徐々にモバイルも経済圏の一員に 楽天G 2023 /Q1(決算) “積み上げていく”ことの大事さ
企業にとって強みをどう最大化するか。当然と言えば当然だが、それを感じさせる内容が、先ほど、行われた楽天グループの2023年第1四半期決算であったように思う。モバイルについては投資フェーズ。彼らの赤字の最大の理由である。けれど、これらもこれまでのECやカードと同じ。一つ一つ投資と回収を繰り返す中で、得られた成長を礎にして伸ばせばよい。ようやくモバイルも他の事業と一体で見ていくフェーズに入りつつあるように思えた。赤字が取り沙汰されがちだが、実は、それを思えば堅実といえば堅実なのかもしれない。
経済圏の価値を活かす通信環境の柔軟な変化
1.ワンクリック開通でハードルを下げる
どういうことか。まず、通信を取り巻く環境が徐々に柔軟になっている。要するに、通信企業間での変更がしやすくなっていて解約への手間がなくなってきたのだ。加えて、楽天は「ワンクリック開通」を可能にしていくことを明らかにした。これが通信企業を行き来するのに、プラスに作用する。
つまり、例えば「楽天市場」の画面上で、それ専用ページに遷移するリンクを用意する。そこで飛んだ先で、ワンクリックすると、申し込みから開通まで、一気にできてしまう。通常の楽天のサービスを受ける延長上で、モバイルの契約ができてしまうのである。
この手間を省くのを助けたのは、実は彼らが積み重ねてきた部分なのだ。つまり、楽天のサービスでは証券にせよ、既に本人確認に関しての資料を提出している。だから、それを有効活用すれば、モバイル契約の手間を削減できるのである。そうなると、モバイル契約に関してのハードルが一気に下がる。普段、楽天経済圏を利用している人がそのまま、ユーザーとなる上での障害がなくなる。
2.積み上げていたことが活きてくる
これが、冒頭、話したことにも通じるがプラスに働く。もともと、彼らは「楽天市場」、「楽天カード」、「楽天証券」という具合に、一つ一つ、彼らは親和性を持たせながら、裾野を広げてきた。固有のサービスは単体で確立されているから、ヘビーユーザーが存在する。そういうユーザーであるほど、モバイルを契約することに利点を感じる。だから、ここで、それらのハードルを取っ払えたら、彼らは自分の強みでモバイルを増やせる。
これを現実的な数字で当てはめると、楽天では4000万人、アクティブユーザーがいる。そう考えると、それらが全て「モバイルのユーザーとなるポテンシャルを秘めている」。これが企業価値を高めるわけだ。
別に、他社と比較して優れているなどと言うつもりはない。しかし、例えば、ZHDなどにおいては、ECにおける流通総額NO.1を目指す構想が、突発的に出てきた。確かに、それはそれで循環すれば、経済圏が活性化するかもしれない。しかし、そもそも、それぞれにヘビーと言えるだけのユーザーがまだ育っていない。だから、流通総額NO.1を目指すほど、持ち出すポイントが割に合わなくなって、引っ込めてしまった。だから、僕は、ZHDで言えば、積み上げてきた「検索や広告」を軸とするとする姿勢はは合点がいった。
3.楽天は楽天市場が核であり、それがこの企業を救う
さて、話を戻して、楽天の場合はどうだろう。祖業が「楽天市場」である。そことの親和性の高さからカード事業に手を広げて、証券などフィンテックで存在感を出してきた。繰り返すが、一つ一つ積み上げるようにして、事業を組み立ててきていた。だから、今、SPUが奏功しているのである。
上記の通り、それぞれにヘビーと言えるだけのユーザーが育ちつつある。その中で、それをフックにしてモバイルを展開する。だから、確かに堅実といえば、堅実だと思ったわけだ。
あとは、モバイルの中身で勝負をする。今、圧倒的に楽天モバイルが弱いとするのは品質だと言う。だから、彼らはKDDIとのローミング契約を通して、そこをフォローしていく。これが同時に、下記にも示すが、財務を救う材料にもなるから、理にかなっている。
相手方のKDDIの高橋社長も、プラスに捉えていた。ローミング契約で得られる利益があるので、お互いの強みと弱みをうまく、使い合えばいい。これらは、ウィンウィンな契約であると。楽天は後発な分だけ、モバイルを先行する企業に太刀打ちできない部分はあるだろう。だとしても、その先を見据えればいい。彼らにとっては書いた通り、その経済圏が強みとなって、モバイルもそこに匹敵するポテンシャルがあると、いうことなのだから。
ECも積み上げた功績が活きている
1.各々にヘビーユーザーがいるから経済圏の構想が貫ける
そういう意味合いで、ECも見ていくといいだろう。結果、モバイルが入るほど、今度はECでの利用単価が上がっていく。これは実際のデータにも表れている。
結果、モバイルの投資は会社の価値を上げるとともに、ECを盤石にさせていく要因にもなる。
ではそのECに関しての業績を見てみよう。やっぱり、積み上げてきた功績が実っているのではないか。だから、他社では若干トーンダウンした「ポイント経済圏」での戦略を引き続き、強気で攻めていける。外出自粛がもはや関係なくなった今、「楽天市場」と「楽天トラベル」の親和性の高さを見ればわかる。クロスユースを促して、国内ECの最大化に導いているわけだ。
具体的な業績で見ると、国内ECの中でもコアビジネス(楽天市場などのメイン事業)の売上高は1788億円で、前年同期比12.3%増である。なお、今回の決算ではNon-GAAP営業利益の定義が変わっている。それは、楽天市場などはモバイルの恩恵が上記の通り、大きい。だから、モバイルのSPUに関連するコストは、楽天市場に移管した。それを加味しても、前年同期比で6.0%増となっている。
仮にSPUコストを勘案しなければ、Non-GAAP営業利益12.5%増。つまり、売上高の上昇が12.3%増だから、利益部分もその成長に伴っていることがわかる。すると、売上を伸ばすことに意味が出てくる。
2.フィンテックも順調だからこそ、財務を見ていく必要性
フィンテックも楽天銀行、楽天証券を軸に、売上高が7.6%増。注目すべきは、営業利益で20.4%増である。楽天カードも目標とする3000万枚も目の前。クロスユースを強みに拡大戦略を歩んでいくことになるだろう。
そういう盤石な要素はあったとしても、モバイル自体にもテコ入れを行う。それが先ほどのKDDIとのローミング契約でもあって、投資部分を負担を軽減していく。設備投資の3000億円を削減し、ネットワーク費や販管費なども、抑えていくことがこれによって可能になる。財務を安定させて、安心材料を増やしながら、彼らの意図する経済圏の拡大を狙おうというわけである。
3.モバイルの伸び代は未知数だが経済圏の強みは他通信企業にはない
これを踏まえて、この決算の日の朝に、楽天モバイルが「最強プラン」なるものを投入してきたわけだ。現状、楽天モバイルには、プラチナバンドがない。屋内や繁華街で繋がりにくいから、KDDIのローミング契約も含めて人口カバー率を99.9%にして、それらを全てデータ高速無制限エリアにして、どれだけ使っても、2980円(税抜)にしたというわけである。
こういう前提を踏まえて、決算資料を見ていくとよい。
楽天グループとしての売上収益は、4756億3500万円。営業利益はマイナス761億9400万円。2022年の前年同期比が売上収益4350億2000万円で、営業利益はマイナス1131億8400万円。だから、今期は売上が伸びて、赤字の額は軽減され始めている。そう考えられるわけだ。
それを先ほどの実態に伴って見てみると、わかりやすい。楽天市場を起点に派生させた他のEC事業に加えて、フィンテックが奏功して、この会社を安定させている。
ただ、モバイルは投資額が大きいので、会社全体に赤字をもたらしている。けれど、それはこれまでの基盤となっている事業がフックとなって、生産性高く、顧客を獲得できるはず。
だから、事業としてはそれらを一体として見て、堅実に進んでいるという風にも受け止められるという話である。いよいよここから「モバイル」も、手のかかる“赤ちゃんのフェーズ”から少し“大人の階段”を登っていくのかもしれない。
今日はこの辺で。