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【楽天グループ決算Q3/2025】全セグメント二桁成長・モバイル黒字化の現実味・AI戦略まで徹底解説

2025年第3四半期、楽天グループの業績は明確な“転機”を迎えていた。売上収益は前年同期比+10.9%の6,286億円。すべての主要セグメントが二桁成長を記録し、EBITDAはQ3として過去最高。そして長年の課題だった「モバイル事業」も、損失縮小とARPU上昇が続き、1000万回線到達が射程に入ってきた。決算説明に立った三木谷浩史会長は、EC・モバイル・フィンテックの三領域が“循環的に強くなる構造”を語った。

 AIの導入と、楽天エコシステムの結束。そして、長らく批判の的だったモバイル投資が、ついにグループ全体の推進力へと変わりつつある。本稿では、三木谷氏の説明と資料をもとに、楽天グループQ3/25のポイントを7つの視点から読み解く。

全セグメントが二桁成長──売上6,286億円が示す“底堅い需要”

 Q3/25の連結売上収益は6,286億円(前年同期比+10.9%)。巧妙なのは、この伸びが「一部の事業」に偏るものではなく、インターネットサービス(+11.1%)、フィンテック(+20.3%)、モバイル(+12.0%)と、三本柱すべてが二桁成長している点だ。

 資料を見ると、ECやカードのような生活導線型サービスから、銀行・証券などの金融インフラ、さらにはモバイルという通信まで──生活の多面的な接点がそれぞれ“自然な伸び”を形成していることがわかる。企業の成長がどこか一つに偏っているわけではなく、複数領域が同時に増えている状況は、プラットフォーム型企業においては非常に強いシグナルだ。

 さらに、Non-GAAP営業利益は前年同期比+212.8%の386億円。ふるさと納税ポイントルール改定前の駆け込み需要も含まれるものの、三木谷氏が強調したのは「ルール改定分を除いても増益基調だった」という点だ。これは単なる一過性の数字ではなく、事業そのものが着実に改善していることを意味する。また、EBITDAは1,187億円でQ3では過去最高。通期で4,000億円超を見込むなど、コスト構造の改善が明確になった。特にモバイル事業の改善が効いており、グループ全体の支えとなり始めている。

 成長率、利益改善、コスト最適化──そのどれもが“確度の高い回復”を裏付ける四半期だったと言える。

 一方、最終損益が前年並みの赤字にとどまった点については、質疑応答でCFOの廣瀬氏が補足したとおり、「事業の不調」ではなく「税負担の構造」が主因である。税引き前利益は改善しているにもかかわらず、法人所得税費用が前年229億円から560億円へと大幅に増加。さらに、楽天カードが三井住友フィナンシャルグループからの出資によって連結納税の対象外になり、税金負担が増えたこと、非支配持分の拡大も影響し、最終利益の改善が押し下げられた。

つまり“赤字の継続”は、事業の実態というより税制上の制約が大きいという構造的な事情によるものだ。

ECの「14.5%成長」は偶然ではない──モバイルとAIが押し上げる新たな構造

 国内EC流通総額は前年同期比+14.5%の1.7兆円。同時に売上収益も+10.0%、営業利益は+33.6%と高い伸びを記録した。

 今回はふるさと納税のルール改定前の駆け込み需要が一部寄与したが、それを差し引いても「ECが確実に強くなっている」ことが主因だ。

 質疑応答では、このルール改定の中長期的な影響についても質問があったが、三木谷氏は「市場全体の成長基調は変わらない」と明確に答えている。9月の駆け込み増と10月の反動減は“需要の前倒し”に過ぎず、年内トータルでは成長が続くとの見通しだ。来期以降も、ふるさと納税そのものに対する利用メリットは継続するため、市場が縮小するとは考えていない。楽天としては、市場の成長に合わせながら“シェアをいかに高めるか”を重点戦略としている。

 三木谷氏は、Q4/25は反動減が出るとしつつも、構造的な成長のドライバーが二つあると説明した。

 1つ目は 楽天モバイルとのシナジー だ。

 アクティブユーザーのうち、楽天モバイル契約者は16.2%。さらに、モバイル契約者の流通総額は非契約者に比べ +48.5% 高い。楽天市場の新規利用者の中でも、モバイル契約者比率は四半期ごとに上昇している。通信とECを往復させるこの仕組みは、“楽天経済圏”という言葉の実体を数字で示した格好だ。

 2つ目は AI導入の本格化 である。

 今年9月にローンチした“ユーザー向けAIエージェント”は、通常検索で離脱していた潜在ニーズを拾い上げる効果が期待される。また、店舗向けAIアシスタントの利用店舗数は23,000店へと増加。レビュー返信自動化などの機能追加も進み、店舗側の運用効率が劇的に改善している。

ECを支える二つの軸──「通信」と「AI」。

この組み合わせが流通総額の成長に継続的な推進力を与えている。

トラベルと国際事業が息を吹き返す──リバーズ、バイバー、Koboの“静かなる収益化”

 インターネットサービスセグメントの中で見逃せないのが トラベルと国際事業の復調 だ。楽天トラベルはインバウンド回復の恩恵を受け、7.6%成長。さらに注目すべきは、楽天トラベルのブラウザ版に搭載された AIホテル探索機能 だ。従来は検索条件の絞り込みが前提だったが、今後は“旅行代理店に相談する感覚”で宿を探せるようになる。AIのUI進化が検索体験そのものを置き換え始めている。

 国際事業も好調で、売上は+5.4%、営業利益は+78.8%と急伸。

 特に Koboカラー端末のロングヒット が興味深い。自社端末とコンテンツ販売を垂直統合するKoboは、電子書籍市場の拡大を背景に登録者数・サブスク会員がともに伸びている。さらに、バイバーの広告売上・通信売上の堅調、リバーズのコスト最適化による損失改善など、かつて「収益性の弱い海外事業」と言われた領域が静かに成果を出し始めている。

 ECの裏側で、「国際」「トラベル」「コンテンツ」が確実に再成長フェーズへと入っている。

フィンテックは依然“鉄板”──カード・銀行・証券が揃ってトップ級の成長

 フィンテックセグメントは売上収益+20.3%、営業利益+37.9%。楽天カードは取扱高6.7兆円(+11.7%)、楽天銀行は口座数1,732万(+6.9%)、楽天証券は総合口座数1,286万(+10.4%)と、いずれも業界トップ水準の成長を維持している。

 特に銀行は政策金利引き上げを背景に、経常収益+41.4%、経常利益+55.3%という異次元の伸び。ROEも21%超と極めて高水準だ。楽天証券はNISAブームの追い風を受け、NISA口座数672万(+15.5%)。顧客資産拡大と稼働率向上を両立させている。

 楽天ペイメントも取扱高増とコスト効率化により、営業利益+78.8%。決済インフラが着実に生活導線へ浸透している。フィンテックは月額課金型・預かり資産型のため、グループ収益の“安定装置”として極めて重要。ECとモバイルの変動性を相殺し、全体の収益基盤を強固にしている。

モバイル事業は“質的成長”へ──ARPU上昇・解約率低下・黒字化の現実味

 最大の注目点は楽天モバイルだ。売上収益は+31.2%、EBITDAは黒字化(78億円)。営業損失は372億円まで改善し、前年同期から134億円縮小した。特に象徴的なのは以下の三点である。

● 1000万回線が見えてきた

 現在933万回線。

 9月にはMNP純増9.5万回線(前四半期比+71.4%)と、他社からの乗り換えが加速。MNPユーザーはメイン回線比率が高く、ARPU向上と解約率改善に直結する。

● 解約率は過去最低レベル

 調整後MNO解約率は 1.33%

“同月内解約”への手数料導入により、悪質な短期解約の抑制にも成功している。

● ARPUも改善

 ARPUは2,873円。

 特に1年以上継続利用したユーザーの「エコシステムARPU」は865円と高い。

 さらに、AIによるネットワーク最適化(LIC)が進み、基地局の電力消費を抑えることで低コスト運用を実現している。これは将来の料金値下げ余力にも直結する。

 また質疑応答では、三木谷氏が「AIによる改善はネットワークだけではない」と強調している。広告出稿の効率化や、社内オペレーションの最適化にもAIが活用されており、コスト削減効果がモバイル事業全体の収益改善を後押ししているという。AIは単なる技術要素ではなく、モバイル黒字化を支える“構造的な改善エンジン”になりつつある。

“量”の成長から“質”の成長へ。

 モバイル事業は確実に転換点を迎えている。

AIが楽天グループの“第二の成長軸”に──市場アプリ、RMS、トラベル、そしてネットワークへ

楽天の決算資料の中で最も強いインパクトを放っていたのは「AIの全面実装」である。

  • ECのユーザー向けAIエージェント

  • RMS AIアシスタント(利用店舗2.3万店)

  • トラベルのAIホテル探索

  • モバイルネットワークのAI-LIC最適化

  • 物流・広告配信のAI効率化

 グループ横断で“AIが基盤”になりつつある。特に注目すべきは AI-LIC(自動ネットワーク最適化)基地局の稼働率・需要予測・トラフィック制御をAIが担い、コスト構造を下げた分を料金プランに還元するという発想は、通信キャリアの運用方法そのものを再定義する。

 また、店舗向けAIアシスタントの広がりは、EC事業者の“労働集約性”をAIが肩代わりしていく象徴的な動きだ。レビュー返信や文面生成、画像補正などが自動化されることで、店舗運営のボトルネックが解消されていく。

 AIはもはや“便利機能”ではない。楽天の次の成長フェーズを押し上げる「事業設計そのもの」になりつつある。

「点」ではなく「面」で伸びる企業へ──楽天グループが示した“反転の条件”

 今回のQ3/25決算には、単なる数字以上の意味がある。ECが流通総額を伸ばし、カード・銀行・証券が下支えし、モバイルが全体を押し上げ、AIがそれらを束ね始めている。

三木谷氏が何度も繰り返したのは、まさにこの“連動”だ。

  • モバイル契約者はECを多く使う

  • ECの成長はカード・銀行を利用する顧客を増やす

  • フィンテックの利便性はモバイルの利用継続を促す

  • これら全体の効率化をAIが推進する

 この循環は、楽天が創業以来追求してきた「エコシステム戦略」の集大成でもある。長らく重荷とされてきたモバイル投資も、回線数増・ARPU上昇・解約率改善という“経済圏の要”として定着しつつある。AIによるコスト削減や体験向上が、次のステージの利益成長を後押しする構図だ。

 楽天グループは「個別のKPI」ではなく、「サービス間のシナジー総量」で語られる段階に入った。今回の決算は、その転換点を象徴する一四半期だったと言える。

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