LINE×dポイントクラブが生んだ新しいLTV戦略──ID連携が通信企業のエンゲージメントを変えた理由
会員数1億人を超えるdポイントクラブは、いま業界で最もLINEを使いこなす企業の一つとして注目されている。LINE公式アカウントの友だち数は2,800万人。単なる集客チャネルではなく、通信企業ならではの「つながり続ける関係性」を支える“エンゲージメントの装置”として機能している。LINEヤフーBiz conferenceでのトークセッションによれば、鍵となるのは、LINE IDとdアカウントのID連携である。
これにより、ユーザーの行動データが“宝の持ち腐れ”にならず、通信プラン、決済、エンタメ、家庭サービスへと循環し、LTV向上と解約率の低下を同時に実現している。
①通信企業が持つ“つながり続ける前提”が、データを“関係性”にアップデートした
通信企業には他社にはない前提条件がある。それは、ユーザーが“毎日つながり続けている”という事実だ。
ドコモはその圧倒的な接続基盤の上に、dポイント、d払い、dカード、ドコモ光・でんき、エンタメサービスといった多様な経済圏を築いてきた。しかし、サービスがどれだけ多層化しても、「誰に、どのタイミングで、何を届けるべきか」が分からなければ、価値は開花しない。
ただ、それもコンスタントに接触できる環境になければ宝の持ち腐れである。
そこで、ドコモが重要視しているのがLINEとのID連携だ。
LINE IDとdアカウントが結びつくことで、ユーザーは「通信」という生活インフラと、「LINE」という毎日の接触をつなぐ一本の線で結ばれる。日常の利用行動、購入履歴、ポイント利用、料金プランの状況──これらはすべて通信企業ならではの長期的データである。そのデータがLINEの高い開封率と結びついて初めて、「この人が必要としているタイミングで、必要なコミュニケーションを届けられる」状態が生まれる。
つまり、ドコモが築いたのは“広告の世界観”ではなく、「つながり続ける企業だから実現できる、関係性の深まり」である。通信企業の持つ長期接続性×LINEの即時性。この掛け合わせが、データを単なる数字ではなく“ユーザー理解”へと変換し、LTVを押し上げる土台になっている。
②ID連携が導く「パーソナライズド・コミュニケーション」の精度とLTVの伸び
ID連携が進むことで、コミュニケーションの世界は一変した。かつてLINE公式アカウントの指標といえば、友だち数やクリック率といった“メディア指標”が中心だった。しかしドコモは、そこから一歩踏み込み、「友だちであり続けるほど、LTVがどう伸びるか」という視点で評価を始めた。
実際、ID連携者に対しては、料金プランのアップセル、エンタメの利用促進、加盟店の利用状況に応じたレコメンドなど、きめ細かなパーソナライズが行われている。その結果、LINE経由でのプラン獲得単価はウェブ広告より約60%低いという極めて高い成果が得られている。
これは、“LTV = 売上”ではなく、“LTV = 関係性の深まり”というドコモの理解を裏付ける。
見られている配信は、ユーザーの行動を変え、通信企業との“信頼の接点”として作用する。ID連携は、単なるログイン手段ではなく、LTVのエンジンなのだ。
③スタンプ・絵文字・ポイント──多様な入り口を“関係性の導線”に変える設計思想
dポイントクラブが突出している理由の一つが「入り口の多さ」だ。
スタンプ、絵文字、ポイント、キャンペーン、事務手続き──ユーザーが友だち追加する動機はさまざまだが、ドコモは“どの動機でも歓迎する”設計を徹底している。象徴的なのが、歴史ある絵文字文化を再解釈した「ドットフー絵文字」。
10代・20代の若者からの流入が飛躍的に増え、リアクション数は5,800万を突破した。同じ「友だち追加」でも、絵文字で入る層とポイントで入る層では、関与度がまったく異なる。
重要なのは、動機の違いを分析し、適切なコミュニケーションへと導く“動線設計”にある。また、ID連携を条件とした“ミッション型スタンプ”、dポイントキャンペーンなど、連携後の行動を促す仕掛けも多層化されている。その結果、ターゲットリーチの3割がID連携済みという、業界全体でも極めて高い数値を実現した。
“友だちになる”ことはスタートにすぎない。
そこから“関係性を深める状態”へ引き上げる導線設計こそ、dポイントクラブの強さだ。
④アプリとLINEは競合しない──“選択できる体験”がエンゲージメントを底上げした
一般的に「LINEを強化しすぎると自社アプリのアクティブ率が下がるのでは」と懸念されることが多い。しかし、ドコモは真逆の結果を出した。LINE配信の活性化によって、dポイントクラブのアプリ・サイトのアクティブ率は十数ポイント単位で上昇したのである。
理由は明確だ。
ドコモはLINEとアプリを競わせていない。むしろ、ユーザーに「選択肢を提供する」ことを価値としている。アプリを増やしたくないユーザーにはミニアプリがある。
情報整理をしたいユーザーにはネイティブアプリがある。そしてLINEは“即時性”と“開封率の高さ”で、それらへの導線を補完する。
さらに、dポイント失効通知のように「損させないコミュニケーション」はLINEだからこそ成立する。ID連携していなくても届けられ、ユーザーに確実な価値を返せる。「あなたに損をさせない」という姿勢こそ、通信企業の信頼を支える基盤となる。タッチポイントを増やすことは、分散ではなく統合につながっている。
“アプリ × LINE × ミニアプリ”の共存構造こそが、ドコモのエンゲージメント構造の核心だ。
⑤ID連携が生んだ“データの循環構造”──解約率の低下から利益増加までを支える仕組み
ドコモが注力したID連携は、単なるデータ統合ではなく「循環構造」を生んだ。まず友だちが増える。そこからID連携が増える。
連携すればパーソナライズ精度が向上し、配信の効果が上がる。効果が上がればLTVが伸び、解約率が下がる。その成果をもとに、さらに友だち獲得施策に投資できる。この循環こそが、dポイントクラブの成長の実体だ。
実際、友だちではない層と比較した場合、「LINEを見ている層」の解約率は大きく低下している。さらに利益効果は119%増。ID連携によるターゲティングの精度、LINEのリーチ力、通信企業としての長期接続性──これらが重なることで“利益として実証できる関係性”へ到達した。
LTVとは売ることではなく、“つながり続ける価値をどれだけ高められるか”の指標である。ID連携はその起点であり、LINEはその器となり、通信はその基盤となる。
三位一体の構造こそが、ドコモのデータマーケティングを“マーケティングを超えた関係性構築”へ押し上げている。
⑥LINEは“リーチメディア”から“エンゲージメントメディア”へ──通信企業が描く未来地図
LINE公式アカウントは、いまや単なるリーチメディアではない。ドコモにとっては、データに基づいて“つながり続ける関係”を育てるためのエンゲージメントメディアである。ID連携が広がり、LTVが伸び、解約率が下がり、利益が増える──そのすべてを支える基盤となっている。
そして未来はさらに進む。
LINEとYahoo! JAPANのデータ統合が進めば、検索行動、アプリ利用、購買傾向をリアルタイムに活かしたコミュニケーションが可能になる。
「ドコモ 解約」検索への即時ケア。加盟店の利用履歴に応じた通知。ミニアプリからネイティブアプリへの最適導線。
AIによる自動運用と柔軟なリアクションの融合──。
通信企業だからこそ描ける“つながり続ける世界”が、LINEによって可視化されていく。ID連携、データ、AI、そして通信。これらが交わる地点に、次世代のユーザー体験が生まれている。