ワークマン2025秋冬新製品発表会レポート|断熱ウェア「XShelter」とリカバリーウェア「MEDIHEAL」が示す未来
有楽町に漂った“実験場”の熱気
2025年9月1日、有楽町・東京国際フォーラム。5000㎡の広大な会場には、全国からメディアやインフルエンサーが集まっていた。開場前から長い列ができ、会場内は展示会というより「実験場」のような熱気に包まれていた。未来の生活をどう変えるか──その問いに挑む空気が漂っていた。
ワークマンが選んだ「原点回帰」
ここ数年、ワークマンは「Workman Colors」や「#ワークマン女子」でファッション性を打ち出し、新しい顧客層を開拓してきた。しかし今回の展示会は、その延長線ではなく原点回帰。ワークマンが本来強みとしてきた「素材研究」と「機能性」に立ち返り、衣服そのものの進化を真正面から問う場だった。
主役は「XShelter」と「MEDIHEAL」
その象徴が断熱ウェア「XShelter」とリカバリーウェア「MEDIHEAL」だ。XShelterは住宅の断熱材や宇宙服から着想を得て、寒さも暑さも“無効化”する未来の衣服として来場者を驚かせた。一方のMEDIHEALは「一般医療機器」認定を受けた本格派で、上下セット3,800円という圧倒的な低価格で「疲労回復は誰にでも必要な権利」という思想を体現していた。
1. 零下20℃でも、24℃でも──「暑くも寒くもない」体験
冷凍庫に足を踏み入れた瞬間
展示会場に設けられたXShelterの体験ブース。スタッフに促されて袖を通したジャケットは軽くて体にフィットし、頼りなさを感じさせない。そのまま-20℃の冷凍庫に足を踏み入れると、常識を覆す感覚に驚かされた。鼻や指先が凍えるはずなのに、寒さを感じない。まるで外界との間に「透明な壁」があるようだった。
「無」を体験する衝撃
従来のダウンは「じんわり温かい」と感じるものだが、XShelterではその感覚すらない。「寒さを感じない」──正確には“無効化”されている。この不思議な“無”の感覚こそ、体験者の脳裏に焼きつく。
24℃でも汗をかかない快適さ
さらに隣の24℃温室に移動しても、暑さを感じない。寒冷から温暖へと移動しても体感は一定のまま。「外では快適、でも電車に乗れば汗だく」というよくある不快なギャップも起こらない。寒冷地でも温暖地でも、着たまま移動できる新しい快適さがそこにあった。
従来の常識を逆転させる
これまでの防寒具は「中綿に体温を閉じ込める」発想だった。XShelterは逆だ。体温を利用せず、外気を遮断してしまう。住宅の断熱材に近い仕組みを衣服に取り入れた結果、寒暖差そのものを「無効化」する体験を実現した。
衣服の未来を垣間見た瞬間
ジャケットを脱いだ瞬間、外気の寒暖が一気に押し寄せた。寒さも暑さも「感じなかった」のではなく、XShelterが遮断していたのだと理解し、思わず笑ってしまった。これまで「服は外界に耐えるため」だった。しかしXShelterの登場によって、「服は外界を遮断する存在」へと変わろうとしている。気候変動で寒暖差が激しくなる時代に、この発想は極めて現実的だと強く感じた。
2. 着想は「住宅の断熱材」から
住宅から学んだ「断熱の本質」
XShelterの発想は衣服の世界に閉じこもっていては生まれなかった。ヒントは住宅建築だ。家が寒さに強いのは、暖房だけでなく壁や窓に断熱材があるから。開発陣は「断熱材の役割」を衣服に応用できないかと考えた。
昨年モデルの課題
昨年モデルでは住宅用断熱材を応用したが、伸縮性がなく動きにくいという課題があった。寒さは防げても、服としての快適性が損なわれた。断熱という概念は正しかったが、素材の再定義が必要だった。
宇宙服というヒント
次に着目したのは宇宙服。マイナス200℃の極寒と強烈な熱が共存する宇宙で、宇宙飛行士を守る特殊素材。しかも柔軟性を備えている。ここから「伸縮性を持ちながら極限環境を遮断できる素材」のヒントを得て、衣服へ応用する道を切り拓いた。
大量生産で実現する価格
高機能素材をそのまま使えば数万円は下らない。それをワークマンは大量生産でコストを圧縮し、一着1万円弱に収めた。特別な人の贅沢ではなく、誰もが買える日用品に変換する逆転の発想だ。
「奇抜」ではなく「大衆化」
住宅や宇宙服の技術は限られた用途だった。それを日常着に引き下ろすことで「断熱衣類」を一般化しようとしている。派手なデザインやコラボではなく、長期的に売れる実用的な商品を大量に供給する──これこそがワークマンの真骨頂だ。
3. リカバリーウェア「MEDIHEAL」の本格参入
驚きの低価格と「一般医療機器」認定
展示会場で並んだMEDIHEALの製品群。シャツ1,900円、パンツ1,900円、上下セットで3,800円。従来は2万円を超えるのが常識のリカバリーウェアを、ワークマンは「日用品」に変えた。しかも厚労省届け出済みの「一般医療機器」。安さと本格性を両立していた。
科学的エビデンス──血流36%増加
仕組みは生地に練り込まれた鉱石が遠赤外線を放ち、血流を改善するというもの。実証試験では血流量が36%増加。さらに睡眠実験では平均7分の睡眠延長、1年で6日分の休養増加が確認された。科学データに裏打ちされた「着る回復」だった。
武井壮の言葉が示す「疲労回復は権利」
ブランドアンバサダー武井壮さんはステージで「疲労回復は誰にでも必要な権利」と語った。アスリートだけでなく、働く人、育児や介護に追われる人、高齢者──すべてに必要なものだと。会場の観客もうなずきながら聞き入っていた。
量産哲学が可能にする大衆化
高機能なのに安価な理由は200万着の大量生産にある。研究費を一着あたり数円まで薄め、品質を保ちながら低価格を実現する。高機能を大衆に届ける仕組みそのものが設計されていた。
着るだけでなく「眠る」まで広がるリカバリー
衣服に加え、寝具ラインも初披露。敷パッドや毛布は1,780円〜1,900円。実際に横になれるブースには行列ができ、「眠ること自体が回復になる」という新しい価値提案に来場者が沸いた。
4. 素材研究にかける執念と「大量生産哲学」
ファッションから“原点”へ
近年のワークマンはファッション性で話題を集めたが、今回の展示会で際立ったのは素材と機能性だった。原点に立ち返り、「社会に必要とされる商品」を問い直していた。
異分野から知恵を引き出す発想
住宅や宇宙服、医療機器──一見衣服と無関係な分野からヒントを得て再設計し、新しい基準を作り出している。衣服の常識に縛られない開発哲学がある。
研究開発にコストを惜しまない
医療機器認定や実証試験には莫大な資金が必要だが、短期的な利益より長期的な信頼を重視し、研究に投資する。
大量生産で普及を見据える
研究費を吸収しつつ大量生産で一着あたりのコストを圧縮。普及こそが目的であり、少数の高額商品ではなく大衆に届けることで社会全体を変えようとしている。
流行を超えた“生活インフラ”へ
XShelterとMEDIHEALは派手さではなく、生活を支える基盤。ワークマンはトレンドを超え、未来の生活インフラを構築しようとしている。
5. ワークマンが切り拓く衣服の未来
XShelterが示す「気候変動への解」
寒暖差や異常気象が日常化する時代、XShelterは「外界の影響を遮断する」という解を提示した。断熱衣類という新ジャンルが、人々の暮らしを根本から変えるかもしれない。
MEDIHEALが応える「疲労社会への解」
慢性的な疲労に悩む現代人に、上下3,800円で回復を提供する。疲労回復を「権利」とし、大量供給で現実化する姿勢は社会的意義を持っている。
衣服は生活インフラへ
XShelterとMEDIHEALに共通するのは、衣服を「生活インフラ」に変える視点だ。ファッションの一要素を超え、社会課題に応える存在へ進化している。
「原点回帰」が示す未来
ファッション的広がりを経て、再び素材と機能性に立ち返ったワークマン。だがそれは後退ではなく進化だった。気候変動と疲労社会、二つの課題に解を示した姿勢に、強い敬意を抱かざるを得ない。
今日はこの辺で。