配送を負担から価値へ──ヤマトの新戦略「Click & Collect」
ネット通販の急拡大に伴い、宅配ドライバーの負担増加などによる“宅配クライシス”が深刻化しています。これに対してヤマトホールディングス株式会社とヤマト運輸株式会社が打ち出した解決策が、配送そのものを「販売促進の機会」に変える取り組みです。イギリスのDoddle Parcel Services Ltdが提供する「Click & Collectシステム」を導入し、ECサイトで購入した商品を顧客の生活動線上にある実店舗で受け取れるようにすることで、新たな付加価値を生み出しています。
■ 取り組みの概要
ヤマト運輸と契約しているオンラインストアで商品を購入すると、「マルイ」「モディ」「はるやま」「フォーエル」「天満屋ストア」「大賀薬局」といった幅広い業種の店舗や、その他のホームセンターなど、全国各地の約600店舗(順次拡大予定)で商品を受け取れるようになります。
このサービスは、11月24日発送分(11月25日受け取り分)からスタートし、今後も提携店舗を増やしていく計画です。
■ サービスの流れ
1. ECサイトで商品購入
ヤマト運輸から届くメールに記載されるURLをクリックし、受け取り店舗を選択します。
2. 店舗到着後に通知
商品が店舗に届くと、二次元バーコードが添付された「納品完了メール」が届きます。
(一部店舗では、このメールから受け取り店舗の割引クーポンを取得可能)
3. 店舗で受け取り
二次元バーコードを店舗の専用端末に読み取らせるだけで、スムーズに商品を受け取れます。
■ 提携店舗側のメリット
• 集客効果
受け取りに来店した顧客が、そのまま店舗で買い物をする「ついで買い」を期待できます。実際、Doddleが展開している国の調査では、Click & Collectを利用するEC購入者の約70%が受け取り店舗でも買い物をするという結果が出ています。
• 購買促進
一部店舗で発行可能なクーポンを使うことで、購入意欲を高められます。
• 導入負担の軽減
新たなシステム投資は必要なく、専用端末を設置すればすぐにサービスを開始できます。
• 手数料収入
受け取った荷物の個数に応じて手数料が入る仕組みになっており、店舗にとっては新たな収益源にもなります。
■ ヤマトの狙いと今後の展望
ヤマトは従来、ネット通販の「配送請負」という立場でしたが、視点を変えると「荷主と顧客双方の情報を握るプラットフォーム企業」であるとも言えます。今回の「Click & Collectシステム」導入は、そのプラットフォームをオープンにし、多くの実店舗と連携することで、
- 1. 物流現場の負担軽減(宅配クライシス対策)
- 2. 受け取り利便性と顧客満足度の向上
- 3. 店舗への集客支援による新たな価値創出
といった多面的な効果を狙ったものです。特にデジタル技術を活用することで、コストや作業量を軽減しつつ、顧客とのコミュニケーションを深める“プラスの循環”を生み出せる点は、ヤマトの新たな戦略として大きな注目を集めています。
■ まとめ
「宅配クライシス」が叫ばれるなか、ヤマトが取り組むこの新サービスは、配送を単なる負担ではなく、実店舗とのコラボレーションによって付加価値を高める試みとして注目されています。顧客は都合の良い店舗で受け取りができ、提携店舗は新たな集客の機会を得られ、ヤマトも配達負荷を抑えながら顧客満足度を高められる三方良しの仕組みです。今後、このような“配送×販売促進”の取り組みは、オンラインとオフラインを融合させる新たな流通モデルとして、一層の拡大が期待されます。