ナイキ 2025年度Q3決算分析|売上9%減、ブランド戦略の転換点
ナイキ(NIKE, Inc.)は、2025年度第3四半期(2024年12月~2025年2月)の決算を2025年3月20日に発表しました。本記事では、ナイキの最新の業績について、主要な数字をもとに詳しく解説します。ナイキは、スポーツアパレル・フットウェア業界のリーダーとして知られていますが、今回の決算では売上の減少が目立ち、戦略の転換が求められる状況となっています。
1. 第3四半期の業績概要
ナイキの2025年度第3四半期の決算では、売上高・利益ともに前年同期比で減少しました。
- • 総売上高:112億6900万ドル(前年同期比9%減)
- • 為替の影響を除いた場合、7%の減少
- • ナイキブランド売上高:109億ドル(9%減)
- • コンバースの売上高:4億500万ドル(18%減)
- • 純利益:7億9400万ドル(32%減)
- • 1株当たり利益(EPS):0.54ドル(30%減)
ナイキの売上減少は、地域別に見ても顕著で、特に中国市場の低迷と北米市場の縮小が影響を与えています。
2. 地域別業績――全市場での売上減少
ナイキは世界中に販売網を持っていますが、今回の決算では主要な市場すべてで売上が落ち込んでいます。
北米市場
- • 売上高:48億6400万ドル(4%減)
- • フットウェア部門が9%減少し、特にランニングシューズの販売が鈍化。
- • アパレル部門は7%増加と健闘。
欧州・中東・アフリカ(EMEA)
- • 売上高:28億1100万ドル(10%減)
- • フットウェアは11%減少、アパレルは8%減少。
- • 為替の影響を除くと6%減に留まる。
中国市場
- • 売上高:17億3300万ドル(17%減)
- • フットウェアが17%減、アパレルも17%減と全体的に低迷。
- • 高級ブランドへのシフトと中国経済の減速が影響。
アジア太平洋・ラテンアメリカ(APLA)
- • 売上高:14億7000万ドル(11%減)
- • フットウェアが12%減、アパレルも8%減。
- • 為替の影響を除けば4%減に留まる。
このように、ナイキは世界中の市場で厳しい状況に直面しており、特に中国市場の落ち込みが深刻です。
3. 収益性の変化――利益率の低下
ナイキの収益性にも厳しい変化が見られます。
- • 売上総利益率(グロスマージン):41.5%(前年同期比3.3ポイント低下)
- • 大幅な値引き販売
- • 商品廃棄に伴うコスト増
- • 原材料費の高騰
ナイキは在庫管理の強化を進めていますが、消費者需要の変化に対応しきれておらず、値引き販売が避けられない状況にあります。
4. コスト構造の変化――販売・管理費の抑制
コスト管理の観点では、ナイキは営業経費の削減に成功しました。
- • 販売・管理費(SG&A):38億8700万ドル(8%減)
- • ブランドマーケティング費用(Demand Creation Expense):10億8800万ドル(8%増)
- • 営業間接費(Operating Overhead Expense):27億9900万ドル(13%減)
特に、ブランドマーケティング費用は増加しており、広告・プロモーションに力を入れていることが伺えます。一方で、間接費の削減により、コスト全体のバランスを取る戦略を取っています。
5. 財務状況――在庫削減と株主還元
ナイキの財務状況を見ると、在庫は前年同期比で2%減少し、キャッシュフローも安定しています。
- • 在庫額:75億3900万ドル(2%減)
- • 現金・短期投資額:104億ドル(前年同期比2億ドル減)
また、ナイキは株主還元を継続し、配当金と自社株買いを実施。
- • 配当総額:5億9400万ドル(6%増)
- • 自社株買い:4億9900万ドル(650万株の買戻し)
長期的な視点では、株主還元を強化しながら財務健全性を維持する方針を示しています。
6. ナイキの今後の展望
今回の決算発表では、ナイキの経営陣は「Win Now戦略」により今後の業績回復を目指すと表明しました。
経営陣のコメント
• CEOのエリオット・ヒル氏:
「スポーツを軸にしたブランド戦略を強化し、ナイキの存在感を高めることが重要だ」
• CFOのマシュー・フレンド氏:
「2025年度下半期も引き続き、イノベーションとブランド力の回復に集中する」
ナイキは、特にデジタル販売の強化と直営店(NIKE Direct)の回復を目指す方針です。
今後の成長戦略
- • デジタル販売のテコ入れ
- • NIKEアプリやオンラインストアの機能強化
- • ECサイトのパーソナライズ体験の向上
• 新製品の投入
- • スニーカーカルチャーを活かした限定モデル展開
- • テクノロジーを活かしたパフォーマンスウェアの強化
• マーケティング戦略
- • グローバルスポーツイベントとの連携
- • トップアスリートを活用した広告キャンペーン
7. まとめ
ナイキの2025年度第3四半期決算は、売上・利益ともに前年同期比で減少し、特に中国市場の低迷が痛手となりました。しかし、在庫管理の改善や株主還元の継続など、一定の財務健全性は保たれています。
今後、ナイキが再び成長軌道に乗るためには、デジタル販売の強化とブランド価値の向上が鍵となります。ナイキが打ち出す「Win Now戦略」の成果が、次の四半期以降にどのように反映されるのか、引き続き注目が集まります。