荷物を届ける、その手前から商売を変える──ヤマト運輸と大和ハウス工業が東京・東雲で描く物流の未来
宅急便で知られるヤマト運輸が、企業の商品管理から配送までを一体化する大型拠点を東京・東雲に設けた。その舞台を用意したのは、物流施設の開発を手がける大和ハウス工業だ。都心に近い立地で、荷物を届けるまでの時間を短縮する一方、周辺住民への配慮や交流の場づくりにも力を入れる。そこには、ECの成長を支える物流の進化と、街の一部として共存する物流施設という、二つの新しい可能性が見えてきた。
2026年10月28日、東京・東雲にある「DPL東京東雲」を訪れた。ヤマト運輸が同施設内に開設した「統合型ビジネスソリューション拠点」の本格稼働に向けた記者会見と施設見学会が開かれたためだ。説明に立ったのは、ヤマト運輸のコントラクトロジスティクス事業の東雲プロジェクト長 弘内泰樹氏と、大和ハウス工業の東京本店建築事業部長、村上康則氏である。
両社の話を聞いていると、同じ施設を巡る説明でありながら、それぞれ異なる視点があることに気づく。ヤマト運輸は、荷物を届けるまでの仕組みを変えようとしている。一方の大和ハウス工業は、その物流を支える施設と、周辺地域との関係を考えている。
この二つが重なり合うところに、今回の取り組みの意味がある。
1. 宅急便のヤマト運輸には、もう一つの顔がある
ヤマト運輸と聞けば、宅急便を思い浮かべる人が多いだろう。個人が荷物を送り、別の個人が受け取る。そんな生活の中に溶け込んだ存在である。ところが、ECの普及によって、その役割はさらに広がっている。今や多くの企業がインターネットを通じて直接商品を販売する。そうなれば、企業から消費者へ商品を届ける物流が必要になる。僕らがECサイトで注文した商品を自宅で受け取れるのも、こうした配送網があるからだ。
ヤマト運輸は、その企業向け物流においても大きな役割を担っている。
会見で紹介された数字によれば、集配車両は約4万2,000台、宅急便の営業所は約2,800拠点、ターミナルは約80拠点。さらに法人関連の拠点が約400カ所あり、そのうち約260カ所が、商品の入荷から保管、ピッキング、流通加工、梱包、出荷までを担うロジセンターだという。
関東だけでもロジセンターは155拠点に上る。
つまり、ヤマト運輸は単に荷物を集めて運ぶだけではない。企業から商品を預かり、注文に応じて出荷できる状態に整えるところまで、すでに幅広く手がけているのである。今回の東雲の拠点は、そうした企業向け事業をさらに進化させるものだ。
その背景には、ECの需要増加だけでなく、物流そのものが企業経営の重要な課題になっているという事情もある。ドライバー不足、労働時間の制約、輸送コストの上昇。さらに、企業には温室効果ガスの排出量削減や、災害に備えた物流網の維持も求められる。個々の企業がそれぞれ倉庫を構え、トラックを手配し、配送を最適化するだけでは、対応が難しくなっているのだ。
2. 商品を運ぶだけではない。企業の商売そのものを支える物流へ
そこでヤマト運輸が成長領域として位置づけているのが、「コントラクトロジスティクス(CL)」という事業である。少し聞き慣れない言葉だが、簡単に言えば、企業の物流業務をまとめて引き受ける仕組みだ。例えば、化粧品ブランドが自社ECサイトで商品を販売しているとする。
従来であれば、商品を倉庫に保管し、注文に応じて取り出し、梱包した上で、配送会社へ引き渡す。その業務を自社で行うこともあれば、別々の会社に委託する場合もある。コントラクトロジスティクスでは、こうした一連の業務をまとめて担う。企業は商品開発や販売、マーケティングといった本来の事業に、より多くの力を注げるようになる。
しかも、ヤマト運輸が手がけるのは一般的な商品の保管や発送だけではない。
医療機器の洗浄やメンテナンス、電化製品の修理、パソコンやスマートフォンの初期設定を行うキッティング、24時間365日の緊急パーツ配送、リコールへの対応など、その業務は多岐にわたる。要するに、商品が作られてから消費者の手に渡り、その後に修理や交換が必要になるところまで、物流を軸に支援できるわけだ。
ここで注目したいのは、ヤマト運輸が顧客企業のサプライチェーン全体を見ているということだろう。海外からの原材料調達、国内工場への輸送、倉庫での保管、店舗への納品、そして消費者への配送。企業の物流を部分的に引き受けるのではなく、全体を見渡して最適な形を提案しようとしている。
配送手段も、自社の宅急便ネットワークだけに限定しない。必要に応じてグループ会社や他社の輸送手段も組み合わせるという。ここまで来ると、単なる配送サービスというより、企業の商売を成り立たせる仕組みそのものに関わる事業である。
3. 倉庫と配送拠点を一体化することで、ECの販売機会が変わる
では、今回の東雲の拠点には、どんな特徴があるのか。鍵になるのが「統合型」という言葉だ。通常、企業の商品を保管する倉庫と、全国に荷物を送り出す仕分け拠点は、別々に設けられていることがある。この場合、出荷する商品を倉庫からトラックで運び、配送会社の仕分け施設へ引き渡す工程が発生する。
今回の施設では、その二つの機能を一つの建物に集約している。建物の1階と2階には全国仕分け・輸配送機能、3階には宅急便の営業所が入り、4階から6階にはロジスティクス機能を配置する。上層階で商品を保管し、必要な加工や梱包を行い、そのまま下層階の配送ネットワークへつなぐ。別の施設まで荷物を運ぶ必要がなくなることが大きい。
例えば、ECサイトの注文締切時間で考えるとわかりやすい。
翌日配送を実現するために、従来は夕方までに注文を締め切らなければならなかったとする。しかし、倉庫から配送拠点まで移動する時間を省ければ、その分、受注締切を遅くできる可能性がある。これを「レイトカットオフ」と呼ぶ。注文する側にとっては、遅い時間まで翌日配送を選べるようになる。販売する企業にとっては、それだけ購入機会を逃さずに済む。
物流の効率化が、企業の売上機会の拡大につながるわけだ。ほかにも、故障した製品を回収して拠点内で修理し、再び届ける「リペア・リファビッシュ」や、商品をまとめて長距離輸送し、消費地に近い場所で個別配送に切り替える「バルクブレイク」といったサービスも紹介された。
こうした仕組みは、配送時間の短縮だけでなく、積み替え回数や輸送コストの削減、在庫の最適化にもつながる。東雲拠点の仕分け能力は、通常の荷物が毎時2万8,800個、クール便が毎時1万4,400個。合計で毎時4万3,200個を処理でき、従来型の施設と比べて約4割の生産性向上を見込んでいる。
統合型ビジネスソリューション拠点は、2007年に横浜で設けられたのを皮切りに展開され、今回の会見では全国9カ所の拠点が紹介された。東雲は羽田クロノゲートに次ぐ規模となり、2026年から2027年にかけて新たに稼働する4拠点の一つに位置づけられている。
ヤマト運輸にとっては、これまで培ってきた配送網を、企業の事業成長へと結びつけるための重要な拠点なのである。
4. なぜ東雲なのか。都心に近いことが物流の価値を高める
もう一つ見逃せないのが、今回の施設が東京・東雲にあるということだ。物流倉庫といえば、広い敷地を確保しやすい郊外のイメージがある。ところが今回は、人口やオフィスが集中する都心に近い場所に、これだけの規模の施設を構えている。ヤマト運輸が利用する面積は約12万平方メートル、約3万6,000坪。羽田クロノゲートに次ぐ規模だ。
首都高速湾岸線の豊洲インターチェンジから約1.5キロという立地に加え、大井コンテナ埠頭や羽田空港へも車で約20分とされる。陸海空の輸送網にアクセスしやすく、都心部への当日配送にも対応しやすい。これは、ECのように消費者の近くに商品を届ける事業では大きな意味を持つ。都心で注文が発生する。近くの倉庫に商品があり、そこから配送まで一体化していれば、顧客を長く待たせずに届ける仕組みを作りやすい。
さらに、医薬品や精密機器の緊急配送など、速さが求められる企業向けの需要にも対応しやすくなる。つまり、東雲という場所そのものが、物流サービスの価値を高めている。ただし、都心に近いことには、別の側面もある。周囲にはオフィスビルやタワーマンションが立ち並び、多くの人が暮らしている。その場所で大量のトラックが行き来するとなれば、騒音や夜間の照明、交通への影響などを考えなければならない。
物流にとって理想的な立地であっても、地域住民にとって歓迎できる施設になるとは限らない。だからこそ、今回の計画では、物流を担うヤマト運輸だけでなく、施設を開発した大和ハウス工業の役割が重要になるのである。
5. 大和ハウス工業が考えた、街に溶け込む大型物流施設
DPL東京東雲を開発したのは、大和ハウス工業である。建物は地上6階建ての免震構造で、延床面積は約4万5,000坪。同社が東京都内で開発した物流施設としては最大規模になるという。大型トラックが各階へ上がれるダブルランプウェイを採用し、施設全体で271台分のトラックバースを備える。物流効率を高めるための設計だ。
ただ、今回の説明で印象に残ったのは、施設の大きさ以上に、周囲への配慮である。例えば、車路やランプウェイを完全に密閉している。トラックが施設内を走行する際の騒音や、夜間のライトが周辺の住宅へ与える影響を抑えるためだ。公開緑地と駐車場の間にも防音壁を設け、トラックの姿が外から見えるのは、主に施設への出入りの際となるよう工夫している。
大和ハウス工業としても、車路とランプウェイを完全密閉する設計は初めての取り組みだという。さらに、建物の外観にはカーテンウォールを取り入れ、大型物流施設特有の圧迫感を抑えた。太陽光発電パネルも、周辺への反射光に配慮した低反射仕様を採用している。
これらは、単に物流施設の性能を高めるためだけの工夫ではない。都市の中に大規模な物流施設を構える以上、周辺の暮らしとどう折り合いをつけるか。その問いに、建築の側から答えようとしているように見える。
しかも、大和ハウス工業の取り組みは、周辺への影響を抑えるだけでは終わらない。物流施設を街から切り離すのではなく、地域にとって役立つ場所にしようとしているのである。
6. 物流施設が地域の居場所になる。二つの企業が重なる先に
その考えを象徴するのが、施設に隣接して設けられた「SHINONO-BA(シノノバ)」という交流施設だ。もともと、この場所には近隣町会の集会所や、江東区が管理する公衆トイレがあった。いずれも老朽化が課題になっていたという。
大和ハウス工業は開発にあたり、近隣町会や江東区と協議し、隣接する緑道公園も含めて地域の交流拠点として整備した。SHINONO-BAには国産の杉を用いた木造建築を採用。物流施設と地域との間に、人が集える場所を生み出している。この地域に開かれた空間づくりは、2026年度のグッドデザイン賞も受賞したという。ほかにも、施設の1階には保育施設を設け、子育てをしながら働きやすい環境を整えている。6階には有明方面を一望できるラウンジがあり、敷地南側の公開緑地は地域住民にも開かれている。
ここには、物流施設が雇用を生む場所でもあるという視点がある。施設が稼働すれば、そこで働く人がいる。その人たちが働きやすい環境を整えることは、物流業界が抱える人手不足への対応にもつながる。
そして、その施設の周りには、もともと暮らしている住民がいる。物流施設が地域に対して負担をかけないようにすることはもちろん大切だ。しかし、それだけでなく、地域の人たちにとっても価値のある場所にできないか。SHINONO-BAは、そんな発想から生まれた取り組みとして捉えられる。
防災面でも、免震構造や高潮を想定した床の高さの確保に加え、災害時に施設の共用部を一時避難場所として使うことや、支援物資の保管・集積場所として活用することを想定している。江東区との防災協定締結に向けた協議も進めているという。
日常では物流を支え、災害時には地域を支える。その役割まで見据えているわけだ。
販売する企業が新しいサービスを考えるだけでなく、物流の側からも、これまでになかった商売の可能性が生まれてくるのではないか。そして、その仕組みが街に根づき、働く人や地域住民にとっても意味のある存在になっていく。ヤマト運輸と大和ハウス工業。それぞれ異なる役割を持つ二つの企業の取り組みが、東京・東雲で重なり合った。
ここから、物流を起点とした新しいECの可能性と、地域に開かれた物流施設のあり方が、どのように育っていくのか。期待したい。