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検索を超える”LINEショッピングの戦略──AI・ミニアプリ・広告構造で挑む新時代EC

 2025年8月に発表されたLINEヤフー株式会社の「2025年度第1四半期(2025年4〜6月期)」の決算は、売上収益が4,896億円(前年比+5.7%)、調整後EBITDAが1,258億円(前年比+3.4%)と、いずれも第1四半期として過去最高を記録する好スタートとなった 。

 特に目を引くのは、PayPayを中心とした“戦略事業”の力強い成長と、LINEアプリ内でのショッピング導線の本格強化である。表面上は安定成長に見えるが、実態は大胆な構造改革の真っ只中。AI導入・LINEのUIリニューアル・PayPay経済圏の深化など、未来への布石が静かに進行している。

 今期の決算は「数字に表れきらない変化」が随所に見えるタイミングであり、その文脈を、特に**“コマース”を軸に据えて**読み解いてみたい。

Yahoo!ショッピング中心に、地に足のついた成長軌道

 LINEヤフーのコマース事業における売上収益は、前年同期比+3.5%の2,159億円。やや控えめな成長にも見えるが、Yahoo!ショッピングの取扱高は+6.9%と堅調。5月と6月に展開された販促施策が奏功し、足元では着実にユーザーの反応を掴んでいる 。

 また、Yahoo!フリマは出品者・落札者の両方が増加し、前年比+15億円の増収に。BEENOSの連結効果も含め、リユース領域全体としても好調だ。トラベル領域も回復傾向で、+18.9%の取扱高成長を記録している点も見逃せない。

 一方で、調整後EBITDAは前年比-10.5%の371億円と大きく落ち込んでいるが、これは前年に計上されたバリューコマースの一時的利益の反動が大きく、実力値で見るとほぼフラット(YoY -0.3%)。その上で販促や広告投資を積極化していることを考えると、「利益よりシェア拡大」にギアを入れているフェーズと見るのが妥当だろう 。

LINEショッピングタブが描く“次世代モール”の未来

 今期最大の注目施策は、LINEアプリの大規模リニューアルである。従来の「ウォレットタブ」に加え、2025年9月以降、ユーザーに順次提供される予定なのが「ショッピングタブ」だ 。

 ここで提供されるのは、ただの商品カタログではない。AIがレコメンドする“雑誌感覚”のEC体験だ。商品を「検索」するのではなく、「ながら見」でふと欲しくなるような設計。SNS的導線で、潜在的な購買意欲を刺激する仕掛けが詰まっている。

 加えて、LINEミニアプリとの連携強化も大きなテーマ。LINE上で完結するEC体験(注文〜支払い〜決済)を実現し、ウォレット機能と融合する“生活動線内EC”を目指す構想が進行中だ。今後は、UI/UX面でもミニアプリ起点の広告や販促が増え、広告売上にも貢献してくるだろう。

 このタブの成功は、「日本のEC化率」をどこまで押し上げられるかという国家規模の課題にも通じる。検索主導ではなく、行動誘導型コマースへの転換が、LINEヤフー流の“次の一手”となっている。

広告の陰と陽──検索の停滞とアカウント広告の加速

 メディア事業全体では、売上収益1,772億円(+0.6%)、調整後EBITDA652億円(-7.4%)と、数字上はやや苦戦が見える。とくに検索広告は、パートナー面・LINEヤフー面ともに出稿が鈍化し、-38億円の減収となった。これは生成AIによる“検索代替”の影響ではなく、企業広告需要の一時的な低下が主因とされる 。

 その一方で存在感を強めたのが「アカウント広告」だ。前年比+52億円(+18.3%)の増収で、LINE公式アカウントの有償数も右肩上がりに拡大。単なる広告枠販売ではなく、継続課金型モデルとして育ってきていることは、他の広告プラットフォームとの差別化ポイントだ。生成AI基盤の整備・広告プラットフォームの統合といった中長期視点の投資が先行している今、短期的な収益鈍化はある意味で“予定調和”とも言える。むしろその先に、どういうメディア収益構造が形成されるかが勝負となる。

PayPayは取扱高4.5兆円超え、“経済圏”の中心に

 戦略事業は今期、売上収益966億円(+22.1%)、調整後EBITDA**209億円(+264.0%)**と、まさに“圧勝”ともいえる伸びを記録した。牽引したのはもちろんPayPay。取扱高は4.5兆円(前年同期比+24.0%)、登録ユーザーは6,981万人へと増加し、もはやインフラ級の存在感を放っている 。

 注目すべきは、PayPay銀行・PayPay証券などのグループ連結により、「決済から融資・資産運用まで一気通貫の金融エコシステム」が見え始めている点だ。とくに銀行部門では、住宅ローンなどの残高拡大が業績に寄与し、金利収入も増加している。

 また、LINE Payの国内サービス終了によって重複コストが整理された影響もあり、費用構造もスリム化が進んでいる。PayPayは単なる決済サービスから、LINEヤフーグループ全体の収益ドライバーへと本格的に昇格しつつある印象だ。

自己株式取得とキャピタルアロケーションの“バランス感覚”

 株主還元についても、着実にアクションを重ねている。今期は約1,500億円の自己株式取得・消却を発表。5月〜6月にかけて約1,162億円、さらに7〜9月で最大385億円分を市場買付にて実施予定 。この動きは、安易なM&Aや赤字覚悟の成長投資ではなく、株主価値の最大化を意識した成長管理という、グループの資本戦略として評価できるものだ。

 PayPayのIPO構想も含め、LINEヤフーは「短期のKPIだけに流されない、構造的な競争力と持続性」を持った企業体へと進化しつつある。

LINEのショッピングタブが示す「検索を超えた買い物体験」

 LINEが新たに導入する「ショッピングタブ」は、従来のECモールとは一線を画す。これまでのYahoo!ショッピングのような“検索して探す”購買体験ではなく、「雑誌をめくるように、思いがけず欲しくなる」ような、“ながら買い”に最適化されたEC導線として設計されている。

 実際、このショッピングタブでは、**ギフト機能やソーシャル性を生かした“LINEならではの買い物”**が展開されていく。人気の商品を誰でもお得に買えるように設計するなど、“迷わせず出会わせる”ことを意識しているという。

 この狙いについて、LINEヤフーはこう語っている。

「LINEの中にあるショッピングとしては、これまでのモール型とは違うユースケース。誰もが手に取る人気商品をお得に届けたり、ギフトやソーシャルバイイングといったLINEの特性を活かしていく。2~3年かけてじっくり育てていく構想だ」

 さらに、Yahoo!ショッピングの出店者が、簡単にLINEショッピングにも展開できる仕組みも用意されている。これはつまり、購買者のユースケースに応じて出店先を使い分けられるようにし、販路と収益の多層化を実現しようという狙いだ。ECは「検索して探す時代」から「気づいたら買っていた時代」へと移行している。その変化の最前線が、このショッピングタブに詰まっている。

ミニアプリが開く“LINE経済圏”の新収益モデル

 LINEのミニアプリが今、静かに、しかし確実に拡大している。アプリの数は前年比+55%で増加し、利用者(MAU)も50%近い成長を記録。とくに飲食・美容・小売といったリアル店舗向けアプリが多く、“日常動線”に入り込む設計が特徴的だ 。

このミニアプリがもたらすマネタイズ構造もまた、LINEヤフーの進化を象徴している。主に3つの収益源があると説明されている:

  1. アプリ内広告:アプリ数の増加に伴い広告表示枠も増え、LINE風広告との連動も可能に。

  2. 決済手数料:EC機能を持つミニアプリ上で商品購入が発生すれば、手数料収益が発生。

  3. デジタルコンテンツ課金:ゲーム・サブスク・バーチャルアイテムなど、課金型サービスからの収益。

 つまり、LINEミニアプリとは単なる“機能”ではなく、「LINE経済圏のなかで何度もお金が回る仕組み」そのものなのだ。今後はこのミニアプリ群がウォレットタブとも連動し、PayPay決済とも繋がっていく。LINEヤフーは、検索偏重から脱し、「アプリとタブの構造そのものが、広告・決済・コンテンツの収益基盤となる世界」を本気で見据えている。

LINEヤフーの池端氏もこう強調する。

「広告の枠も増えるし、決済基点のアプリも増える。アプリが増えることで、全てのマネタイズ機会が増幅していくんです。だからこそ、今はまだ始まりの段階ですが、非常にポテンシャルは大きいと捉えています」

このミニアプリ戦略は、まさに「広告収益」や「検索ビジネス」だけに頼らない、ポートフォリオ型の新たなメディア運営モデルといえるだろう。

まとめ:AI・UI・経済圏──再定義される「ヤフー×LINE」の真価

 この第1四半期決算は、見方によっては「現状維持」にも映るかもしれない。だがその裏で進んでいるのは、検索偏重からの脱却/アプリ起点コマースの育成/リアル連携型のミニアプリ推進/金融×メディア×ECの循環構築──という構造的な再定義である。

 キーワードは「仕込み」と「連動性」。LINEヤフーが、ただの巨大プラットフォーマーで終わるのか、EC+AI時代の次なるゲームチェンジャーとなるのか。その行方は、これからの数四半期の“芽の開き方”にかかっている。

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