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投資で未来をつかむ:楽天2020年度 通期 決算とEC×DX戦略の展望

楽天株式会社の2020年度決算では、売上収益が前年比15.2%増という好調さを見せる一方で、当期利益が1,141億円減という数字が話題になっています。なぜこれほど大きな減益となっているのか。その背景には、モバイルや物流といった次の時代に向けた投資が関わっています。「今すぐに収益最大化をするよりも、将来を見据えた投資が必要だ」という三木谷浩史氏(代表取締役社長兼会長)の考え方は、楽天経済圏をさらに拡大させるための長期視点に基づくものです。ここでは、僕自身の見解を交えながら、通期と第4四半期の両方を整理しつつ、楽天の戦略を説明していきます。

1. 2020年度 通期の決算概要:売上は好調、当期利益は投資で減

  • 売上収益: 1兆4,555億3,800万円(前年同期比+15.2%)
  • 当期利益(親会社所有者帰属): 1,141億9,900万円の減益

• 参考:2019年は318億8,800万円の減益

 ここで注目すべきは、売上収益は好調なのに対して、当期利益が大きく減っている点です。これは、モバイル(携帯キャリア事業)や物流への積極的な投資が響いているためとされています。

 三木谷氏は「収益を最大化しようと思えばいつでもできるが、それでは成長が止まってしまう」と語っています。つまり、現時点で無理に利益を出すよりも、将来の成長のための基盤づくりを優先しているのが、今回の決算の特徴といえます。

 この姿勢は株主総会でも三木谷さんが話していることで、一貫して攻めの姿勢を続けています。

関連記事:株主総会 で 三木谷氏語る 楽天 から 楽天グループ へ変える想い

2. 第4四半期のポイント:ECが好調を牽引

Non-GAAP営業利益と国内ECの影響

• 第4四半期のNon-GAAP営業利益を見ると、積極的な投資の影響で減益部分がある一方、「国内EC」部門が106億円の増益(下記の黄色の部分)を生み出し、全体を力強く牽引していることがわかります。 

• コア事業である楽天市場や楽天トラベルが安定して稼いでいる点は、投資に踏み切るための支えとなっているといえます。

3. 投資の背景:モバイル&物流強化で未来を狙う

当期利益が減少した背景には、以下のような投資の存在があります。

1. モバイル事業への投資

• 楽天モバイルの基地局整備や、顧客獲得施策に多くの費用が投下されている。

• 経済圏の“玄関口”としてのモバイルの位置づけが大きい。

2. 物流事業への投資

• 「ワンデリバリー構想」で自社物流を強化し、ユーザーの利便性向上と出店企業のサポートを狙う。

これらの投資は、短期的には大きなコストとなるため、当期利益を圧迫します。しかし、その先には、モバイルの利用者増やEC流通額拡大による経済圏全体の底上げが期待されているわけです。

4. EC成長の要因:巣ごもり需要だけではない楽天の仕掛け

国内ECの数字

  • 第4四半期の国内EC流通総額: 1.4兆円(前年同期比+38.5%)
  • 2020年通期の国内EC流通総額: 4.5兆円(前年同期比+19.9%)

コロナ禍の“巣ごもり需要”が追い風になったのは事実ですが、楽天側はEC利用者を増やす独自の施策にも力を入れています。

• ポイントプログラム(SPU)による新規・復活購入者の増加

• 楽天市場の送料無料ライン設定

いずれにせよ、デジタル需要が伸びるなかで、楽天市場が大きく伸びたことは、2020年度の決算を語るうえで欠かせないポイントです。

5. 楽天ファッションと物流への投資:オフラインを巻き込む戦略

楽天ファッション:オムニチャネル化

• 取扱ショップ数:1,307店(前年比+156店)

• オフラインとの連携を視野に、リアル店舗とオンライン購入をつなぐオムニチャネルの整備を進めている。

もともと楽天市場が地方の商店のエンパワーメントであることからすれば、楽天ファッションは派生的な意味合いが強いのです。なぜなら、地方のお店のサポートが主軸だったのが、経済圏の構想により、一般的な買い物までユーザーの幅が広がったということになります。

だから、その意味で、ファッションブランド向けに用意したプラットフォームを強化しています。さらに、それらは経済圏での強みを活かして、送客して、かつ、オムニチャネルなどの徹底を行います。つまり、ファッション業界も、楽天市場で培ったノウハウにより、活性化させるとしています。要するにここが伸び代になっているわけです。

このことは、FASHION WEEK TOKYOの冠スポンサーになっていることにも関係しています。

参考記事:楽天がファッションウィーク東京の冠スポンサーに就任――なぜ今、楽天がファッションを強化するのか?

物流:ワンデリバリー構想

楽天スーパーロジスティックスの利用店舗数は前年比+87.4%、出荷数は+140%。上記記載。

• 自社物流網を整備することで、EC出店者の負担軽減サービス品質向上を目指す。

たとえば、西友とのネットスーパー連携や、新たな倉庫(港北地域)での稼働など、リアル企業との協業を活発化させています。将来的には、このノウハウを他企業のDX推進支援にも広げていく可能性が高いでしょう。

6. 経済圏拡大の鍵:楽天カード・銀行・証券の連携

楽天の強みは、一つのIDで多サービスを利用できる経済圏にあります。

  • 楽天カード: 2,155万人
  • 楽天銀行: 991万口座
  • 楽天証券: 508万口座

ショッピングの利用者が、そのまま銀行口座を開き、カードを作り、証券口座で資産運用を始める──そんなクロスユースが進めば進むほど、顧客が楽天経済圏にロックインされていくわけです。実際、2サービス以上を利用しているユーザー比率は73%超となり、経済圏の輪がさらに広がりつつあります。

7. 長期的投資がもたらす“経済圏”の価値

今回の決算は、短期的に見れば「当期利益の大幅減」でネガティブに映るかもしれません。しかし、楽天が目指しているのは“オフライン含むリアル市場との融合”と“DX支援”を通じた経済圏の拡大です。

  • モバイル事業: 楽天経済圏への入口としてユーザーの囲い込みを加速
  • 物流投資: EC出店者や提携企業の利便性を高め、さらなる参入を呼び込む
  • オフライン提携: ファッションからスーパーマーケットまで、リアル店舗とのシナジーを創出

こうした取り組みが進めば、楽天市場や楽天カードなど既存の“稼げる事業”と組み合わさり、中長期的には大きなリターンを生むはずです。短期的な利益を犠牲にしても、今まさに投資を行う意味は、そこにあると僕は考えています。

8. まとめ:モバイルを玄関口にDXで企業連携を加速

  • 売上収益は好調ながらも、当期利益の減少は投資が原因
  • EC部門はコロナ禍の需要増+独自施策で大きく成長
  • オフラインとの連携強化を見据え、物流とファッションへの投資を拡大
  • 楽天経済圏の広がりがさらにグループ全体の価値を高める見通し

モバイルを入り口として、ポイントや会員データを活用し、リアル店舗や他社のDXも巻き込みながら成長を目指す──それが2020年度決算から垣間見える楽天の姿勢です。

「収益を最大化しようと思えばいつでもできる。しかし、今は投資を優先する」という三木谷氏のメッセージは、次の時代をにらんだ戦略といえるでしょう。

短期的な利益減に注目しがちですが、長期的に見れば“広がる経済圏”がもたらす収益機会は非常に大きいはずです。

楽天がどのようにオフラインの企業と連携を深め、DX支援のプラットフォームを構築していくのか――今後の動向にも注目したいところです。

楽天決算

2019年通期

参考:楽天が描く経済圏の未来— 2019年度決算に見る攻めの姿勢と変化の波 —

2020年第1四半期

参考:楽天 2020年度 第1四半期 決算 利益は減 ネット通販に光明

2020年第2四半期

参考:楽天 2020年度第2四半期(決算) ECが +48.1%成長

2020年度第3四半期

参考:楽天 2020年度 第3四半期 (決算) 国内EC好調/物流注力で拍車

2020年度 通期(第4四半期)

参考:投資で未来をつかむ:楽天2020年度 通期 決算とEC×DX戦略の展望 ←いまここ

 

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