KDDI2025年3月期決算|ローソン連携とPonta経済圏で“街のOS”化へ──通信を超える次の戦略
通信インフラを担う企業が、ただの“インフラ提供者”にとどまらなくなる未来──。その兆しが、KDDIの2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)決算には詰まっていた。営業利益は前年比+16.3%の増益。だが数字以上に注目すべきは、通信を起点に「生活」「小売」「金融」「街づくり」までを巻き込んでいく戦略的進化だ。ローソンとの連携、Pontaパスを中心にした経済圏の強化、そしてその根底に流れるAIとデータ活用の思想。
KDDIは今、都市の生活動線に“デジタル回路”を埋め込もうとしている──。
営業利益は前年比+16.3%──通信のその先へ
KDDIの連結業績は、売上高5兆9,180億円(前年比+2.8%)、営業利益1兆1,187億円(+16.3%)、親会社株主に帰属する当期純利益6,857億円(+7.5%)と、主要KPIでそろって増加 。
この成長を支えたのは単なる通信収入ではない。
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通信ARPU収入の増加(+177億円)
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DXなどグロース領域の収益拡大(+154億円)
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ローソンの利益寄与(+194億円)
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一時費用の剥落(ミャンマー関連等)
KDDIが描いていた「コア+グロース+挑戦領域」のポートフォリオ戦略は、数字上も成果フェーズに突入した。
通信ブランドの多層化──LTVを最大化する“接点戦略”
「au」「UQ mobile」「povo」のマルチブランド戦略を支えるのは、もはや“安さ”や“回線速度”ではない。
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混雑時でも快適につながる「au 5G Fast Lane」
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山間部でも空が見えればメッセージ送信ができる「au Starlink Direct」
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3ブランド共通のUX強化(契約自由度やオンライン対応)
さらに、「Pontaパス」「au PAY」「金融」「電力」など、通信を入口に生活サービスへ連動する構造が確立し始めている。
これは単にLTV(顧客生涯価値)を引き上げるというより、ユーザーの“日常全体をKDDI内で完結させる”ことを狙った構造戦略だ。
小売への本格進出──ローソンは“街の実証ラボ”だった
中でも注目されるのが、「ローソンとの資本業務提携」だ。
2023年に三菱商事と50%ずつの共同経営体制を構築。決算によれば、ローソンは前年比+11.7%の1,051億円の事業利益を叩き出し、KDDIに194億円の持分法利益をもたらした 。
だがこの成果は氷山の一角にすぎない。
高輪ゲートウェイに開設された実証型ローソンは、「未来のコンビニ」を再定義する都市UXラボとして機能している。自動陳列、清掃ロボ、スマホレジ、そしてAIによる購買分析。こうした技術の先にあるのは、単なる業務効率化ではなく──
「店舗が都市の回路として機能する」という構想である。
通信会社が、なぜコンビニに投資するのか。KDDIは店舗という“面”を獲得し、そこにデジタルで接点を埋め込むことで、街まるごとをつなぐOSになろうとしているのだ。
経済圏構想──Pontaを軸に“リアルとデジタルの循環”をつくる
もう一つのキードライバーは、「Pontaパス」を起点とした経済圏構築。
旧・auスマートパスを再設計し、ローソンとの連携でクーポン配布やポイント還元強化を行った結果、Ponta特典ユーザーは延べ2,500万人を突破(+21万人) 。
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ローソンで毎月600円以上得する特典
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Pontaパスブーストで最大2%の還元率
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au PAYと連動し、リアルの決済を通信と紐づけ
つまり、「来店→決済→ポイント→接続→再送客」という“回遊式エコシステム”が構築され始めている。
楽天経済圏が「Web上の滞在」を前提に設計されていたとすれば、KDDIは「街にいる時間」をデジタルで捕まえようとしている。それが通信企業としての、リアルへの本格進出というわけだ。
次期見通し──AI×通信の社会実装へ
2026年3月期の業績予想は、以下の通り。
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売上高:6兆3,300億円(+7.0%)
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営業利益:1兆1,780億円(+5.3%)
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純利益:7,480億円(+9.1%)
注力ポイントは以下:
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**AI×通信基盤の「大阪堺AIデータセンター」**本格稼働
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au Starlink Directによる“どこでも通信”環境の整備
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IoT、金融、エネルギー領域での非通信収益の拡大
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高付加価値プランと顧客接点の深化
このように、通信×小売×決済×街のインフラを横断する事業体として、KDDIは“社会そのもの”のOSに近づこうとしている。
「KDDIは、都市を設計しはじめた」
今回の決算は、KDDIが“数字”だけでなく、“構造”で未来を描いていることを明らかにした。
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通信を土台としたLTV戦略
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ローソンと実店舗を起点とした都市OS化
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Pontaを中心に回るデジタル経済圏の形成
街に暮らす人々の“動線”をKDDIが設計する未来が、すでに動き出している。2026年、KDDIは「通信企業」という枠組みから、いよいよはみ出す。