目を見て心を開いて -三本木農業高校の馬術部 実話から生まれた映画-
想いは伝わる。伝われば、相手も自分も変わる。その相手がたとえ、動物であっても。それを感じさせてくれる作品が、『三本木農業高校、馬術部 〜盲目の馬と少女の実話〜』。今から15年ほど前のその作品ではあるが、舞台である三本木農業高校の東京支部 同窓会で公開されることになり、僕はそこにいて、それに触れたのである。この監督の佐々部清さんは2020年に亡くなられており、この上映会はその追悼の意味もある。あいにく、コロナ禍でなかなかリアルな場でそういう機会が作れない中で、三本木農業高校からの声がけもあり、実現した。
映画で主演 文音さんも駆けつけた
この作品は、三本木農業高校の馬術部員と、盲目の馬「タカラコスモス」との間で生まれた、心温まる実話である。そして、今も学校の中で、語り継がれるエピソードでもあって、この馬のお墓もこの高校の中にある。たとえ、かつての名馬といえど、盲目ともなれば、思う通りにいかなく、心を閉ざす。ただ、その中で、一人の女子高生は、しっかりと目を見て、語りかけて、向き合うことでその馬の気持ちを変えていく。
そして、その馬の変化を通して、また、彼女自身も、成長していくというわけだ。この日、実は、主演を務めた女優 文音さんも駆けつけた。そして、彼女は当時、監督の佐々部清さんの偽りなく、正しくその物語の素晴らしさを伝えようとする奮闘ぶりを、振り返ったのである。彼女曰く、出演者は、その撮影の10日前に寮で馬術部と同じ生活をしていた。当然ながら、朝5時に起き、上手にご飯を与え、自ら厩舎の掃除も行い、散歩させることもあったという。それも監督の本物志向からなる。
徹底した本物志向
監督は徹底して、乗馬もスタントマンを使わずに、出演者に依頼をしたし、出演者もその本気に応えた。実際、文音さんの親友役の森田彩華さんは、馬の練習中、数カ所を骨折する大怪我を負ったと振り返る。そのニュースを耳にした、文音さんの父親、長渕剛さんを慌てさせたなんて、話も助監督から飛び出した。
その情熱ゆえ心に響く作品となる。文音さんは「春、夏、秋・冬の3回にわたって1ヶ月、1ヶ月、2週間で撮影しました。つまり、一年間通して、撮影していたことになります。だから、私もこの高校の生徒として、通っていたような感覚なんです」と語った。撮影の多くは、2~3ヶ月程度と聞くが、一年掛けとは気合の程が窺える。
大事なものは時代を超えて伝わる
映像はその時代にとっての良き光景を残す。十和田観光電鉄もそう。今はもう走っていない。そのホームで、雪が降るのを待っての撮影があったなど、思い出をあげればキリがない。松方弘樹さんの心優しき校長を演じる姿もまた、今となっては貴重なものだ。
冒頭に、「想いは伝わる。伝われば、相手も自分も変わる」と書かせてもらった。
作品中では、馬が徐々に心を開く様を、僕らは映画を通して確認していく。ただ、それは同時に監督もまた、作品を通して、自らの思いを伝えようとしていたのだろう。女子高生の想いと同じだ。だから、今こうして僕らは監督の熱意を通して、この場で、いろんな人の想いを受け止め、感動することができた。そして、余談であるが、僕個人としては、終始、飾り気なく、フレンドリーに接する文音さんがとにかく魅力的であったのである。今度取材、申し込もうかな(おっと余談だね)。Viva、三本木農業高校。
今日はこの辺で。