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青空の下に広がる“もうひとつの楽天市場”──「食いしんぼう祭」で見えた、食と人の進化図

 昨年から新たに始まった、楽天市場のリアルイベント「食いしんぼう祭」。それが、10月10日から13日まで行われている。楽天と聞くと“ネットの巨大モール”という印象が先行するが、僕はそこにどこか“商店街的な温度”を感じている。店主がハッピを着て客を迎え入れ、試食をすすめながら「うちのが一番うまいですよ」と笑う──そんな人間味が、楽天の根底には流れていると思うのだ。

 だからこそ、リアルイベントとの親和性は高い。しかも、商業施設のように顧客を限定せず、老若男女がフェス感覚で歩き回る。青空の下で、“おいしい”が人と人をつなげる。

 それこそが「食いしんぼう祭」の原点であり、楽天がいま模索している“新しいリアルの形”だ。味づくりの挑戦、健康の提案、流通の変革、技術の革新、そして伝統の再解釈。この5つの方向性で、紐解いていこう。

1.明太子屋が本気で挑んだ、“黒トリュフ香る明太フランス”──「博多あごおとし」が贅沢の原点を描く

1-1「明太フランスに“違和感”を覚えた明太子屋」──本気の一品を食フェス限定で

 福岡では当たり前のように並ぶ明太フランス。けれど「パンは美味しいのに、明太ソースがいまひとつ」と感じていたという「博多あごおとし」。だからこそ、楽天の「食いしんぼう祭」出店依頼をきっかけに、“明太子屋が作る理想の明太フランス”に挑戦した。

 贈答用グレードの明太子を使い、バターは国産無塩。カマンベールとクリームチーズをブレンドしてコクを出し、パンにはガーリックではなくオニオンを練り込むことで香りと甘みのバランスを取った。

 最後に黒トリュフを加えた瞬間、全体がひとつに溶け合ったという。

「香りが立つのに、誰もが受け入れられる。これでハーモニーが完成した」と語る。

1-2“儲け度外視”の限定開発──食フェスをブランドの入口に

「食いしんぼう祭だけの限定品です」と語る店主。採算を度外視してでも、この一品を通じてブランドを知ってもらいたいという。明太フランスを入口に、明太子の奥深さへ興味を持ってもらう──リアルの体験を“ブランドの物語”に変える出店だった。

このフェス的な雰囲気に合わせて明太子をリデザインし、それをきっかけに顧客が自分たちの店舗へと足を運び、明太子を購入する。

そんなストーリーがここから生まれている。

2“食べるだけじゃない健康”を提案──「はすや」が担う“ダイエットの味方”ブース

 「食いしんぼう祭」と聞くと“ガッツリ系”を思い浮かべがちだが、実は“健康担当”として存在感を放っていたのが「はすや」だ。発酵食品の力で“食べる健康”を届けるメーカーで、代表商品は「なっとう粉」。

 納豆菌を活かした粉末をヨーグルトやスムージーに混ぜることで、腸内環境を整えるという発想は、すでに健康志向の人々の間で注目を集めている。今回、このイベントでは「健康」ジャンルにも裾野が広がり、彼らに声がかかった。

 一見、健康系の商材はフェスでは売りにくそうに思えるが、名古屋開催の「うまいもの大会」でも実績を持つ彼らは、粉をヨーグルトなどに混ぜてその場で試せる工夫を用意していた。

「食べるだけじゃなく、一緒に体を整える提案をしたい」と語る通り、ブースに集まる年齢層は幅広く、商材同様、ペットを飼う人たちからも注目を集めていた。

3.“冷凍で届ける”という革新──まい泉が挑む、ブランドの全国展開

 何気なくお馴染みのブランド「まい泉」を見かけたとき、正直“?”と思った。都内各所で老舗とんかつブランドとして知られる彼らが、なぜここに?

 その答えは、ネットとリアルの中間地点を模索する挑戦にあった。今回のテーマは、“冷凍技術を味方につけた挑戦”。これまで都心を中心に展開してきたまい泉が、ヒレカツサンドを「冷凍」という形で全国に届ける。

 その手段こそ、楽天市場をはじめとするネット通販だ。リアル会場では、まず「美味しい」と感じてもらうことが目的。「全国の皆様に、好きな時に、いつでも食べていただきたい」という思いのもと、冷凍にしても味の質が変わらないことを実現した。

 品質を落とさずに輸送できることで、常温では叶わなかった“距離を越える体験”が可能になる。

 次の時代に向けたブランドメッセージ──まい泉は今、単なる都心の老舗ではなく、“全国区のまい泉”へと歩みを進めている。

4.“顔の見えないEC”で築いた信頼をリアルに──山口ふぐ本舗きらくが挑む、新たな接点

4-1 .17年のEC経験で築いた信頼を、リアルで確かめる

 楽天出店歴17年。ふぐの養殖から加工・販売まで一貫体制を貫く「山口ふぐ本舗きらく」。「顔が見えない分、信頼を積み重ねてきた」と語る姿勢が、今もリピーターを増やしている。

 液体窒素で急速冷凍し、解凍しても生と変わらない食感を実現。冷凍でもお刺身・鍋セットを高品質に提供する一方、冷蔵は完全受注生産。

 品質を極限まで守る姿勢に、職人気質が宿る。

4-2. “高級魚の民主化”──リアルの場で広がる新しいふぐ体験

 ネット通販というダイレクトな手段を通じて、従来では手に届かなかった価格帯でふぐ料理を楽しめるようにしてきた彼ら。ギフト需要としてネットで人気を博す一方、購買層は比較的年配に偏っている。

 だからこそ、渋谷・原宿に程近いこの会場で、若年層に“初めてのふぐ体験”を届ける意義は大きい。インバウンド客からの注目も高く、“高級魚の民主化”をリアルで実現していた。

5“小豆を餡にした最初の店”──塩瀬総本家が語る、伝統と革新

5-1.約700年続く手仕事──山芋でつくる常用饅頭の矜持

 創業1345年。小豆餡を日本に広めた老舗「塩瀬総本家」。老舗ならではの強みは、伝統と革新を繰り返してきた歴史にある。肉食があまり行われなかった時代に、山芋と砂糖だけで仕立てる常用饅頭を生み出したのは、まさに“食のイノベーション”だった。

 その伝統は今も息づく。水を使わず、職人がすりおろす山芋の手仕事を続け、“効率”よりも“誠実”を選び続ける姿に、時代を超える説得力がある。

 そして彼らは今、リアルの流通に加え、ネット通販にも挑戦している。大事にしたいメッセージはそのままに、届け方を時代に合わせて変える──その姿勢が、老舗を今に生かしている。

5-2.“伝統に遊び心を添えて”──お買いものパンダまんじゅうがつなぐ未来

 それを象徴するのが、食いしんぼう祭限定の「お買いものパンダまんじゅう」。楽天の人気キャラクターとコラボし、イベント終了後は販売終了という完全限定品。

 かわいらしさの奥に、700年の技術と誇りが息づく。老舗がリアルの場で、次の世代と共に新しい文化を紡いでいた。

6.“ネットの街”が“青空の商店街”へ──人がつなぐ、もうひとつの楽天市場

「食いしんぼう祭」を歩いていて感じたのは、“ネットで完結しない温度”だ。楽天という巨大プラットフォームが、広大な代々木公園のような舞台で、フェスのような形で人と食をリアルにつなげようとしている。

 前回から引き続き出店している店舗もある。たとえば「水郷のとりやさん」や「大阪の味ゆうぜん」がそうだ。彼らが口をそろえて語るのは、このイベントの“位置付け”についてである。

 当然ながら、楽天市場で販売しているものと同じ商品を、そのまま会場で売るわけにはいかない。この場は、いわば“食べ歩き”に近い需要が中心にある。

 ゆうぜんであれば、お家芸のハンバーグをハンバーガーにアレンジし、水郷のとりやさんであれば、地元の特製ビールを添えて手羽先餃子を楽しんでもらう。ただ、それが単なる売り上げで終わるのではなく、どんな体験や価値として着地するのか──。

 リアルとオンラインで“売り場”が違う以上、このイベントをどう位置付けるかの検証は、今後に向けた大切なテーマになっていくだろう。

 青空の下で、老舗も新興も同じ目線で笑い合い、「届ける」「知ってもらう」「感じてもらう」という本来の商いの原点が息づいていた。楽天市場が持つイズム、通い合う心の部分で、デジタルとフィジカルのあいだにある新たな“にぎわい”を作れるか。この交差点に、次の時代の楽天市場が見えてくる。

──今日はこの辺で。

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