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Shopifyの2024年第2四半期決算から読み解くECの今とこれから

2024年8月7日、Shopify Inc.は2024年第2四半期決算を発表しました。総収益は前年同期比で20%増の20億4500万ドルを達成し、依然として高い成長率を維持しています。今回は、この決算を軸にEC市場の動向と今後の展望を探ってみましょう。

1. 「プラットフォーム」と「ソリューション」で伸びるShopify

サブスクリプション・ソリューション

  • Q2 2024収益:5億6,300万ドル(前年同期比+27%)
  • 上半期収益:10億7,400万ドル(前年同期比+30%)

マーチャント・ソリューション

  • Q2 2024収益:14億8,200万ドル(前年同期比+19%)
  • 上半期収益:28億3,200万ドル(前年同期比+19%)

 Shopifyは「プラットフォーム利用料(サブスクリプション)」と「取引手数料・決済処理など(マーチャント・ソリューション)」の二つを軸に収益を伸ばしています。特にマーチャント・ソリューション分野の急伸が顕著で、店舗の決済やマーケティング、ツール提供、ロジスティクス面を包括的にサポートすることで、EC事業者の多様なニーズを取り込み続けています。

ECの潮流との合致

 コロナ禍以降に加速したECシフトは一巡したように見えますが、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)やSNSを活用した個人ビジネスの台頭によって、オンライン販売の裾野は依然として拡大傾向にあります。

 特に、小規模事業者にとって、決済やマーケティングといったサービスをワンストップで利用できるShopifyの存在感は依然として大きいといえます。

2. 営業費用のコントロールとコスト効率化

売上・マーケティング費用

Q2 2024:3億5,300万ドル(前年同期比+10%)

研究開発費

Q2 2024:3億4,900万ドル(前年同期比-46%)

一般管理費

Q2 2024:6,000万ドル(前年同期比-54%)

 2023年第2四半期にあった物流ビジネス売却の影響が大きいとはいえ、ここまで大幅に研究開発費や一般管理費が削減された背景には、リソースをコア事業に集中させる戦略転換が見え隠れします。物流ビジネスを自社で抱えるよりも、パートナーシップを通じた「アセットライト」モデルに注力することで、軽量かつ柔軟な経営体制を構築していると言えます。

EC市場へのインパクト

物流はECにおける重要な要素ですが、競合のAmazonなど大手プレイヤーが大規模ネットワークを築いている中で、Shopifyが独自に物流を強化するには相応の投資とリスクが伴います。Shopifyはあえて物流領域を手放し、より高収益性のサブスクリプションやソフトウェアソリューションに注力する戦略にシフトしたことで、利益率向上に寄与しました。

EC市場では、在庫管理から配送までサードパーティサービスを活用する事例が増えています。Shopifyの動きは、グローバル企業でもサプライチェーンをすべて自前で抱え込まない方向にシフトしていることを象徴的に示していると考えられます。

3. 利益率と課題:ECプラットフォームの再定義

粗利益率の改善要因

  • 1. 物流ビジネス売却: 物流という低利益率事業を外部に委ねることで、全体の粗利益率が上昇。
  • 2. 無形資産の償却減少: 物流関連の無形資産償却が減ることでコスト圧縮。
  • 3. サブスクリプション収益増加: 月額料金などが中心のサブスクリプション収益は高利益率。

 Shopifyは、事業領域の再編とサブスクリプションという安定収益源の伸長により、収益と利益率の両面で改善を実現しました。ただし、為替や株式投資損などの一時的要因によるブレは残っており、EC全体でも消費者需要の変動や競合激化が続くため、課題はまだあります。

4. 今後のShopifyとECの展望

多角化とデータ活用

 Shopifyは既に決済やマーケティングツールに加え、POS(実店舗向けの決済システム)やSNS連携も強化しており、オンラインとオフラインの垣根をなくす“オムニチャネル”戦略を推進しています。今後も投資領域としては、

  • AIによる顧客データ分析
  • パーソナライズド販促
  • グローバル展開のサポート

などが中心となり、よりきめ細かいEC機能を提供していく可能性が高いでしょう。

EC市場全体の見通し

 コロナ後のリバウンド消費が一段落する中でも、デジタル接点を駆使したD2Cブランドや、新興SNSプラットフォームから生まれる新しいネットビジネスは今後も増加が予想されます。競合にはAmazonや楽天のような巨大モール型がある一方、Shopifyは「自社ブランドの世界観づくり」を支援する立ち位置を強みとしています。

 EC市場は飽和どころか、リアル×ネットの融合による新たな市場拡大が始まっている段階です。その中でShopifyは、引き続きコアビジネスを軸に多角化を進め、流動的な外部環境にも柔軟に対応していくでしょう。

まとめ

 2024年第2四半期のShopifyの決算は、コア領域への集中やコスト削減の効果が収益・利益率の両面で反映された形となりました。

 EC業界全体で見ても、デジタルとリアルの垣根が一層薄れ、D2Cや個人事業主といった新たなプレイヤーの参入余地が拡大しています。Shopifyはそのインフラとして存在感を維持しつつ、物流を含む自社の事業領域を柔軟に再定義することで、より高い利益率と拡張性を追求しています。

 EC市場が今後も進化を続ける中、Shopifyの動向は「プラットフォーマーが、どこまで自前化を図り、どこを外部と連携するか」という問いへの一つのモデルとなるでしょう。今期の決算からも、“軽量化”による高収益体制づくりと、“多機能化”による事業者支援強化の二軸が、ECの新たな成長ステージを後押しする鍵といえます。

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