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楽天 「 緊急停止命令 」 取り下げ と前日の慶大教授の見解

(追記)公正取引委員会は、本日、3月10日、 楽天 による、送料込みラインの施策について、出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようになるのであれば、当面は一時停止を求める緊急性が薄れるものと判断し、東京地方裁判所に対して行っていた 緊急停止命令 の申立てを 取り下げ の旨、発表した
だだ、本件違反被疑行為に対する審査については、継続することとしている。

また、一方で楽天も「今後も店舗様とのコミュニケーションを深めながら進めていき、楽天市場の送料体系のわかりやすさという目的に向かって改善をしていきたいと考えております。今後様々な施策を進めてまいりますが、新型コロナウィルス感染拡大の予測が困難なため、さらなる施策については状況を踏まえ、決まり次第順次ご連絡いたします」とコメントしている。

※当メディアでは昨日、慶大教授により、意見書の中身についての説明会が開催されていたので、それも合わせて掲載するので、この件について、皆で色々考える契機にして貰えたら幸いだ。

 楽天は3月9日、「公正取引委員会による楽天に対する緊急停止命令の申し立て」をめぐって慶應義塾大学大学院法務研究科 石岡克俊教授による意見書の説明会を行ったのでその内容について掲載したいと思う。ここでの考え方は、楽天に限らずプラットフォーマーにおけるビジネスについて考えさせられる部分もあったので、参考になるはずだ。

 席上、石岡克俊教授は、楽天に対する緊急停止命令に関して、公正取引員会の70年の歴史における事案の中でも「違和感」を感じるものとしており、一つは「先例との比較」。もう一つは「法的位置づけ」からと説明した。

 そもそもの話として、石岡教授は、この独占禁止法に明記されている「緊急停止命令」については、平成17年に施行された独占禁止法「改正」以降、それが持つ意味合いが変わってきていて、そこの部分で、石岡教授は違和感を感じているようで、詳しくは下記でも述べられているので見て欲しい。

又、「緊急停止命令」とは仮処分で、優越的地位の濫用などを含め違法の疑いはこれから東京地裁の判断で行うものであり、今後、楽天や楽天ユニオンなど、各当事者から言い分を踏まえて判断していくので、あくまでもここでの話は石岡教授としての考えであり、意見書であるということは最初に言っておきたい。

公正取引委員会の「緊急停止命令」の趣旨とは

少し難しくなるが読んで欲しい。「緊急停止命令」における趣旨は「独占禁止法」70条にあり、2つ挙げられる。

 一つは「独占禁止法」に違反する疑いのある行為(今回の「優越的地位の濫用」の他、「私的独占」「企業結合」「合併」等)が対象となり「緊急停止命令」が行われる。

 もう一つは、違反する当該行為は、一定期間放置してしまうと、経済秩序を著しく乱してしまうという事実が必要だ。つまり、その後、「排除措置命令」により措置が行われても、その段階では、違法状態の回復が困難な場合もあり、この場合に関しては「緊急停止命令」により、迅速にストップをかけることができるということなのだ。

なぜこのような規定を設けているのか

ここで、先ほど触れた話が出てくる。平成17年の「独占禁止法」改正までの間は、「排除措置」を命じる前に「勧告」または「審判」が必要な制度で、「排除措置命令」の仮処分的な扱いの中で、「緊急停止命令」を行っていたわけだ。

つまり、違法だと認識した後、法的な処分を下すまでにそれだけの時間がかかっていたというのだ。勧告を相手側にして、審判を決しない限り、「排除措置命令」ができないので、その一定の期間が放置されることを防ぐために「緊急停止命令」をするのだ。

 ただこれは「改正前」の話。「改正後」は時間がかかるわけではなくなっているので、「緊急停止命令」というのは限定的に使われるものではないかという点。そして今回の場合、送料込みラインが行為そのものが現時点で行われていない点にも、石岡教授は言及している。本来は、公権力が入る前に、楽天と出店者側で決着をつけるべきであり、殊更に公権力の介入は必要だろうか、と疑問を投げかけたわけだ。

過去には先例はなかったのか?

「緊急停止命令」の先例に関しては6件あり、中部読売新聞事件など、メディア系の事例が多い。それらはいずれも激しい「顧客争奪競争」の中で、競争事業者間で顧客を取るために当該企業が企て、結果、不当な競争手段が採用されているというものになる。

そこで、そのままにしておくと不可逆的(後戻りできない)な変化が生じるとして、それが認められているというものなのだ。

例えば新聞などを思い浮かべて欲しい。上記にも書いたが、特に新聞などは「購読すると3ヶ月〜半年契約」なので、一度競合事業者に読者が移ると「取り返すのが難しい」わけで、これを「不可逆的」と言っている。だから直ちに緊急停止命令をする必要があったということなのだ。

例外もあるが、今回の材料にはならないと石岡教授

ただし富士八幡製鉄という会社の事例では、合併の前に実施されていて、「行為が行われていない段階で「緊急停止命令」が行われている先例がある」という異論がありそうだとした。ただ、石岡教授は「合併」の場合、その合併が承認されてからでは変えることは難しく、社会的なコストが伴うので、事前であってもこれは例外だと判断していいのではないかとした。

優越的地位の濫用について

「優越的地位の濫用」については「独占禁止法2条9項5号ハ(濫用行為)」の「その他取引の相手型に不利益となるように取引の条件設定し、もしくは変更し、又は取引を実施すること」という部分に関して指摘されている。

ここでは何が「不利益」かが重要で、ここで言う「不利益」とは相手方に対して優越的地位になっていなかったら発生しなかったであろう不利益なことと説明した。ちなみに「優越的地位」が何かについては、公正取引委員会でガイドラインをHPで公開しているので、そちらも参照するといいだろう。

では優越的地位を濫用しているのか?

「優越的地位」であるかどうかの評価は「楽天がネット通販のマーケットでどれだけのシェアを握っているのか」、「楽天と出店店舗との間で取引先変更がどれだけできるのか」、「楽天でなければならない取引を必要とする具体的な事情があるか」という部分に照らして判断される。

ただ、「楽天の地位がどうであるか」ということよりもむしろ「濫用行為」に注目すべきで、そこで「楽天が優越的地位を利用して、出店店舗の利益を奪い取っているということになるか」が問われるわけだ。

これは石岡教授が話したところであるが、楽天に限らず、オンラインモールの収益の中心は「出店事業者の取引総額に対する手数料」である。そこで、例えば、特定の出店事業者を抑圧的な形で、事業を押さえつけたところで、それが合理的な行動なのかと言われれば、そうではない。そうしたところで、それが楽天にとってインセンティブがあるかと言えば、そうではないからだ。

また、楽天が提供しているビジネスプランは同一した条件で課されるわけで、その事業者同士の競争に不利益を及ぼすとは言えない。さらに、楽天と同じようなことをする事業者、オンラインモールに波及すれば、被害が広がると公正取引委員会からは指摘があるが、楽天とライバルのAmazonにしても、事業モデルが異なるわけで、その指摘は妄想の類で他では言えないのではないかと疑問を投げかけ、意見書の内容に関しての説明を終えた。

プラットフォームの役目を国が問うたという事か。

ここまで、石岡教授の説明をまとめてみた。個人的な感想であるが、公正取引委員会としても、急激な時代の変化を配慮した上での決断だったのではないか。

テクノロジーの進化に伴い、今やGoogle、Apple、Amazon、Facebookなどの巨大なプラットフォームがデジタル市場を支配しようとしていることへの懸念が大きくなり、競争が制限され消費者の利益が損なわれる場合もなくはない。

とは言え、それに歯止めをかけるプラットフォーマーに対しての規制は新たな動きで、法律上、かつての事例に捉われない部分もあり、今までとは違ったやり方で、そこへの取締りの必要性が出ているようにも思う。

だから、今回は先例に捉われる事なく、公正取引委員会が極めて、その辺、革新的に、動こうとしたし、そのポーズを見せたという事ではないかと思った。

ただ、今回の事案においては優越的地位を濫用して、出店店舗の競争を妨げても楽天が手数料収入で成り立つ以上、何らメリットがあるものでもない。かつ、先例の手続きの環境とが異なる中で、そこまでして「緊急停止命令」をやる必要があったのか、という疑問が投げかけられるのも一理ある。

時代の変化に法律は適合し、変化もしなければならないのはわかるが、ただ、その一方で、その規律する法律側が企業の成長を妨げる要因とならないように努めなければならない。

その答えは裁判所に委ねられるところであるが、ここで公正なプラットフォーマーのあり方を打ち出すことにはなるだろう。その結果は、楽天ならずとも、ネット通販はおろか、テクノロジーに関わる事業者は、少なからず関わりある話題であり、日本のECの将来にも関わるからこそ、その成り行きに目を向けておきたいところだ。

今日はこの辺で。

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