ヤフーとヤマト運輸、フルフィルメント刷新で巻き返しへ――全国一律382円の宅急便がもたらす変化
国内EC市場は、楽天やAmazonを中心に熾烈な競争を繰り広げています。一方で、ヤフー(Zホールディングス)はLINEとの連携を進めつつ、物流分野の強化を図ることで自社経済圏の拡大を目指してきました。2021年4月、ヤフーとヤマト運輸が提供する「フルフィルメントサービス」が刷新されることにより、この取り組みは大きく前進します。
本記事では、この刷新の内容と背景、さらにはEC市場全体への影響を整理しながらわかりやすく解説します。
1.刷新されたフルフィルメントサービスの概要
1-1.ヤフーとヤマト運輸の提携の始まり
2020年3月、ヤフーとヤマト運輸は業務提携に向けた基本合意を交わしました。そこから誕生したのが、ヤマト運輸の倉庫や配送インフラを活用し、ストアに代わって保管・ピッキング・配送までを担うフルフィルメントサービスです。
• 狙い:ストアの保管・出荷作業の負担を軽減し、運営を効率化すること。
1-2.ヤマト運輸の強みを活かす仕組み
これまでストア自身が行っていた商品保管や出荷指示などを、ヤマト運輸が一括して請け負います。配送業務の大部分をプロの物流企業に任せることで、ストアは商品選定やマーケティングなど、本来集中すべき業務に注力できるというメリットがあります。
2.価格とサービス内容のポイント
2-1.全国一律の配送料金
目玉の一つは、投函サイズが179円(税抜)、宅急便サイズが全国一律382円(税抜)から利用できる点です。さらに、複数個同梱の追加ピッキング費用や保管手数料は別途かかるものの、低コストかつシンプルな料金体系はストアにとって大きな魅力となるでしょう。
2-2.最短“当日配送”の実現
これまでは当日15時までの出荷指示で「翌日配送」だったところ、最短で当日中に届けることも可能になりました。需要が高まる即日・翌日配送ニーズに応えることで、消費者満足度の向上が期待されます。
2-3.EAZYを活用した多様な受け取り方法
ヤマト運輸が提供する「EAZY」サービスにより、宅配BOXやガスメーターBOXなど多様な受け取り先を選択可能です。外出が多い利用者や、受け取り時間を気にする必要がある人への利便性が高まると言えます。
3.契約体制の一新―煩雑さからの解放
フルフィルメントサービスに参加する際の契約手続きが、完全オンラインで完結するようになりました。これにより、最短1~2日で利用開始できるように。紙書類のやり取りを減らすだけでなく、ストアオーナー側の導入ハードルを大幅に下げています。
4.Yahoo!ショッピングの「優良配送」施策
4-1.優良配送マークの可視化
Yahoo!ショッピングでは、配送が優秀なストアを「優良配送」マークで見える化しています。これは、利用者にとってはストア選択の指標になり、ストアにとっては自社の配送体制を整備する動機付けとなります。
4-2.フルフィルメントとの連携
フルフィルメントサービスの利用は、ストアの配送品質向上に直結します。優良配送マークを得られれば集客力が高まることも予想され、サービス導入を検討するストアが増える可能性があります。
5.背景にあるEC競争の激化とヤフーの狙い
5-1.楽天・Amazonとの競争
ネット通販市場では、楽天やAmazonが先行する形で大きなシェアを獲得しています。ヤフーはコロナ禍でEC需要が伸びる中、LINE連携と物流施策を軸に巻き返しを図っているのが現状です。
5-2.「eコマース革命」からの挑戦
ヤフーがECに本腰を入れ始めたのは「eコマース革命」を掲げた8年前。楽天やAmazonに比べると遅れは否めません。一朝一夕で差を埋めるのは容易ではありませんが、だからこそ、今回のフルフィルメント刷新をはじめとする各種施策に本気度がうかがえます。
6.物流業界全体の変化―縦割りからデータ活用へ
6-1.物流企業が経済圏と組む意義
日本郵便が楽天と組むように、ヤマト運輸もヤフーとタッグを組むことでEC物流の更なる効率化を狙います。大規模な経済圏と連携し、データ活用から受注・配送までを一貫して捉えることで、新たなビジネスチャンスが生まれると考えられます。
6-2.ストア側にとっての選択肢
ストアにとって、ただ“売り場”をどこに置くかだけでなく、物流機能をどこに委託するかも重要な戦略要素となりました。ヤフーとヤマト運輸の提携は、コスト面・スピード面での優位性を打ち出すことで、ストアが自社のメイン経済圏を選ぶうえでの有力な選択肢になっています。
まとめ
ヤフーとヤマト運輸が共同で進めるフルフィルメントサービスの刷新は、全国一律382円からの宅急便配送や当日配送の実現など、多くのストアやユーザーにとって魅力的な要素を含んでいます。EC市場をリードする楽天・Amazonへの対抗軸として、物流の強化はもはや避けては通れない課題です。
今後、ヤフーはLINEとの連携や優良配送マークとあわせたプロモーションを強化することで、さらなるユーザー獲得とストア数拡大を狙うでしょう。物流業界全体としても、データの一元管理やより柔軟な配送網の構築など、新たな競争フェーズに突入する予感があります。今後の動向から目が離せません。