ヤマトHD 2025年3月期決算──営業利益64.5%減でも法人ビジネスと宅急便が光明
2025年5月1日、ヤマトホールディングスは2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)の連結決算を発表した。営業利益は大幅に減少したものの、下期にかけての法人ビジネス拡大や宅配便収入の改善、新規サービスの立ち上げなど、変革の兆しが随所に見える決算内容となった。本稿では、前年との比較を軸に、事業構造の変革と今後の方向性を読み解く。
1:営業利益64.5%減、変革期に立つヤマト
2025年3月期の営業収益は1兆7,626億円(前期比+0.2%)と微増を維持したものの、営業利益は142億円(前期比▲64.5%)と大きく減少。これは主に、投函型サービス(DM便など)の収入減少や、M&Aを含む先行投資による費用増加が影響している 。
一方で、親会社株主に帰属する当期純利益は379億円(前期比+0.8%)と微増。これは保有資産の売却益(投資有価証券・不動産)などによるものであり、いわば「守りの経営」によって利益水準を下支えした格好だ 。
2:法人ビジネスの成長と収益構成の転換
中長期戦略「SX2030~1st Stage~」のもと、ヤマトは収益構造の変革に着手。特に法人向けのコントラクト・ロジスティクス事業(CL事業)とグローバル事業は伸長し、それぞれ営業収益は970億円(前年比+9.0%)、859億円(前年比+16.1%)となった 。
中でも、ナカノ商会の買収(株式87.74%取得)により、CL事業の拡大と、宅配便とのシナジー創出を進めており、2026年3月期にはさらなる大型案件の獲得が見込まれている 。
CL事業とは、Contract Logistics(コントラクト・ロジスティクス)事業の略で、企業の物流業務を包括的に請け負う「受託型物流サービス」のこと。ナカノ商会の買収により、大型倉庫運営などの強化を推進。
単なる運ぶだけの物流から、「業務の設計と運用の受託」にシフトしていると思われる。
3:「宅急便部門」の再強化と置き配戦略
個人および小口法人が中心となる宅急便部門は、取扱個数1,961百万個(前期比+4.0%)と復調傾向にある。中でも、再配達を減らす「置き配」サービスや、低価格な「こねこ便420」の展開が、ラストマイル領域のコスト抑制と満足度向上につながっている 。
一方、投函系サービス(クロネコゆうメール等)は大きく減少し、これが売上全体の構成にも影響を及ぼした(▲82.4%) 。
4:キャッシュ・フローと財務体質の再構築
営業キャッシュ・フローは477億円(前期比▲166億円)と減少した一方で、投資活動による支出は443億円(前期比+219億円)と大きく増加した。これは主に、ナカノ商会のM&A費用(約353億円)などによるものである 。
この結果、有利子負債は増加し、自己資本比率は49.6%から46.5%に低下。一方で現金および同等物は2,080億円(前期比+133億円)と増加し、財務の安全性は確保されている 。
5:2026年3月期の業績予想と見通し
ヤマトは、2026年3月期について営業収益1兆8,800億円(前期比+6.7%)、営業利益400億円(同+181.6%)を見込んでいる。これは、宅急便の単価見直し、法人向け大型案件の受注、輸送・積載効率の向上といった3点を「利益成長のドライバー」として掲げているためだ 。
また、宅急便部門は取扱個数+2.8%、単価+2.5%の成長が想定され、収益の二本柱である“数量”と“単価”の両輪強化が狙われている 。
まとめ:変革期の足踏みか、飛躍の予兆か
今回の決算は、数値上では減益であるものの、下期からの回復兆候や中期計画に基づく事業変革の前進が随所に見られる内容だった。ヤマトは今、基盤事業の再構築と新規事業の創出という両輪を回しながら、未来の「運送」ではなく「運創」企業を目指す。
今後の定点観測では、営業利益率の回復、ROICの向上、投資対効果の明確化が重要な評価軸になるだろう。