ナイキ決算2025 Q4|“Win Now”戦略でブランド再構築とデジタル脱却を図る転換点
ナイキが2025年6月26日に発表した2025年5月期第4四半期決算(3〜5月)は、売上・利益ともに大幅な減少となりました。一見すると厳しい数字が並びますが、実際には「意図された構造改革の通過点」としての意味合いが色濃く、今後の成長への布石と捉えることができます。本記事では、数字の表面をなぞるだけでなく、「商品」「ブランド」「ネット通販」「市場の伸び代」といった観点から、ナイキの戦略を初心者にもわかりやすく深掘りします。
売上12%減、利益86%減──“リセット”の痛みを乗り越える試練のQ4【2025年3〜5月】
ナイキの第4四半期売上は、前年同期比で12%減の110億9,700万ドル、純利益は86%減の2億1,100万ドルに落ち込みました。これは過去数年でも特に大きな減収・減益幅であり、営業利益率(EBITマージン)も13.3%から2.7%へと急落しています 。
この背景には、意図的な「商品ポートフォリオの見直し」があります。とくに長年のヒット商品であった「Air Force 1」「Dunk」「AJ1」といったクラシックモデルを、あえて縮小したことが直接的な打撃となりました。この3モデルだけで、年間売上に10億ドル規模の逆風をもたらしたとされます 。
ブランドを“スポーツ”に再接続──Nikeが掲げる「Sport Offense」とは?
ナイキは今、「ブランド再構築」の真っ只中にあります。その中核をなすのが「Sport Offense(スポーツ・オフェンス)」という戦略です。
これまでナイキは、メンズ/ウィメンズ/キッズという“ターゲット別”の商品開発体制を敷いていましたが、今後は競技軸(バスケットボール、ランニング、サッカーなど)での縦割りチーム体制に切り替えるとしています 。
この狙いは明確です。
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競技ごとの「熱量の高いファン層」に直接向き合い、
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アスリートとの共創で革新的な商品を開発し、
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ストーリー性のあるマーケティングで感情を動かす、
──そんな「熱狂と信頼の再構築」が目的です。
その成果はすでに表れつつあります。ランニングシューズ「Vomero 18」は、発売からわずか3ヶ月で1億ドル以上を売り上げ、ウィメンズ・バスケットボールではA’ja Wilsonのシグネチャーシューズ「A-ONE」が発売3分で完売するという現象も起きました 。
デジタル販売は減少、しかし“値引き依存からの脱却”は前進中
ナイキの直販(Nike Direct)は全体で14%減、特にNike Digital(オンライン販売)は26%減と厳しい結果でした 。しかしこれは、単なる不調ではなく「価格競争から脱却するための意図的な調整」です。
これまでは値引きによる販売が増えすぎた結果、ブランド価値が毀損されていたという反省があります。そこで、今期は「フルプライスで売れる商品」への転換を強化。その成果として、値引き率は改善し、定価販売比率も上昇しました。
今後は、競技イベントに合わせた限定販売や、店舗との連動型プロモーションなど「熱量と価値のある売り方」にシフトしていく見込みです。
どこに伸び代があるのか?──クラシックモデル以外の再成長領域を探る
クラシックシューズ(AF1、Dunkなど)からの脱却を図る一方、ナイキは以下のような新たな成長軸に注力しています。
① パフォーマンス×ファッションの融合型商品
「Vomero 5」や「Shox」など、ランニングベースの商品を“ファッションユース”にリブランディングする動きが加速。これにより、アスリートだけでなくスニーカーヘッズや若者層への訴求力が拡大しています。
② ウィメンズ市場の開拓
A’ja Wilsonの事例に見られるように、ウィメンズ・バスケットボールやランニング、トレーニングアパレルは高成長中。特にZ世代女性に向けたアーバン系アパレルや限定企画が成果を上げており、Urban OutfittersやAritziaなどとの提携も進行中です 。
③ 卸売の再構築
フルプライス重視の方針に合わせて、JD SportsやDick’s Sporting Goodsとの協業により、高付加価値商品の展開を強化。従来型の大量流通ではなく、「セグメント別の卸戦略」にシフトしています。
④ Amazonとの戦略提携
今秋から、Amazon内にナイキ公式ストアを開設。ターゲットは「走る人・鍛える人・スポーツ好き」と明示されており、安売りではなく“機能性を伝える場”として活用する狙いです 。
関税、為替、在庫──それでも「回復の道筋」は見えたか?
一方で、ナイキを取り巻く外部環境は厳しさを増しています。
・中国からの輸入品に対する新たな関税(粗利率に最大▲1%)
・中国市場でのトラフィック低迷
・在庫整理のための値引き継続 などです。
ただし、これらを「一時的な痛み」として受け止めつつ、商品戦略と販売網の見直しによって「2026年度後半からの回復」を見据えた施策が進行中です。
既に、ホリデーシーズンに向けた受注(注文書ベース)は前年同期を上回っており、クラシック商品の構成比率も10ポイント縮小。新しい成長商品がポートフォリオの中心に置き換わり始めています 。
おわりに:
数字だけを見れば、今回のナイキ決算は「悪化」とも言えます。しかしその裏には、「ブランドの本質を取り戻す」ための地道な挑戦が見え隠れしています。目先の利益よりも、“長く愛される存在”であるために──ナイキは今、スポーツブランドとしての「原点」に回帰しつつあるのです。
次回の決算で、その取り組みが数字として花開くのか?我々は、スポーツのようにワクワクしながらその動向を見守りたいと思います。