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高輪ゲートウェイ「ニュウマン高輪」開業|JR東日本の戦略と旗艦店テナントの全貌

2025年9月12日、山手線・高輪ゲートウェイ駅直結の「ニュウマン高輪」が本格開業を迎えました。延床約6万㎡、約180店舗というルミネ史上最大規模の新商業施設です。ここで注目すべきは、単なる規模の大きさではありません。従来の駅商業施設にありがちだった「1㎡あたりの売上を最大化するツボ効率」から大きく舵を切り、空間に“余白”を与え、来館者が思いがけない発見や滞在そのものに価値を見出せる仕組みを組み込んでいる点にあります。段差を活かした書店「文喫」、旗艦店規模で世界観を演出するブランド、上下階に連鎖する休憩空間──その総体が“都市の縮図”のような新しい回遊体験をつくり出しています。

 これは単なる駅前商業ではなく、JR東日本が「都市の玄関口にどんな価値を置くか」を問い直した挑戦です。本稿では、空間思想、上空体験、テナント戦略、サステナ・ローカル施策、立地の文脈という5つの切り口から、ニュウマン高輪の真価を読み解きます。

空間思想:余白が価値を生む「発見の設計」

ニュウマン高輪の象徴のひとつが、South 5階「こもれびら」です。ここでは巨大書店「文喫」が中心に据えられ、蔵書数は約10万冊。段差を活かした配置によって、本の海を俯瞰しながら選書できる体験が設計されています。従来の駅商業では、効率を優先して棚をびっしりと並べるのが常でしたが、ここではあえて余白をつくり、数の多さが“偶然の出会い”につながる仕掛けになっています。

さらに「こもれびら」は書店に留まらず、カフェや子どもの遊び場、写真館、雑貨ショップまでが同居し、一つの“小さな街”のような環境を形成しています。親子三世代が一緒に過ごせる空間は、単なる買い物施設ではなく、地域のリビングルームとして機能する狙いがあります。

また、館全体にちりばめられた休憩スペースが縦方向に積層するように配置され、来館者は歩きながらも自然に“滞在の呼吸”を整えられる構造になっています。これは「効率よく買って出る」のではなく、「立ち止まって体験する」ことを前提に設計された商業施設の新しい姿です。

上空150mの〈LUFTBAUM〉:都心の“別荘”という体験装置

28〜29階に広がる〈LUFTBAUM〉は、ニュウマン高輪のもう一つの象徴です。壁面緑化や屋上庭園「翠の庭」、イベントスペース「月白の庵」を備えた空間は、“都心の別荘”をコンセプトに設計されています。来館者は上空150mという非日常の中で、緑と音、食と景色が融合した時間を過ごすことができます。

レストラン群も豪華です。ニューヨーク発のウルフギャング・ステーキハウス、江戸前寿司の「SUSHI TOKYO TEN」、鎌倉発「ガーデンハウス」など、国内外の有名店が集結しました。中でも注目は八芳園プロデュースの「割烹 BUTAI」と「八芳園洋菓子店」。伝統と革新を掛け合わせ、ライブ感のある和食や上質な洋菓子を提供するこれらの店は、日本文化を現代的に解釈し直す試みとして象徴的です。

さらに、イマーシブオーディオ(全方位音響)やデジタルアートの導入により、ここでしか味わえない没入体験が実現。オンラインでは代替できないリアルの価値を体現する舞台となっています。

テナント戦略:旗艦店クオリティで“世界観”を売る

ニュウマン高輪のテナント誘致は、数よりも“質”を重視しています。各ショップに旗艦店規模の空間を与え、ブランドの世界観を存分に表現させているのが特徴です。

例えば、ハイエンドコスメ分野では、エルメス、プラダ、ドリス ヴァン ノッテンといったラグジュアリーブランドが専門店を展開し、最新のビューティトレンドを発信します。ファッションでは、循環型サービス「Next Loop」を提案するCFCL、刺し子を現代に蘇らせたポータークラシック、カルチャーを発信するビームスなど、“思想”を売るブランドが集まりました。

飲食も同様です。ハワイ発の「Rigo SPANISH ITALIAN」が日本初上陸し、テラスやペット同伴エリアを備えた“都会のリゾート”を提供。焼肉や蕎麦といった新業態も多数登場し、訪れる理由そのものを強化しています。ここでは“商品を買う”以上に、“世界観に没入する”ことが付加価値になっているのです。

さらに特徴的なのが、ワコールが展開する3Dボディスキャンサービス「SCANBE」です。セルフで身体をスキャンし、自分の体型や姿勢タイプを可視化できる仕組みで、インナー購入の導線と直結しています。単に商品を陳列するのではなく、測定→フィードバック→購入→継続利用という“体験のエコシステム”を組み込み、リアル店舗ならではの付加価値を創出している点がユニークです。

サステナ&ローカル:社会性を“常設機能”として組み込む

現代の商業施設に欠かせないテーマがサステナビリティです。ニュウマン高輪では、衣料品リサイクル拠点の設置や食品ロス削減を目指す「CORNER ZERO」など、循環型社会に向けた取り組みが常設機能として組み込まれています。

加えて、「こもれびら」をはじめとするコミュニティスペースでは、地域住民が憩い、子どもが遊べる設計を導入。地元学校との連携イベントやアート展示も予定されており、“施設の収益性”だけでなく“地域の暮らし”に資する機能が意図されています。

つまり、ニュウマン高輪は「よいことを一度やる」のではなく、「よいことを続けられる仕組み」を施設の中に埋め込んでいる点が画期的です。これにより、利用者・テナント・地域社会の三者から長期的な支持を得る基盤を築いています。

立地の文脈:駅直結×再開発のゲートウェイ

また、高輪ゲートウェイ駅は、山手線に49年ぶりに誕生した新駅であり、品川と田町の中間に位置する交通結節点です。新幹線や羽田空港へのアクセスも良く、東京南口の“国際交流拠点”としての潜在力を持っていると説明しています。さらに、2026年春には第3期エリア「MIMURE」が開業予定で、食文化を体験するオープンファクトリーが登場します。段階的な進化によって、街全体を完成へと導いていく構想です。

ニュウマン高輪は、“詰め込む発想”をやめ、余白・段差・縦動線・上空体験を駆使して「来たこと自体の価値」を高めた施設です。旗艦店規模で世界観を演出し、社会性を常設機能として組み込み、駅直結という立地を国際都市東京の玄関口へと進化させています。

JR東日本の本気は明確です。駅前開発のKPIを「売上効率」から「回遊・滞在・記憶」へと転換したのです。この事例は、ポストEC時代におけるリアル商業の競争軸が“効率”ではなく“記憶”であることを示唆しています。

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