楽天グループ2024年度決算:ECとモバイルのシナジーが生む成長戦略
2024年度通期決算、楽天グループは大きな転換点を迎えた。過去数年間にわたり課題となっていたモバイル事業の収益性が改善し、Non-GAAPベースで5年ぶりに営業利益が黒字化を達成したのだ。さらには、楽天モバイルの単月EBITDA黒字化も実現。それにより、何よりグループ全体の財務基盤の安定化が進む兆しが見えたのである。2023年までの連続赤字からの脱却は、同社が推進する「楽天エコシステム(経済圏)」の成長戦略が奏功した結果といえよう。
黒字化への転換点となった2024年
三木谷浩史会長兼社長は決算説明会で「楽天のエコシステムはこれまでにないスピードで成長しており、AI技術の活用がさらなる収益向上の鍵となる」と述べた。
楽天グループは、AIを活用した「トリプル20プロジェクト」を推進し、マーケティング効率、オペレーション効率、クライアント対応の向上を図ることで、年間105億円の営業利益創出に成功している。本記事では、楽天グループの2024年通期決算のポイントを振り返り、今後の展望を探る。
2024年の決算概要:売上高は過去最高を更新
楽天グループの2024年通期売上収益は 2兆2,792億円(前年比10.0%増)と過去最高を記録。特にインターネットサービスとフィンテック事業が成長を牽引し、モバイル事業も売上増に貢献した。一方で、IFRSベースの営業利益は529億円となり、前年の赤字2,128億円から大幅に改善した。
これは、モバイル事業のコスト最適化、フィンテックの収益拡大、そしてEC事業の成長が相乗効果をもたらしたためである。
改めて、まとめると、、、
主な決算数値(2024年通期)
- – 売上収益: 2兆2,792億円(前年比+10.0%)
- – 営業利益(IFRS): 529億円(前年▲2,128億円)
- – EBITDA(Non-GAAP): 3,260億円(前年比+120%)
- – 当期純損失: ▲1,294億円(前年▲3,395億円)
特筆すべきは、Non-GAAPベースでの営業利益が5年ぶりに黒字化した点だ。これは、モバイル事業の赤字縮小と、フィンテック・ECの成長によるものだ。
セグメント別業績:モバイルの黒字化が進む
(1)インターネットサービス:ECの拡大と楽天モバイル・楽天カードの相乗効果
国内EC事業を中心とするインターネットサービスセグメントは、売上収益が 1兆2,820億円(前年比+5.8%)となり、安定した成長を維持。「楽天市場」は新規顧客の獲得やクロスユース促進施策が奏功していると説明している。
流通総額については、前年同期比で-1.5%としながらも、SPUのルール改定(2023年12月〜)や全国旅行支援(2023年7月)などの影響を取り除いたもので見ると、+4.6%であると説明している。ゆえに、楽天として、国内EC流通総額の伸びは継続していると受け止めているようである。
また、旅行予約サービス『楽天トラベル』はインバウンド需要の回復を背景に成長した。(国内宿泊流通総額 +44.5%(コロナ前の2019年対比))
そして、楽天モバイルの成長がECの売上拡大に寄与している点も特筆に値する。楽天モバイルの契約者は、楽天市場の利用率が50%増となり、楽天トラベルの利用も15%増と大きく伸びている。
これは、楽天モバイルの契約特典として楽天市場でのポイント倍率が高まることで、利用者の購買意欲が向上したためだ。さらに、楽天カードを利用することで決済面でも利便性が向上し、ECの流通総額増加に貢献している。
先行する3社よりも差があることは、これらの伸び代がそのまま、流通総額にかえってくることになる。ゆえに、モバイルの伸びの度合いで、今後、流通総額の伸びが語られることになりそうだ。
(2)フィンテック:楽天カードがEC取引の決済基盤を支える
フィンテックセグメントの売上収益は8,204億円(前年比+13.1%)に達し、特に『楽天カード』の累計発行枚数が 3,100万枚を突破するなど、会社全体の成長すら支える大きな存在となっている。いうまでもなく、楽天市場での決済の約70%が楽天カード経由で行われており、その親和性の高さが、強みとなっている。カード利用額も前年対比13.7%増と大きな伸びを見せた。
楽天カードの成長は、EC事業の成長と密接に結びついている。楽天市場でのポイント還元施策や、楽天モバイル契約者への特典拡充が、消費者の支払い手段として楽天カードを選択する動機となり、取扱高増加を後押ししている。
(3)モバイル事業:若年層を筆頭に成長
楽天モバイルの契約者数は2024年末時点で 830万回線 を突破し、前年から 155万回線増加 した。特に、楽天エコシステム内での相互利用が進み、楽天市場や楽天カードとのシナジー効果が大きく寄与しているのは書いた通り。
さらに、2024年12月には単月EBITDA黒字化を達成 し、コスト構造の最適化やユーザー増加により、持続的な黒字化を目指している。今後は、700MHz帯域(プラチナバンド) の活用により、ネットワーク品質の向上を図り、さらに多くの利用者を取り込む戦略が進められる。
注目すべきは、若年層に広がりが見えていること。純粋に価格訴求の点で、スマホ利用の入り口として楽天モバイルを選ぶ傾向があり、そこから新しいユーザーの裾野が広がれば、これまでにないお客様が経済圏に入ってくることになる。
ECとのシナジー強化へ
改めて、楽天モバイルは、他の通信企業と異なる独自の戦略を採用していると考えて良い。
多くの通信企業は語弊を恐れず言えば、通信費を比較的(楽天よりは)高く設定し、その代わりにポイント還元を増やすわけである。そこで、たとえば、ゴールドカードの利用などを促せば、もっとその還元は増える。そうやってロイヤルカスタマー化することで経済圏を活性化させている。
一方で、楽天はそのアプローチが異なる。楽天モバイルで通信費自体を低く設定し、利用者の敷居を下げる。そうすることで、契約者の増加を促進しているわけだ。なぜなら、これにより、楽天市場や楽天トラベルなどのEC中心のサービスへの流入を増やし、利用者が自然と楽天経済圏内で消費する機会を拡大する戦略を取っているからだ。
これができる理由というのは言うまでもなく、そちらで事業を拡大してきた会社だからだ。
つまり、楽天モバイルの本当の狙いは「通信費で収益を得る」のではない、「楽天のECやフィンテックサービスの利用を増やす」ことにある。通信費を安く設定し、多くの人が契約しやすくなる。そうすることで、楽天市場や楽天トラベルを通じてより多くの商品・サービスを購入し、結果的に単価が上がる。この流れの中で、楽天ポイントが還元され、さらに楽天経済圏の活性化が進む。
2025年以降の展望
これは、通信を軸とする他の企業が取りにくい戦略。だから、楽天ならではの強みとなる。今後、楽天はこの成長モデルをさらに拡張し、通信とEC、フィンテックの一体化による市場拡大を加速させていくと見られる。
それを踏まえて、特に、以下の3点が今後の成長戦略の鍵を握る。
- ・ECとモバイル・フィンテックのさらなる連携強化
- – 楽天モバイルユーザー向けの楽天市場・楽天カード特典を拡充
- – AIを活用したECサイトのパーソナライズドマーケティング強化
参考:AIの進化と楽天の挑戦—楽天カンファレンスで三木谷さんが説く「生成AI」がもたらすECの未来
楽天モバイルのユーザー増加がECの需要の肝となる。特に若年層などがモバイルで入ってきた後に、どういう消費行動をしていくかで、全体の売り上げに寄与する。また、モバイルで特に弱いとされている60代以降のお客様に対して、どうアプローチして、獲得できるか。
やりたいようにやるべきだ。ただ、そのためには、リスクをとってやり切る。以前、三木谷さんは成果を出すために、それが大事だと話していたことを思い出す。やり切るという言葉の重みを今更強く感じる。実は、本当の成長ステージはここからなんだろうと思う。
今日はこの辺で。