楽天G通期決算2025を読み解く|AI×モバイル×ECで描く“縦割りを超えた経済圏”戦略
楽天グループの2025年度決算は、連結売上2.5兆円、Non-GAAP営業利益1,063億円という数字で語られる 。モバイルはEBITDA通期黒字化を達成し、129億円へと改善した 。だが、この決算を単なる回復と見るのは浅い。本質は、AI×モバイル×ECという三層構造が、ようやく一つに接続し始めたことにある。
1. モバイル黒字化は「通信事業の成功」ではない
楽天モバイルは全契約回線数1,001万回線を突破し 、EBITDA通期黒字化(129億円)を達成した 。前年からの改善幅は667億円。数字としては十分にインパクトがある。
しかし、ここで注目すべきは「黒字化した」という事実そのものではない。楽天にとってモバイルは、単体収益を積み上げるための事業ではないからだ。
通信は、顧客接点の拡張装置であり、IDを深める装置であり、経済圏を循環させる基盤である。つまり、モバイルの黒字化は「通信の成功」ではなく、「構造接続の準備完了」を意味する。
楽天は長年、投資フェーズにあった。その投資がようやく回収段階に入ったことで、AIという次の成長装置を最大化できる状態に入ったと言える。
ただ、そこでの切り口は、従来の通信キャリアが取ってきた、利用者増の内容とは異なることで、楽天は価値を発揮できるのかもと睨んでいる。
2. 通信は“福利厚生”にもなる──縦割りを壊す企業事例
決算発表では触れていないが、先日の新春カンファレンスで、三木谷浩史さんが話していたことをここで取り上げる。正直、楽天モバイルを福利厚生として導入したエスワイフードの事例は象徴的だ。従業員が自由に使える形で導入し、外国人社員を含め生活基盤として通信を支えた結果、離職率は23.5%から6%へと改善した。
これは通信の使い方として“異質”だ。通信をコストではなく人材戦略と捉えた。
接客は人が担い、裏側はDXで効率化。そのうえで生活インフラを整える。通信環境が家族との連絡や動画視聴、情報取得の基盤になることで、生活の質が上がり、結果として定着率が向上する。
これは通信キャリアの従来モデルではない。楽天が提示しようとしているのは、縦割りを超えた活用モデルなのかもしれない。
3. モバイルは“顧客接点の拡張装置”でもある
一方、これも同イベントで話されたことだが、澤井珈琲の事例は別の方向から同じ本質を示す。同社は楽天モバイルを積極的に紹介し、約750回線を獲得した。ここで終わらない。
楽天モバイル加入者は楽天経済圏への接触頻度が高まり、楽天市場での購買行動も活発化する。実際、モバイル契約ユーザーの年間購入頻度は2〜3%向上したという。
一見小さな数字だが、年間ベースでの頻度向上は、店舗売上にとって決定的だ。楽天市場では、モバイル契約者の年間流通総額は非契約者比で+48.8%高い 。
通信は「回線販売」ではない。
顧客接点を延長し、購買を循環させるエンジンである。つまり、彼らは生活インフラとして定着している通信を自ら持つ強みとともに掛け合わせて、異なる提案手法で、その裾野を広げようとしているわけだ。
4. 6.3兆円の国内ECは“質”が変わった
そういう視点で、決算発表の内容を照らし合わせると、その見え方が変わってくるだろう。具体的には、国内EC流通総額は6.3兆円(+3.9%、調整後+4.2%) 。売上収益は1兆円を突破し、営業利益は1,224億円へ拡大した 。
重要なのは、モバイルとの接続が明確に数値化されたことだ。楽天市場の月間アクティブユーザーに占めるモバイル契約者比率は16.4%へ上昇 。EC、通信、決済が分断されていた時代は終わった。
今は、IDを中心に横断的に機能する構造へ移行している。6.3兆円という規模の裏で、データは人格として統合され始めている。
5. AIは“人格”を理解する装置である
2025年、AIは255億円の利益貢献を創出 。楽天市場ではAI検索やレコメンドにより年間255億円のGMS創出が見込まれる 。Rakuten AI体験者は非体験者より7倍頻繁に再来訪する 。
ここで重要なのは、AIが単なる効率化ツールではないことだ。
モバイル、EC、決済から得られるデータを横断し、「一人の人格」として理解する基盤になりつつある。
検索、広告、購買、サポート。
すべてが接続され、AIが生活に密着していく。
6. フィンテックが“体力”を作る
フィンテックセグメントは売上9,759億円(前年同期比+19.0%)、Non-GAAP営業利益1,999億円(同+30.3%)と高成長を続けている 。楽天カードのショッピング取扱高は26.5兆円 、楽天銀行の預金残高は13.2兆円 。証券の預かり資産は48.7兆円に達した 。
これまで楽天の構造は明快だった。
ECが拡大する → 決済が増える → カードが伸びる。
しかし今、構造はもう一段進んでいる。
モバイル契約者は楽天市場での流通総額が非契約者比で+48.8%高い 。つまり、モバイルがECを押し上げる。さらにAIが検索・レコメンド精度を高め、購買頻度と単価を向上させる。ECが拡大すれば、当然カード取扱高も増える。
ここで重要なのは順番だ。
モバイル → AI → EC → カード
この流れが成立すると、フィンテックは“受け身の結果”ではなく、“構造の増幅装置”になる。
フィンテックの19%増収という事実 は、単なる好業績ではない。モバイルとAIの接続が始まったことで、ECの拡張がより盤石になりつつある証左でもある。
7. AIは“突然の革新”ではない──祖業ECの蓄積が生んだ必然
楽天のAI戦略を、単なる生成AIブームへの追随と見るのは浅い。資料によれば、2025年にAIはグループ全体で255億円の利益貢献を創出している 。その中核は、楽天市場におけるAI活用だ。
パーソナライズ検索や人気検索の導入により、年間255億円のGMS創出が見込まれている 。さらにディスカバリーレコメンデーション導入後、ユーザー滞在時間は41%増加 。Rakuten AI体験者は非体験者に比べ7倍頻繁に再来訪する 。
ここで重要なのは、これらが“AI単体の力”ではないということだ。
楽天は20年以上にわたりECを祖業とし、膨大な購買データを蓄積してきた。商品閲覧、検索、購入、決済、配送、レビュー。これらの行動ログが、アクティブユーザーの実データとして積み重なっている。
AIは魔法ではない。良質なデータがあって初めて機能する。
楽天のAIは、既に「買い物」という文脈で学習している。だから検索精度が上がる。レコメンドが刺さる。広告が最適化される。そして売上が伸びる。
8. AI×モバイル×EC──縦割りを超えた戦略
楽天の強みは、個別事業の爆発力ではない。経済圏を横断する接続力だ。モバイルは接点を広げる。
ECは売上を生む。フィンテックは資金を回す。AIは人格を理解し、循環を最適化する。モバイルが黒字化したことで、AIを最大化する準備が整った。
AIが機能すれば、ECの回転率は上がる。ECが伸びれば、フィンテックが潤う。フィンテックが潤えば、再投資が可能になる。これが縦割りではない戦略。AI×モバイル×ECという構造は、未来志向のスローガンではない。祖業であるECがあったからこそ成立する“必然”なのだ。
数字を見れば、未来が見える。
今日はこの辺で