決算書だけでは、企業の「今」は見えない。楽天・みずほ・UPSIDERが挑む、新たな法人経済圏
楽天カード、みずほフィナンシャルグループ、UPSIDERの3社が、法人向けクレジットカード「楽天ビジネスカードプラチナ」を共同で展開する。最大10億円の利用限度額、年会費無料、楽天ポイント1%還元。さらに会計システムとの自動連携まで備える。
スペックだけを見ても、かなり思い切った法人カードである。ただ、発表会で話を聞いていて、僕にはもっと別のものが見えてきた。
それは、企業の「信用」の測り方を変えることで、これまで十分な資金を得られなかった企業の挑戦を後押しし、その企業を楽天の新たな仲間として迎え入れようとしているのではないか、ということだ。楽天が個人向けに築いてきた経済圏を、今度は法人へ。その入り口に置かれたのが、一枚のカードなのである。
1.個人281兆円に対して法人1193兆円。楽天が次に狙う巨大市場
楽天グループはこれまで、楽天市場、楽天カード、楽天銀行、楽天証券など、主に個人を軸として巨大な経済圏を築いてきた。しかし今回、三木谷浩史氏が明確に打ち出したのは「法人領域」への本格進出である。会見では、楽天グループのフィンテック戦略について、サービスのラインアップ拡充などを経て、現在はパートナーとの連携や法人領域、AI活用へとフェーズを広げていることが説明された。
その背景にある数字が興味深い。国内の個人決済市場は約281兆円。それに対して法人決済市場は約1193兆円にも上る。ところが、個人ではキャッシュレス比率が58%に達する一方、法人取引におけるクレジットカード決済は1%未満だという。
つまり、カード会社から見れば巨大な余白が残されている。
しかも楽天には、すでに楽天市場の出店店舗、楽天トラベルの宿泊施設、楽天ビューティーの店舗、楽天ポイント加盟店など、約90万社の法人との接点がある。
ここが重要なのだと思う。楽天はゼロから法人顧客を探すわけではない。すでに楽天のサービスを通じて商売をしている企業がいる。その企業に対して、今度は「売る場所」だけではなく、「お金を使い、管理し、成長するための仕組み」まで提供しようとしている。
楽天経済圏の扉を法人へと大きく開こうとしているように見える。
2.最大10億円、年会費無料。だが本質は「カードの豪華さ」ではない
10月1日から発行される「楽天ビジネスカードプラチナ」の特徴は明快だ。最大10億円の利用限度額、専用アプリと会計システムの連携、そして年会費無料で楽天ポイント1%還元。この3点を楽天カードは大きく掲げた。
楽天市場ならポイント還元率3%、楽天トラベルなら3.5%。楽天モバイルやGO BUSINESSなどのサービスともつながる。
こう並べると、楽天らしい「お得な法人カード」に見える。
だが、入口を低くすることに意味がある。
年会費を取らない。使えばポイントが貯まる。そして経費精算まで楽になる。企業からすれば「まず使ってみよう」と思える理由がある。そして、その企業が成長すれば決済額も増える。そこに、楽天市場や楽天トラベルといった既存サービスだけでなく、今後、楽天がAIを軸に広げていく新たなサービスも重なっていく可能性がある。
つまり企業の成長と楽天側の成長が対立していない。企業が挑戦し、商売を大きくするほど、この仕組み自体も大きくなる。
思えば、楽天市場も、単に商品を売るためのシステムではなかった。出店者同士が学び、競い、時に支え合いながら成長してきた側面がある。今度はその構造を、より広い「法人のお金」の領域で作ろうとしているのではないか。そんなふうにも見えてくる。
3.過去3年の決算書ではなく、「今日の会社」を見る
そして、このカードを単なる楽天経済圏の拡張で終わらせないのがUPSIDERの存在である。
従来の法人与信では、代表者個人の保証を求める方法や、過去3年程度の決算書を見ながら、人が数週間かけて審査する方法が一般的だったという。もちろん、それによって多くの企業が支えられてきた。しかしUPSIDERの宮城徹氏が指摘したのは、変化の激しい中小企業ほど「今」を評価してもらいにくいという問題だった。
半年前には小さかった会社が、今まさに急成長しているかもしれない。大きな取引が始まり、広告や仕入れに一気に資金が必要になることもある。それなのに、評価材料が過去の決算書だけなら、その変化を捉えるまでに時間差が生まれる。
UPSIDERは、銀行APIなどを通じて日々の入出金データを取得し、12万社へのサービス提供などで蓄積してきた独自の与信モデルを使って判断する。それによって「Webで完結」「最短当日」「決算書原則不要」で、最大10億円の利用限度額を可能にした。
ここにはAI時代らしい発想がある。
過去をまとめた静的な情報だけを見るのではなく、日々動いている企業の姿をデータから捉える。企業の成長速度が上がれば、信用を測る側も、その速度に合わせて変わらなければならないのである。
4.カード決済の後ろにある「面倒」まで消していく
もう一つ、このカードで見逃してはいけないのが、決済した後である。
専用アプリではカード情報や利用明細を確認でき、領収書をアップロードして会計システムと自動連携する。楽天カードの中村晃一氏は、仕訳などの経理作業を効率化し、業務負荷を軽減できると説明した。
これは中小企業ほど意味が大きい。
成長企業では、売上が増えれば仕事も増える。人が増え、広告費が増え、仕入れが増え、出張も増える。しかし、その裏側では領収書を集め、誰が何に使ったのかを確認し、会計システムへ入力する仕事も増えていく。
売上を伸ばした結果、管理業務に人が取られるという矛盾が起きる。
UPSIDERが今回提供しているのは、与信だけではない。アプリ、与信審査、業務プロセスを踏まえたカスタマーサポートなど、法人カードの裏側そのものだ。宮城氏は、楽天カードが自らの強みに集中し、UPSIDERがその裏側を支える構造だと説明している。
だから「最大10億円」だけを見ていると、このカードの意味を半分しか見ていないことになる。
挑戦するためのお金を使えるようにすることと、そのお金を管理する面倒を減らすこと。その両方を同時にやろうとしている。
そこに、今回の3社連携の意味がある。
5.「今まで信用されなかった挑戦者」を、新しい仲間にできるか
そこで僕は三木谷氏に、最後、少し金融とは離れた質問をした。金融系の記者会見に慣れていないというのもあるが(苦笑)。
AIによって世の中が急速に変化する中、決算書だけでは企業の今を捉え切れなくなっているのではないか。そして、自身も起業家である三木谷氏は、この仕組みをどんな人たちに使ってほしいと思っているのか、と。
三木谷氏は、日本では歴史的にベンチャーやスタートアップが信用を得にくく、信用を得るにしても個人保証を求められることが多かったと振り返った。その背景には、判断材料となるデータが乏しかったことがあるという。
しかし今は違う。
決算書の数字だけでなく、たとえば楽天市場でどんな取引をしているのか、場合によってはソーシャルメディアで何を言われているのかまで、様々な情報をリアルタイムで取得できる。そうしたデータを活用することで、法人の信用の測り方そのものが変わっていくのではないか、と三木谷氏は話した。
6.「自分たちもできる」と思える企業を増やす
もちろん、リスクがなくなるわけではない。それでも、これまで資金力がないために成長しづらかったスタートアップを支えられる可能性がある。さらに今回の仕組みでは、経費精算などの面倒な業務も軽減できる。その点でもスタートアップを中心に役立つのではないかと期待を寄せた。
そして、これらの答えを聞いて、楽天市場のことを思ったのだ。
かつてネットで物を売ること自体が挑戦だった時代に、小さな店を集め、商売の場所を作り、そこで店同士が切磋琢磨しながら成長していった。それが楽天という経済圏を作った。
ならば今度は、お金の領域でも同じことが起こるのかもしれない。
そう考えていたら、以前、三木谷氏に質問した時のことを思い出したのである。
その時、三木谷氏は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉を引き合いに出し、「自分たちにもできる」と思うことが大事なのだと話していた。そして、そう思えるきっかけを作っていきたい、と。
今回も、根っこにあるものは同じなのかもしれない。
すでに信用のある企業だけを集めるのではない。データによって企業の「今」を見つけ、可能性のある挑戦者を迎え入れ、その成長を支える。そして、「自分たちにもできる」と思える企業を増やしていく。
「楽天ビジネスカードプラチナ」は一枚の法人カードである。
でも、その先にあるのは、AIとデータによって「信用」のあり方を更新し、決算書だけでは見えなかった企業の「今」を拾い上げる、新しい楽天経済圏への挑戦なのかもしれない。
今日はこの辺で。