東急が商業施設を再編、新会社設立で百貨店の未来を再構築へ|渋谷から変わる街の価値
東急株式会社(以下、東急)は、グループ各社が手掛ける商業施設運営事業を再編し、商業施設の一体的な運営や企画開発を推進するための新会社「東急リテールマネジメント株式会社」を設立しました。これに伴い、東急百貨店をはじめとするグループの商業運営各社を同社の傘下に置くことで、従来以上に横断的かつ強固な体制で顧客体験の向上と新規事業創造を図ることになりました。
百貨店の立ち位置の変化と再編の狙い
百貨店は、かつて“街の顔”として地域の消費者にとって欠かせない存在でした。しかし、近年は消費者のライフスタイル多様化やEC(電子商取引)の拡大、さらにはコロナ禍による来店動向の変化などもあいまって、その立ち位置が大きく変わりつつあります。
一方で、インバウンド需要の回復やデジタル技術を活用した新たな顧客体験の創出など、百貨店を含む商業施設には依然として大きな可能性が存在します。
そのような中、東急グループは“渋谷”を最重要拠点と位置付け、“エンタテイメントシティSHIBUYA”のビジョンを掲げてきました。若者向けの新しいコンテンツ創造や、フード・ビューティーといった多彩な切り口の売り場づくりなどに取り組むことで、国内外の顧客を取り込み、街全体の活性化に貢献しています。今回の再編は、こうした取り組みをさらに加速させ、百貨店を含む商業施設全体を横断的にマネジメントすることで、魅力と競争力をより高める狙いがあります。
新会社「東急リテールマネジメント株式会社」の設立
新たに設立された東急リテールマネジメント株式会社は、東急グループ内で分散していた商業施設運営の統括機能を一本化し、事業の最適化を図る役割を担います。下記のような効果が期待されています。
1. 経営効率の向上
商業運営各社に分散していた企画・開発・運営機能を集約することで、重複する業務を整理し、生産性を高めるとともに投資の効率化が見込まれます。
2. 顧客体験の強化
グループが培ってきた多彩な事業ノウハウや顧客との接点を集約することで、より魅力ある売り場やサービスを一体的に企画・提供しやすくなります。
3. 新規事業の創出
グループ企業が連携することで生まれるシナジーを活用し、新たなビジネスモデルやコンテンツを生み出す土壌が整います。
百貨店の分割と再編の具体的内容
– 百貨店事業の分割・承継
2025年8月1日を効力発生日として、株式会社東急百貨店(以下、東急百貨店)を分割会社とする会社分割を実施。東急100%出資の「TK百貨店準備株式会社」(以下、TK百貨店準備会社)へ百貨店事業を吸収分割し、その後、東急は事業分割後の東急百貨店を吸収合併します。TK百貨店準備会社は同日に「株式会社東急百貨店」に商号を変更する予定で、新会社として財務基盤を安定させた形で百貨店事業を継承する構図になります。
– 商業運営各社の株式の承継
同じく2025年8月1日付で、東急が100%所有する商業運営各社(東急百貨店、東急モールズデベロップメント、SHIBUYA109エンタテイメント、ながの東急百貨店、渋谷地下街、東急商業發展(香港))の株式を、東急を分割会社として東急リテールマネジメントに承継させる吸収分割を実施。
これにより、百貨店事業を含む商業施設運営を手掛けるグループ各社が東急リテールマネジメントの傘下に集約され、グループ横断的な意思決定や戦略実行が可能となります。
ざっくり言うと「東急グループの商業施設運営を“整理して、再スタート”させるための組織再編」をしてることになります。
💡ざっくりまとめると・・・
✅ 百貨店については「会社ごとリニューアル」する
– いまの東急百貨店(株式会社東急百貨店)は、
→ その中身(=百貨店の事業)を「TK百貨店準備株式会社」という“箱”に引越し(吸収分割)させます。
– 中身を抜かれた元の東急百貨店は、東急本体が吸収して消滅します。
– 一方で、中身を引き継いだ「TK百貨店準備株式会社」は、名前を「株式会社東急百貨店」に改名。
つまり、「東急百貨店」という名前は残るけど、中身を新しい会社に引き継いで“再出発”するということ。
✅ なぜそんな回りくどいことするのか?
– 財務リセットや経営のしがらみを整理して、
– もっと身軽な形で百貨店事業を再出発させたいから。
✅ 商業施設全体は「1つの指揮系統」にまとめる
– 東急が100%出資して持っていた各社:
– 東急百貨店(新)
– 東急モールズデベロップメント
– SHIBUYA109エンタテイメント
– ながの東急百貨店
– 渋谷地下街
– 東急商業發展(香港)
これらの会社の株式(=持ち主)をすべて、
「東急リテールマネジメント株式会社」という新会社に渡して、傘下に入れる。
>つまり、今まで東急本体がバラバラに持っていた商業運営会社を、
1つの親会社のもとにまとめて、横断的にマネジメントできる体制にする。
✅ 結局、どうなるのか?
– 「東急百貨店」は新会社として生まれ変わって再出発する。
– 商業施設の運営会社たちは、東急リテールマネジメントのもとで連携・強化される。
– 全体として、東急グループは商業ビジネスを整理・統合し、再成長を目指すフェーズに入ったってことになります。
ややこしい再編だけど、要するに「百貨店も含めて商業事業を、グループで一体運営するための土台をつくった」ってことになります。
時代の変化と今後の展望
さて、話を戻せば、百貨店をはじめとする商業施設は、単なる「モノを買う場所」から、「体験を楽しむ場所」「コミュニティのハブ」へとその役割を変えています。
インターネット通販が当たり前となった昨今、リアル店舗が担うべき価値は「店舗に行かなければ得られない体験」であり、そこには飲食・エンタメ・イベント・情報発信といった多面的な要素が欠かせません。
東急リテールマネジメントは、この流れを加速させるべく、グループの持つ複数の商業ブランドやノウハウを束ねることで「今までにない顧客体験」を創出するとしています。具体的には、渋谷など主要エリアでの複合的な再開発や、沿線地域の特性に合った特色ある新規店舗やサービスの展開が期待されます。
まとめ:新しい百貨店の姿を目指して
今回の再編は、一見するとグループ内の組織再編にとどまるように見えますが、背景には百貨店をはじめとする商業施設の在り方が大きく変容する時代の要請があります。
東急グループ全体が連携し、これまで個々に培ってきた顧客接点やエンタメ要素をさらに統合することで、地域に根ざしながらも世界のトレンドを取り込み、より多様な顧客ニーズに対応した商業施設づくりを加速させる狙いがあるのです。
インバウンド需要が再び盛り上がりを見せるなか、“エンタテイメントシティSHIBUYA”の実現を目指す東急グループの取り組みは、日本の商業施設ビジネス全体の先導役となる可能性を秘めています。今後、地域や来街者にとって「必要不可欠な場」「ワクワクできる場」「東急ならではの個性を感じられる場」を創り上げるべく、百貨店の新しい価値創出が一層加速していくことでしょう。
今後の動向次第では、リアル店舗とデジタルの融合や、新たな体験型コンテンツの拡充、さらには地域社会や観光客との交流を深めるイベントなど、百貨店業界と商業施設全体をめぐるイノベーションが期待されます。変化が激しい時代だからこそ、今回の再編をきっかけに、百貨店という存在が改めて注目を集め、進化し続ける可能性が高まっているといえます。
参考:SHIBUYA AXSH、そして文化とビジネスとの遭遇、渋谷が拡散され続ける理由