LINEヤフー 2025年中間決算:Eコマース強化とPayPay連結が示す「生活経済圏」の次章——AIエージェント構想で挑む会話起点の未来
2025年度第2四半期(2025年4–9月)のLINEヤフーは、売上収益9,953億円(前年同期比+7.6%)、調整後EBITDA2,512億円(+7.2%)と、中間期として過去最高を更新しました。成長の牽引役はPayPayの連結効果と、Eコマース事業の着実な拡大です。一方でメディア事業は生成AI関連費用の増加により利益率が低下しましたが、経営陣はこれを「構造転換のためのコスト」と位置づけ、広告ポートフォリオを“検索中心”から“会話中心”へと切り替えています。生活者の行動導線の中心にLINEを置き、AIと決済をつなげる——そんな大きな地殻変動が、今回の決算には色濃く表れていました。
1:決算全体像と時代背景
中間期の売上収益は9,953億円(+7.6%)、調整後EBITDAは2,512億円(+7.2%)。営業利益は2,145億円(+24.2%)と、いずれも過去最高水準でした。
台湾のLINE BankおよびタイのLINE MANの子会社化に伴う再測定益が利益を押し上げています。数字の背景には、三つの変化が同時に進んでいます。ひとつは広告市場の転換。検索広告が伸び悩む中で、LINE公式アカウント(OA)広告が有償アカウント数と従量課金の増加で成長しています。次に、Eコマース事業の多層化。ZOZO、アスクル、BEENOSの連結がGMVを底上げしました。
そして三つ目が金融の本格連結です。PayPayやLINE Bankの組み込みにより、生活者の日常動線の「最後の一手」が加わりました。これらは偶発的な追い風ではなく、「LINE経済圏を生活のOSにする」という長期戦略の地ならしだといえます。
2:主要数値の変化と意味
セグメント別では、メディア事業が売上3,571億円(+0.2%)、調整後EBITDA1,332億円(-5.8%)。AI開発関連費用の増加が重荷となりました。一方でコマース事業は売上4,326億円(+5.3%)と増収。eコマース取扱高は2兆2,827億円(+9.3%)に達し、グループ全体の堅調さを支えました。
戦略事業(PayPayなど)は売上2,063億円(+28.6%)、調整後EBITDA438億円(+110.7%)と躍進。Q2単体でも売上5,057億円(+9.4%)、調整後EBITDA1,254億円(+11.3%)と、四半期ベースで最高を更新しています。配当予想は7.3円に増額され、株主還元姿勢も一段と明確になりました。
メディアの短期的なコスト増を、コマースと戦略事業の伸びが補う構造——それこそが今のLINEヤフーの「複線経営」の強みだといえます。
3:Eコマースの再構築と“投資モード”の意味
多層型成長
Eコマースは今期、グループ全体の構造転換を象徴する領域となりました。取扱高は2兆2,827億円(+9.3%)で、内訳では国内物販系が1兆6,112億円(+8.7%)と中核を担いました。Yahoo!ショッピングが牽引し、リユース・サービス系も着実に積み上げています。BEENOSのフル連結効果も大きく、海外EC・リユース・BtoBが横並びで伸びる「多層型成長」の形が見えました。
投資モード
一方で利益面は“投資モード”です。
コマース事業の調整後EBITDAは705億円(-7.8%)と減益。販促費や広告宣伝費を積み増し、前年の一時益の反動も重なりました。Q2単体で販管費が55億円増加し、ショッピングやフリマの販促、ZOZO・アスクルの設備投資が主因となっています。売上原価もBEENOS連結などで増加し、物流・在庫コストを先行投資として呑み込んだ格好です。
この積極投資には明確な狙いがあります。①出店者と在庫の厚みを増やす、②購買頻度を高める、③越境とリユースを広げる。この三点です。LINEヤフーは単一モールではなく、Yahoo!ショッピング、ZOZO、アスクル、BEENOSを束ねた“多層エコシステム”を構築しようとしています。
メディアとコマースの連動も進んでおり、LINE公式アカウント(OA)やミニアプリを通じた“会話起点”の購買導線が整いつつあります。
PayPayを軸に基盤構築
PayPayの取扱高は9.2兆円(+24.7%)に達し、決済と購買が一体化する“生活経済圏”の基盤も完成度を増しています。決済摩擦を減らし、ポイント・信用を即時に活用できる環境は、購入頻度とカゴ単価の両面でコマースGMVを押し上げる効果があります。
ただし課題もあります。販促依存からの脱却、物流の安定運用、そして越境ECにおける為替・返品リスクなど、成長の質を問うフェーズに入っています。アスクルで発生したランサムウェア感染は、まさにBCP(事業継続計画)の重要性を浮き彫りにしました。今後は、OA経由の自然流入を増やし、会話型CRMでリテンションを高めることが利益率改善の鍵となりそうです。
4:経営陣が描く「AIエージェント化」の構想
決算説明会では、「AIエージェント化」が繰り返し強調されました。
経営陣が掲げるのは「1億人が毎日AIエージェントを使う世界」です。Yahoo!検索のAI回答とLINE AIトークサジェストを合わせたDAUは860万人に達し、具体的な手応えを感じさせます。広告ポートフォリオも検索やディスプレイから、OA・ミニアプリ中心へと軸足を移しており、「体験から広告を生む」構造への転換が進んでいます。AIによる業務効率化で生まれた人員を成長領域へ再配置する計画も示され、企業としての“内燃機関の載せ替え”が進行中です。
5:構造再編とリスクマネジメント
台湾のLINE Bank連結子会社化(2025年6月)やタイのLINE MAN子会社化(9月)は、金融・フードデリバリー領域の収益源を強化しました。再測定益が今期の営業利益を押し上げましたが、長期的には「金融の直結」と「デジタルサービスの多層化」が目的です。
BEENOSの連結で越境・リユース領域が厚みを増し、生活者の「発見→購入→決済→資産形成」という流れがグループ内で完結するようになりました。ただし、生成AI関連費用やシステム投資が当面は利益率を圧迫し、また物流やセキュリティなど実務オペレーションへの投資も欠かせません。今後の焦点は、これらをどう効率的に運営し、AI・金融・ECを有機的に連結させるかにあります。
6:まとめ
今回の決算が示したのは、「検索広告の成熟」と「生活経済圏の再定義」という二つの大きな潮流です。LINEヤフーは、広告を“結果”として捉え直し、生活者の行動そのものをデザインしようとしています。AIが自然に介在するチャット体験の中で、購買・決済・金融がシームレスに連なる構図。その中核にEコマースが据えられたことが、今回の決算の真の意味だと思います。
OAやミニアプリが生む接点、PayPayが支える決済基盤、そしてBEENOS・ZOZO・アスクルが形成する商材の厚み。これらが直列化したとき、ようやく「生活のOS」としてのLINEヤフーが完成します。AIを“使わせる”のではなく“使われるAI”に育てられるか――
その挑戦の道のりが、次の四半期の主題になりそうです。
今日はこの辺で。