国内No.1を目指すのをやめた理由──ZHD×LINE×Yahoo!、次なる成長戦略とは?」
「国内物販eコマース取扱高No.1を目指すのはやめます」。それなりに衝撃的な発言だと受け止めた。その発言が飛び出したのが、Zホールディングス第3四半期決算である。
LINEとヤフーの相乗効果の行く末は
1.広告事業の伸び悩み
同社はヤフーとLINEを傘下に置き、両社のリソースを活用しながらコマースを強化し、国内物販eコマース取扱高No.1を目指すと説明していた。一方で、今回の決算発表において、ヤフーがこれまで牽引してきたメディア事業に関連する広告事業が大きく伸び悩んだ。
以下は決算資料における「広告関連売上収益 成長率」である。

ディスプレイ広告を筆頭に、広告全般の見通しが極めて厳しいという判断。会社として転換の必要性が出て、効率化を重視した動きに転換していく。

ZHDとLINE、ヤフーが合併
1.LINE出身の出澤さんが旗振り役に
これに関連して、Zホールディングス、LINE、ヤフーの3社が合併した。
代表取締役社長CEOには出澤剛氏が就任し、経営全体を統括する。経営の中心は出澤氏が担い、サービスのプロダクト責任者として、新たに代表取締役社長GCPOに慎ジュンホ氏が就任する。また、川邊健太郎氏は代表取締役会長として、両名をサポートする立場となる。
川邊氏は、この人事について「責任を感じての決断」としつつも、「ダメになったからではなく、より良くするための判断である」と強調した。
2.ECでの躍進を夢見て
さて、それを踏まえ、ショッピング事業の過去と今後について考えたい。ECに舵を切り過ぎたのではないか。
Yahoo!ショッピングは、宮坂学氏が社長を務めていた時期に「eコマース革命」を掲げ、大きく成長した。以降、右肩上がりの成長を続けてきた。
その流れは、現・ZHD社長の川邊健太郎氏に引き継がれ、ZOZOやアスクルを傘下に収めることで、ショッピング事業内での回遊性を高め、企業価値の向上を図る動きが加速していった。

LINEもECに関心を持っていたが、その主軸は「LINEショッピング」などのアフィリエイト型サービスであり、本格的なECプラットフォームとは異なっていた。そのため、Yahoo!ショッピングと手を組むことで、互いに補完し合い、相乗効果が生まれると考えられた。こうして「ECで国内ナンバーワンを目指そう」という動きが加速した。
しかし、LINEを活用したECには限界が見えていた。「LINEギフト」など、一部のサービスでは成果を上げていたものの、Yahoo!ショッピングにとどまらず、自社ECにおいてもLINEの存在感を高めようと試みた。それが「Smart Store Project」である。このプロジェクトは、企業と顧客をつなぐLINEの強みを生かし、EC初心者にも利用しやすい仕組みを提供する狙いがあった。しかし、その影響は限定的だった。
3.LINEは企業のDXには必ずや貢献できる
LINEは、その高いコミュニケーション性を武器に、独自の存在感を確立している。公式アカウントを活用し、企業と顧客を継続的につなぐ役割を果たしている点は、一定の成功を収めているといえる。ただし、それを無理にECへと結びつける必要があったのかについては疑問が残る。
実際、以前の決算発表において、外出の増加に伴いECの成長が鈍化しているのではないか。そうアナリストから指摘された際、小澤氏は「eコマース革命以降のブランクは大きい」と言及していたことが記憶に新しい。
確かに、傘下に収めた企業同士の相互利用により、経済圏のような動きは見られた。とはいえ、想定していた成長率には届かなかったのではないか。
しかし、明るい材料もある。「PayPay」の利用者は5200万人に達し、順調に拡大を続けている。この流れを受け、PayPayを軸に、LINEとYahoo!のアカウントを連携。さらなる最大化を図るべく「経済圏」の構築が打ち出された。
この戦略の根底にあるのは、「国内物販eコマース取扱高No.1」という目標だ。国内のECモールでトップの座を確立することで、経済圏を活性化させ、各種サービスの利用を促進し、最終的には企業価値を向上させる狙いがある。
PayPayなどのグループアセットを最大限活用
1.モールNo.1が答えではないのではないか?
ただ、ここにメスが入ったということだと思う。印象に残ったのは、ヤフー代表取締役 小澤隆生さんの言葉だ。
必ずしも、モールでナンバーワンになることが、答えではないのではないかと。それが現ZHDの企業価値を上げていくことではないのではないかと。
例えば、Yahoo!ショッピングなどのモール事業は、ユーザーへのポイント還元によってGMV(流通総額)が大きく左右される。つまり、ポイント投資を拡大しなければGMVの成長も見込めない構造になっており、結果として利益率は低い。
だから、会社として利益の高いところにリソースを割くべき。だから、モールナンバーワンを目指すことは、会社にとっては必ずしも、最適解ではないという判断なのだ。
2.PayPayなどのリソースを収益性を見て成長
一方で、PayPayは生活に根ざしたサービスであるがゆえ、決済回数、決済金額ともに伸びている。今まではPayPayが負担していた部分が、減少。今やメーカーなどからの負担が増えて自ら持ち出す額も少なくて済むようになるなどの成果が出ている。
だからこそ、カードなど、PayPayを軸にして、グループアセットを最大限活用して、成長と収益性のバランスを両立させていく考えに転換して、冒頭の発言につながるのである。

3.eコマース単体でもコストを最適化の動き
なお、eコマース取扱高は、1.11兆円(YOY +6.4%)。中でもショッピング事業は、上記にも書いたとおりだが、コストの最適化を図ったことで、4712億円(YOY -1.4%)となっている。

なお、彼らの中で明るい材料としてはリユース事業で、2611億円(YOY +8.0)となっている。これは、昨今、リユースが市民権を得てPayPayモールが好調に推移。その分の優良顧客がオークションである「ヤフオク!」に繋がっており、一体で見て将来性があると小澤さん。
4.何を強みとする経済圏なのか。その答えはECとは限らない
以前から感じていることだが、経済圏構想において重要なのは「何を強みとするか」ではないだろうか。ポイント経済圏を軸に「モールNo.1を目指し、企業価値を向上させるスタイル」。それは楽天と似ており、差別化が難しい。むしろ、PayPayを前面に押し出す戦略のほうが有効なのかもしれない。
「毎日使う」という点で、決済の持つ意味は計り知れない。
あらゆるインフラにこの「PayPay」が浸透していくという世界は恐らく、楽天などとは違ったカラーになる。なぜなら、カードをメインにする楽天はどうやってもスマホ決済を強化しづらいからだ。
また、LINEの持つ交流の強さは、企業と顧客とを取り持つDXなどにプラスである。なにも、ECをナンバーワンにしなくとも、自らの価値は発揮できる。その意味で、出澤さんがLINEでの知見を活かして、トップに立つのは、プラスかもしれない。
Yahoo!ショッピング、PayPayフリマ、ZOZOに、アスクルなど、頭数は揃っている。相応しいサイズで襟を正して、ショッピング事業を運営していく形になっていけばいい。それでもECにはマイナスにはならない。寧ろ、ECにとらわれない中で新生「LINE・Yahoo!」が両社の常識を覆し、革命を起こしてくれるほうに期待をしている。
今日はこの辺で。