グルメ&ダイニングスタイルショー春2023
飲食というのは、人々の生活に密着している。だからこそ、スルーしてしまうことも多い。案外、見落とされる価値もあるのではないか。それで、「グルメ&ダイニングスタイルショー春2023」に参加した。古き良き伝統を今に伝えようとする商工会議所の言葉などはまだ、発掘するべき価値があることを思わせた。
地域と共に成長した味噌の話
1.なぜかその街には味噌蔵が9つも!
商品は、時に、特定の地方の歴史に深く関わってそれを強みに変えることがある。それが、長野県にある「岡谷」という街の話である。実は、長野県の岡谷では「味噌」が有名で、一つの街の中に味噌蔵が9つも存在しているから。そこまでして味噌がこの街で価値を持っている理由はなぜだろう。
岡谷商工会議所の岩田絢佳さんに聞いた。それこそ、この街の歴史と味噌は、深く関わりあって、この街の生活に根付いていることがわかった。
2.製糸業の隆盛とともに
元々、味噌は江戸時代からこの地域で生産されていた。その後、脚光を浴びることになったのは大正・昭和初期以降である。実はこの場所は古くから「製糸業」が盛んな地域であった。その時代、そこで働く工女(こうじょ)達に、お味噌汁を振る舞ったことがきっかけとなって、ブレイクしたのである。美味しいお味噌汁を作る。そのことが彼女達のモチベーションにつながると、この街総出で、味噌を盛り立て、一躍脚光を浴びることになった。
昭和30年代に入ると、みその生産量は全国一になったという。だが、まさに商工会議所がわざわざ街の味噌屋に声をかけて、このようなアピールをする話に直結するのだが、その後、徐々に衰退の一途を辿る。製糸業もさることながら、街の味噌の需要が低下して、廃業が進んだ。
3.廃業が進む中でも失われるべきではない価値
市内に48社あった味噌業者はいまや、9つにまで減ってしまったというのだ。だが、裏を返せばこの街に密集して、9つもあるのは、その当時の名残を残すものであり、この街の価値であると考えたわけである。
聞けば、魅力的な味噌業者は多い。糀谷今井本店は、創業150年。店名の通り、こうじ味噌に打ち込み、そのほかの味噌は作っていない。煮上がった時に、ふわっと「こうじ」が浮き上がる「浮きこうじ味噌」にこだわっている。
他にも、若宮糀谷であれば、昔ながらの「室蓋(むろぶた)」をつかって、自然の恵みを借りた熟成方法にこだわっているのだ。一年熟成させた味噌は、乳酸菌の酸味もあり、塩味を助ける。食材の旨みを邪魔せず、引き立たせるのだという。あげればきりがない。こういうひとつ一つのこだわりはその当時から今に至るまで受け継がれて残っていて、その価値を知られずにいるのである。
飴をジュエリーに見立てて
そして、数々の試練を乗り越え、飴一本で戦い続けた野州たかむら。元はOEM専業だった彼らは“100年に一度”の災害をも経験。悩んだ末に今のオリジナル商品を展開し続ける。
参考:三度の災害も不屈の飴屋 野州たかむら 心はいつも“あめ”のち晴れ
「これを作りたかったんです」と差し出したのは、ジュエリーのような飴であった。そのシリーズは「AROMA JEWEL」という。
ハーブの香りとフルーツの酸味をキラキラ輝くキャンディに閉じ込めた。
元々、彼らの強みはこういう形状。実はサンリオがきっかけだった。真鍮の棒をキャラクターやハートの形にして、(飴を流し込んで)手で詰めていたのが始まり。それが今の形状を売りとする飴の原点。それが発展して、オリジナルの形状で勝負をかけるようになって、このアロマは進化系である。
スルーしないで発掘しよう飲食の価値
その他、「SCENE FACTORY COFFEE ROASTERS」。詳しくは、こちらの記事に譲るが、まだ起業してそれほど、時を経ていないし、何よりコーヒーに深く携わってきたわけでもない人によるコーヒーのお話。注目すべきはコーヒー戦略の目の付け所である。コーヒーに「時間」が書いてあるのだ。コーヒーというとオーナーがふさわしいものをセレクトするというが、それはそれで価値である。けど、同社が見たのはそうではない価値にいかに振り向かせるか。そこで「時間」という素材を使ったのだ、
飲食というのは、人々の生活に密着しているからこそ、何も考えずに、口にしてそれで満足していたりする。彼らの共通する主張は、もっと深みのある体験を提供したいという気持ちである。だから、僕らはそういう案外、見落としている価値を拾い上げることで、僕らの生活は、もっと充実したものになるのではないか。そう思った次第である。
今の時代は数で勝負する時代ではないからこそ、彼らに今再び、その深さで脚光が当たることを切に祈りたい。
今日はこの辺で。