の本質と、AMSが次の20年に向けて描こうとしている未来が重なっているように思う。
1.最初にやったのは、目先の改善ではなく、仕組みを作り直すこと
村井さんがAMSの経営に参画して、最初に下した大きな決断。それは、既存のシステムをゼロから作り直すことだったという。一般的に考えれば、動いているシステムを作り直すには相当な覚悟がいる。それまでの投資もあるし、何より、日々の業務を支えている以上、簡単に止めるわけにもいかないからだ。
しかし、村井さんが見ていたのは、目先の業務効率化ではなかった。
ECが普及すれば、企業の商売のあり方そのものが変わる。そのときに、今の仕組みを継ぎ足して対応するだけでは限界が来る。だったら、これからの時代に必要な仕組みを、最初から作り直した方がいい。そうした発想から、AMSは基幹システムのクラウド化に取り組み、2015年には全クライアントの移行を完了させた。
さらに翌2016年には、6,000坪のフルフィルメントセンターを立ち上げている。ここが面白い。単にECサイトを作る会社であれば、システムの開発だけに集中してもよかったはずだ。しかし、実際の商売は、ネット上で注文を受け付ければ終わるわけではない。
その商品がどこにあり、どう管理され、いつお客様の手元に届くのか。実店舗との在庫の兼ね合いもある。つまり、画面の向こう側にある商売全体を考えなければ、ECそのものを成長させることはできないのである。
だからこそ、システムと物流を一体で整えていった。その結果、AMSは累計500を超えるブランドを支援する会社へと成長した。だが、これは単に設備を拡大したという話ではない。商売を成立させるために何が必要なのか。その全体を見渡して、必要なものから組み立ててきた20年だったのだと思う。
2.20年かけて育てた自社システムを、あえて手放す決断
そんなAMSが、2025年に大きな方向転換を決断した。自社開発のECプラットフォーム「PRAMS」から、世界的なECプラットフォームであるShopifyを活用した支援へと軸足を移すというものである。これは、単に採用するシステムを変更するという話ではない。
それまでAMSは、自社でシステムを開発し、それを多くの企業に提供することで、独自の競争力を築いてきた。システムそのものが会社の強みであり、他社との差別化にもなっていたのである。
ところが、その自社システムにこだわることをやめようというのだ。当然、社内からは強い反対があったという。自社で作った仕組みを使えば、外部のプラットフォームに依存する必要もない。それなのに、なぜ他社の仕組みに乗り換えるのか。
経営的に考えれば、もっともな意見である。
でも、村井さんが考えていたのは、その先だったのではないか。自社のシステムを持っていることと、お客様にとって最善の環境を提供できることは、必ずしも同じではない。世の中の技術が進化し、さまざまなサービスがつながるようになったとき、自社ですべてを抱え込むよりも、外部の優れた仕組みを活用した方が、お客様に大きな価値を提供できるかもしれない。
だとすれば、守るべきものは自社のシステムではなく、それによって実現しようとしていた商売のあり方なのである。
AMSは実際、2025年1月にShopifyを活用したEC事業支援サービスを開始。同年12月には、Shopify Partner of the Year 2025 – Japanで「Rising Star Partner of the Year」を受賞している。方向転換が具体的な事業活動へとつながっていることがうかがえる。AMS Inc.
そして今回、村井さんは「PRAMS」の提供を終える決断にも言及した。これを僕は、単純な撤退とは思わない。むしろ、これまで自分たちが積み上げてきた技術や経験を、次の時代に生かすための選択だと思うのである。
3.システムの向こう側にある「商売」を見ているからこそ
実は僕は、以前、村井さんをじっくり取材したことがある。そのときの記事が、「大量に売れるという事は何を削るかである」AMS 社長 村井眞一さんというものだ。そこで印象的だったのが、彼の商売に対する考え方である。
村井さんは、かつて鈴屋でバイヤーとして活躍し、その後、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の事業にも深く関わってきた。彼の話を聞いていると、いつも共通しているのは、目の前にいるお客様をよく見て、必要な商品を、必要なときに、必要な量だけ届けることの大切さだった。
例えば、洋服が3色あったとして、すべてを同じ数量だけ仕入れればいいというわけではない。お客様の動きを見ながら、売れる商品は厚く仕入れ、そうでないものは思い切って減らす。
つまり、大きな売上を作ろうとしたとき、何を増やすかだけでなく、何を削るかが重要になる。その判断をするために、村井さんはバイヤーでありながら、足繁く売り場に通っていたという。僕は、この考え方がAMSのシステム開発にもつながっていると感じた。
リアル店舗とネット通販の在庫を一元化し、商品の動きを把握することで、必要な場所に必要な商品を届けられるようにする。それは、システムを売るためのシステムではない。かつて村井さん自身が売り場で考えていたことを、テクノロジーによって多くの企業で実現できるようにしたものだったのである。
だからこそ、今回のShopifyへの転換も、僕には一本の線でつながって見える。自社開発のシステムが最善であれば、それを使う。でも、違う仕組みを活用した方が、お客様の商売をより良くできるのであれば、そちらを選ぶ。
大事なのは、システムを守ることではなく、その先にある商売を成長させることなのだ。
だから、今回の決断は一見すると大きな方向転換でありながら、村井さんの本質的な考え方は何も変わっていないように思えるのである。
4.うまくいかなかった経験も、次の価値を生み出す力になる
もっとも、ここまでの20年が順風満帆だったわけではない。村井さんの挨拶には、社会環境の急変によって経営が大きく揺らいだ時期があったことや、離れていったお客様もいたことが語られていた。僕は、こういう部分を隠さずに振り返るところにも、村井さんらしさを感じた。
企業の周年パーティーでは、どうしても成功した出来事に光が当たりやすい。どれだけ成長したか、どれだけ多くの企業を支援してきたか。もちろん、それも重要な実績である。けれど、会社が成長する過程では、必ずしも思い通りにいくことばかりではない。
お客様から厳しい指摘を受けることもあるだろう。期待に応えられず、関係が途切れてしまうこともある。
それでも、村井さんは、お客様からの指摘があったからこそ実現できた機能があり、うまくいかなかった経験から生まれたサービスがあると振り返っていた。ここが大切なのだと思う。自社の中だけで考えていると、どうしても今ある仕組みを前提に物事を考えてしまう。しかし、お客様からすれば、欲しいのはシステムそのものではない。そのシステムを使うことで、自分たちの商売が良くなることである。
だから、時には厳しい言葉に向き合い、それを改善につなげていく必要がある。
そう考えると、今回のShopifyへの転換も、単に時代の流れに合わせたというだけではないのかもしれない。これまで多くのブランドに向き合い、その声から学んできたからこそ、自分たちの提供価値を見直すところにまで踏み込めたのではないか。僕には、そんなふうにも感じられた。
5.EC支援会社から小売支援会社へ。広がるAMSの役割
その流れを受けて、今回のパーティーでは、もう一つ重要な方向性が示されていた。それが、EC支援会社から小売支援会社への転換である。小林祐子社長の挨拶では、これからのAMSが目指すものとして、ECと実店舗をなめらかにつなぎ、AIなどのテクノロジーも取り入れながら、商売全体を支えるという考え方が示された。
僕は、ここにも大きな意味があると思う。
そもそも、商売をする側からすれば、お客様がネットで買うのか、実店舗で買うのかは、本来、別々に考えるべきことではない。例えば、店舗で商品を見た人が、後からECで購入することもある。逆に、ECでブランドを知った人が、実店舗を訪れることもある。ところが企業の内部では、EC部門と店舗部門が別々に存在し、それぞれの売上を追いかけていることも少なくない。
だからこそ、その間をつなぐことには意味がある。しかも今後は、単に在庫情報を共有するだけではなく、お客様との接点や購買体験、さらにはAIを活用した業務のあり方まで、見直していく余地がある。AMSが目指しているのは、そうした商売全体を支える存在になることなのだろう。
そして、そのための体制として紹介されたのが、グループ企業の存在だった。「amsplus」は婦人衣料品などのECや小売、卸売、フルフィルメントを担い、「amswellness」はコスメのOEMやブランド販売、インナーケア商材を展開する。さらに「amsnext」はDX支援に加え、ベンチャーへの出資やインキュベーション、経営支援を担っている。
それぞれの事業を見ていくと、単にECのシステムを提供するだけではないことがわかる。商品を作ることから、売ること、届けること、さらには新たな事業を生み出すところまで、関わる領域が広がっているのである。
つまり、AMS自身が商売のさまざまな領域に関わることで、これまでとは違った角度から、お客様の課題に向き合えるようになっていく。ここで重要なのは、事業を多角化すること自体が目的ではないという点だ。お客様の商売を成長させるために、今までの枠組みでは対応しきれなかった領域へと踏み込んでいく。その結果として、グループの役割が広がっているのだと僕は受け止めた。
こうして考えると、AMSが掲げる小売支援会社への転換は、これまでの20年間で積み上げた経験を、より広い領域で生かそうとする挑戦なのだと思う。
6.親分肌の村井さんが、次の20年に託そうとしているもの
そして、今回の挨拶で、僕がもう一つ興味深いと思った言葉がある。それは、これからのAMSについて、強いリーダーが一人で引っ張るのではなく、現場の一人ひとりが主体性を持ち、アイデアを出し合う組織にしていきたいと語っていたことだ。これを聞いて、僕は冒頭のパーティーの光景を思い出した。
村井さんを知る人たちが、口を揃えて「親分肌」と表現する。常識にとらわれず、自ら決断し、行動する。そうした姿勢で周囲を巻き込みながら、会社を引っ張ってきた人なのだろう。ところが、その村井さん自身が、これからは一人の強いリーダーだけではなく、現場の主体性が重要になると話しているのである。
僕には、ここが実に象徴的に思えた。おそらく、これまでのAMSには、村井さんの経験や直感、そして決断力によって切り開かれてきた部分が少なからずある。しかし、会社が大きくなり、事業の領域も広がっていけば、すべてを一人の判断に委ねるわけにはいかない。だからこそ、これまで村井さんが実践してきた「商売の本質を見る」という考え方を、今度は社員一人ひとりが自分のものにしていく必要があるのだと思う。
そのためには、現場が自ら考え、挑戦できる環境が必要になる。村井さんは、頑張った人がきちんと報われる仕組みを作りたいとも語っていた。そこには、単に経営体制を変えるというだけではなく、人が育ち、自分の意思で挑戦できる会社にしていこうという思いがあるのではないだろうか。
そして、これは僕がパーティーで感じた温もりともつながっている。20周年を迎えた会社を祝うために、多くの人たちが集まっていた。そこには取引先としての関係だけではなく、村井さん個人とのつながりを大切にしている人たちもいた。
企業は、システムや設備だけで成り立っているわけではない。誰かが挑戦したときに、それを応援する人がいる。困ったときには手を差し伸べ、時には厳しいことも言ってくれる。そうした関係が積み重なって、会社の力になっていくのである。今回、村井さんは残念ながら会場にいなかった。それでも、彼の人柄を語る多くの人たちが、その場にいた。
僕は、そこに20年間の歩みが表れていたように思う。そして、AMSが自社のシステムを手放してでも、次の時代へ進もうとしていることと、社員一人ひとりの主体性を大切にしようとしていることは、実は同じ方向を向いているのではないか。
どちらも、今ある自分たちの形に固執せず、次の可能性を信じて、人や仕組みに未来を託していこうとする姿勢だからだ。大切なのは、これまで築いた形を守り続けることではなく、そこで育まれた価値を、次の時代につないでいくこと。
20周年のパーティーは、そのことを改めて考えさせてくれる時間だった。村井さん、そしてAMSの皆さん、20周年、本当におめでとうございます。
今日はこの辺で。