「界隈消費」とは何か──Z世代が選ぶ“心地よさ”と企業に求められる姿勢
2025年夏に開催された「マーケティングWeek -夏 2025-」。その中で注目を集めたのが、SHIBUYA109 lab. 所長の長田麻衣さんによる講演である。テーマは「マーケターは押さえておきたい!界隈消費トレンド」。
若者研究の最前線に立つ長田さんが、Z世代の消費動向を「界隈」というキーワードから紐解き、マーケターが見逃してはならないポイントを語った。単なるバズワードに終わらせず、実際の消費行動を読み解くための視座を提示した内容は、多くの参加者に強い印象を残したに違いない。
「界隈」という言葉が持つ心地よさ
いま若者の間で浸透しているのが「界隈」という言葉だ。
これは単なるバズワードではなく、誰にも強制されず、自分で取捨選択できる心地よさを象徴している。
たとえば「プロキャンセル界隈」では、今日は予定をキャンセルするけれど明日は参加する、という柔軟な選択が尊重される。こうした「自由に選べる余地」が共感を呼び、ひとつの集まりを形成しているのである。
バズワードに終わらせてはいけない「界隈」
「界隈」という言葉に安易に乗っかると、若者から「すり寄ってきた」と見透かされてしまう。大事なのは、なぜ心地よいのか、その背景にある消費動向を理解することだ。
界隈消費とは、趣味やファッション、推し活、世界観の共有などを軸に形成された“緩やかなクラスター”で生まれる消費行動を指す。コロナ禍以降、広く浅くつながるより、価値観の合う狭いコミュニティで心地よさを分かち合う傾向が強まってきた。
界隈の特徴──フラットで重なり合う関係
界隈には大きく4つの特徴がある。
1. 中心人物がいない:リーダー不在で、相互に影響し合いながら広がる。
2. 境界が曖昧:量産系から地雷系へと、重なり合うグラデーションが存在。
3. 複数所属が当たり前:一人が複数の界隈を行き来し、季節や関心で距離感を調整する。
4. リスペクトが必須:外部からの理解不足や決めつけは拒否されやすい。
つまり、界隈はフラットで柔軟だが、価値観への尊重がなければ排他的になるという二面性を持つ。
界隈で生まれる消費の2パターン
界隈消費には「内消費」と「伝播消費」がある。
界隈内消費:推しや体験が共有され、界隈内で自然に商品が広がる。例として、Vtuber界隈でのシャンプー案件が挙げられる。
界隈伝播消費:ある界隈で定着した商品が、他の界隈に波及する。アームカバーはストリート界隈からガーリー界隈に広がり、最終的にはトレンド大賞を獲得するまでに成長した。
起点となる界隈で熱量と共感を獲得することが広がりの前提となる。
企業が注意すべきアプローチ
企業が界隈に入る際は、「コミュニティマーケティング」とは異なる視点が必要だ。
大切なのは「囲う」よりも「支える」姿勢。すでに自然発生している界隈に対して、理解とリスペクトをもって参加し、界隈が楽しむ場を広げる支援を行うことが重要になる。
また、以下の4原則が鍵となる。
1. カテゴライズしない(「あなたは〇〇界隈ですね」と決めつけない)。
2. リスペクトを忘れない(熱量と共感を軽視しない)。
3. ポジティブ文脈で発信する(他の界隈を下げない)。
4. 活用シーンを提案する(その界隈ならではの使い方を示す)。
界隈に寄り添うマーケティングとは
今後のマーケティングでは、年齢や性別といった属性よりも、価値観やバイブスを基点に市場を捉えることが重要になる。
ターゲットを設定するのではなく、自社の商品と親和性のある界隈を探し出す。
そのうえで、距離感・テーマの絞り方・テンションを調整し、界隈に心地よく受け入れられる姿勢を持つことが求められる。
結論──界隈を理解することが企業の未来を左右する
界隈はバズワードではなく、若者の消費行動を読み解く本質的なキーワードだ。
企業は「界隈をどう尊重し、どう寄り添うか」を考えなければならない。そこに失敗すれば拒絶されるが、適切に向き合えば強い熱量と共感を伴った消費が生まれる。
Z世代の消費行動を捉える鍵は、“界隈を理解する姿勢”にある。