海外成長と構造改革の両輪──“脱・多角化”で加速するセブン&アイの進化
セブン&アイ・ホールディングスの2025年2月期(2024年度)決算が発表された。営業収益は前年同期比で増加する一方、営業利益・純利益は減少。しかし、その背景には、グループ構造の抜本的見直しと海外事業へのフォーカスという中長期戦略の転換がある。今期は“利益を落としてでも体質を変える”意思の現れと捉えるべきだ。では、数字の裏にある動きを読み解いていこう。
1|全体業績:営業収益は増、利益は調整局面へ
2025年2月期(2024年度)の連結営業収益は、前年比+4.4%の11兆9,727億円と増加。一方で、営業利益は▲21.2%減の4,209億円、純利益は▲23.0%減の1,730億円となり、利益面では前年から大きく後退した 。
これは一過性の特別損失を含む構造改革費用の影響が大きく、たとえば7-Eleven, Inc.の不採算店閉鎖による減損損失(982億円)や、ラストワンマイル再構築に伴う損失(464億円)などが今期に計上されている 。一方で、営業キャッシュフローは増加しており、構造改革を前向きに進めていることが読み取れる。
2|セグメント別:国内に陰り、海外は規模拡大も利益率に課題
国内CVS(コンビニ)事業は、営業収益が9,041億円(▲1.9%)、営業利益は2,335億円(▲6.8%)といずれも前年割れ 。背景には電気代などコスト高と原材料高騰があるものの、次世代型店舗への刷新が進んでいる。
特に注目されるのが、「SIPストア」という新たな店舗コンセプトだ。これは、セブン‐イレブン・ジャパン(SEJ)とイトーヨーカ堂(IY)が共同で展開するもので、コンビニとスーパーの知見を掛け合わせ、ホットフード・冷凍食品・生鮮デイリーといったカテゴリーを充実させた新型店舗である。2024年2月に1号店がオープンし、2025年1月からは埼玉県内で約20店舗への展開が開始された。
この「SIP」導入店舗では、既存のセブン店舗と比べて売上+17.8%、客数+15.8%、商品荒利率+0.6%と明らかな改善が見られており、“次のセブン-イレブンの形”を示す先行モデルと位置づけられている 。今後は、このSIP要素を全国の既存店にも水平展開していく方針であり、来店頻度の向上やワンストップショッピングのニーズに応える戦略的な布石といえる。
3|財務・KPI:EPS・ROEは低下、改革期ならではの数字に
EPSは66.62円(前年84.88円)と▲18円の下落、ROEも6.2%から4.5%に低下した。ROICも4.1%→3.5%とダウンし、財務KPI全体で見ても“守りの数字”が並ぶ 。
一方で、フリーキャッシュフロー(金融事業除く)は4,350億円(+11.1%)と増加。これは、構造改革に資金を充てながらも、一定のキャッシュ創出力を維持できていることを意味する。
4|2026年2月期予想:“純利益47.3%増”の大幅成長を掲げる
2026年2月期の予想では、営業収益は10兆7,610億円(▲10.1%)と減少するが、営業利益は4,240億円(+0.7%)、純利益は2,550億円(+47.3%)と大幅増益を見込んでいる 。
これは、スーパーストア事業など非中核事業の売却(ヨーク・ホールディングス等)によって構造改革が完了し、コンビニ事業に集中する成果が徐々に数字に反映される見立てだ。7-Eleven, Inc.のIPOや、自己株取得による株主還元策もこの収益性の向上を裏付ける動きとして注目される。
5|2030年へ──“食とテクノロジー”で世界のリテール最前線へ
2030年に向けた成長戦略では、7NOW(デリバリー)による1,200億円売上目標、高付加価値商品の比率向上(荒利率32.5%以上)、次世代店舗+5,000店展開などが掲げられている 。
これにより、セブン-イレブン・ジャパンは「食のプラットフォーマー」への進化を志向しており、リテールメディアやデータ活用のビジネス領域にも踏み込む。これは単なる小売業ではなく、情報と商品流通を制御する“次世代リテーラー”を目指す一手だ。
今回の決算は、一見すると減益だが、実は「次の飛躍への地ならし」。2026年以降の利益回復と、2030年を見据えた布石が着実に打たれている。定点観測で見れば、今期は“転換期の1年”として記憶されるだろう。