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ソニーは“電機メーカー”の皮を脱いだ──『鬼滅の刃』が照らす、IPエコシステム企業への進化

ウォークマン、BRAVIA、PlayStation──。誰もが“電機メーカー”としてのソニー像を思い浮かべるだろう。だが、最新の決算書(FY2025 第2四半期)を読み込むと、そこに見えるのはまったく別の顔だ。 売上高3兆1,078億円、営業利益4,290億円と過去最高水準を記録。その中で、特に光を放ったのが音楽セグメント。前年同期比+21%という異例の成長を遂げ、その主因として明記されたのが――劇場版『鬼滅の刃 無限城編(Infinity Castle)』である。

 アニメ作品が、企業全体の利益を押し上げる。

 それは単なるヒットの話ではなく、ソニーという企業が「モノづくり」から「物語づくり」へと進化していることの象徴だ。

決算が語る“鬼滅効果”の正体

 ソニーのIR資料には明確にこう記されている。

「音楽セグメントの増収は、主にVisual Media & Platform(VMP)事業における劇場公開作品“Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba – Infinity Castle”の貢献によるもの。」

 音楽セグメントの売上は5,424億円(前年同期比+21%)、営業利益は1,154億円(+28%)。

 つまり『鬼滅の刃』という一作品が、セグメント全体を押し上げたという明確なメッセージである。世界動員7,753万人、興行収入948億円という数字は、国内アニメ映画史の文脈にとどまらず、もはや世界市場での“IP経済圏”を示している。

“メーカー”の次は、IPを中心に連鎖させる会社

 アニプレックス(制作)から、ソニーミュージック(音楽)、Crunchyroll(配給・配信)、PlayStation(ゲーム)へ──。

 『鬼滅の刃』の成功は、ソニーが抱える事業群がIPを中心に連鎖している構造を如実に示した。従来の“製品群”の連携ではなく、物語を軸にハードとソフトを有機的に結合させる“IPマネジメント”の仕組みである。

 かつてのソニーは「テクノロジーで感動を届ける会社」だった。いまはその感動を“ストーリーの力”で生み出す会社になりつつある。“モノ”ではなく“物語”を媒介にして、人の心と技術をつなぐ。

 それが、現在のソニーの立ち位置だ。

Crunchyrollがつくる“世界の広がり”

『鬼滅の刃 無限城編』は、ソニー傘下のCrunchyrollによって世界中で配給された。

 北米公開19日間で北米興収1.2億ドル、海外1.92億ドル、世界計3.12億ドル(9月末時点)という記録は、IR資料の一次情報として明示されている。ここで重要なのは、ソニーが自前の配給・配信インフラを持っているという事実だ。

「鬼滅の刃はNetflixやAmazon Primeでも配信されているが、ソニー/Aniplexが保持するIPの“最深部”を掘るために、Crunchyrollという自社配信プラットフォームを持つことが鍵になる。単なる視聴チャネルではなく、“熱狂ファンを囲い込む”/“視聴データを独自に持つ”/“二次収益につなげる”という三つの役割を果たすからだ。」

「有料加入者約1,700万人という数字(2025年5月時点)をもつCrunchyrollを軸に、ソニーは鬼滅のようなIPを“作品ヒット”では終わらせず、体験として循環させる仕組みを強化している。」

世界へ広がる“鬼滅経済圏”

IPを作り、世界に届けるまでの回路を、すべて自社で完結できる。

この構造こそ、グローバルなIP企業の条件であり、『鬼滅の刃』はその仕組みの“実証実験”のように機能している。

制作(アニプレックス)・音楽(ソニーミュージック)・配信(Crunchyroll)・ハード(PlayStation)がひとつの物語を通じて連動する。

結果、作品単体が“経済圏”として成立する

数字で見るIPの寄与

 ソニーは作品別の収益を公表していない。だが、IR資料の明記から逆算すると、音楽セグメントの売上増加分(+942億円)のうち、VMPでの『鬼滅』貢献は主因とされている。仮にその寄与を保守的に30〜70%の範囲と見積もると、全社売上に対して約0.9〜2.1%を一作品が動かした計算になる。

 単一のアニメ作品が、四半期ベースで企業全体の売上を数%押し上げる。もはや“キャラクター産業”という枠を超え、IPが企業経営のエンジンになっていることを示す数字だ。

“モノ”から“物語の経済”へ

 ソニーが歩んできた道を改めて振り返ると、どの時代にも“感情を動かす装置”があった。ウォークマンは音楽の自由を、BRAVIAは映像の豊かさを、PlayStationは物語の没入を。

 それらを束ねているのは、常に「人の心を動かすこと」だった。『鬼滅の刃』が象徴するのは、その延長線上にある進化だ。ハードやソフトの単体ではなく、“体験”としての連鎖。

 IPを軸に音楽・映像・配信・グッズが有機的に共鳴する。それが今、ソニーの新しい「感動設計」になっている。

⑥ IPで経済を回すという共鳴の構図

 ひとつの作品に共鳴が生まれ、音楽や配信、グッズ、体験イベントへと広がる。ファンの“感情”が“経済”を動かし、再び次の創作を生む。ソニーはもはや“電機メーカー”ではない。

 IPを中心に、共鳴を設計し、経済を循環させる“エコシステム企業”である。鬼滅の刃はその構造変化をわかりやすく映し出した鏡だ。

モノからコトへ、そして今、物語から経済へ。

 人の心を動かす力が、数字を動かし、企業を変える。その原点を忘れない限り、ソニーの進化はまだ続くだろう。

今日はこの辺で。

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