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大阪・関西万博のレガシーが示す未来──吉村洋文知事が語る「技術とまちづくり」のその先

 2025年の大阪・関西万博が閉幕しても、その挑戦は終わらない。「未来社会の実験場」という理念のもと生まれた数々の技術やアイデアを、いかに社会実装し、産業として根付かせるか。CEATEC 2025のクロージングセッションでは、大阪府知事・吉村洋文氏が「万博のレガシーを継承し、大阪・関西から未来を切り拓く」と題して登壇。

 黒字開催に終わった万博の成果を振り返りつつ、「ライフサイエンス」「カーボンニュートラル」「空飛ぶクルマ」「スタートアップ」の4つの領域で具体的な未来像を提示した。

1. 万博が生んだ黒字と“心に残るレガシー”

 吉村知事は冒頭、「280億円の黒字、経済効果3兆円」と報告。成功の裏で重視したのは“お金では測れない価値”だった。「一人ひとりの思い出が本当のレガシー」と語り、子どもたちがiPS細胞や先端技術を目にして、将来の科学者や起業家を志すような“きっかけ”を生み出すことを目指したという。

 万博は単なるイベントではなく、未来を信じる心を育む教育装置。技術の展示も、来場者の心に“インスピレーション”を残すためのものであった。吉村氏は「未来に残すもの」を象徴する存在として、当初撤去予定だった「大屋根リング」を一部保存する決断を紹介。

 木造技術の粋を集めたこの構造物を公園化して再利用する計画を語り、「形としても心としても、万博は続いていく」と締めくくった。

2. 命をテーマに、“健康と再生医療”の未来を描く

 大阪ヘルスケアパビリオンは、「リボーン=人は生まれ変われる」をテーマに、iPS細胞や健康データ技術を通して“命の未来”を提示した。展示の中心は「iPSの樹」。京都大学の山中伸弥教授との協力で実現した、“自ら拍動する心筋シート”の展示は、子どもたちに強烈な印象を与えた。

 また、「カラダ測定ポッド」では髪・肌・血管など7項目45種のデータを解析し、25年後の自分の姿を生成する体験も提供。

 AIとバイオの融合が生む“未来のヘルスケア”の形を先取りした。吉村氏は「病院かそれ以外かという垣根をなくす」と述べ、予防医療・自己管理型社会の実現を見据えた。これらの成果は「中之島クロス」拠点に引き継がれ、再生医療の産業化を推進する土台となっている。

3. 再生医療から国際会議まで──大阪が描く“知の都構想”

 万博後の展開として注目されるのが、中之島クロスを中心とする再生医療エコシステムの形成だ。京都大学iPS財団や大阪大学の研究機関が集積し、臨床から事業化までをワンストップで支援する仕組みが整備された。

「自分専用のiPS細胞を貯金する」仕組みや、再生医療ベンチャーの育成など、ライフサイエンスを“産業”として根付かせる挑戦が始まっている。また、吉村氏は「ライフサイエンス版ダボス会議」の開催構想も発表。

 世界の医療・政策リーダーが大阪に集う国際会議を恒例化し、日本発の医療イノベーションを世界へ発信する計画だ。「大阪をライフサイエンスの都に」との言葉には、産官学が連携して未来医療を支える覚悟が込められていた。

4. カーボンニュートラル──次世代エネルギー都市へ

 大阪・関西万博では「メタネーション」や「ペロブスカイト太陽電池」など、カーボンニュートラル実現に向けた新技術が披露された。CO₂と水素からメタンを合成する“都市ガスの再生プロセス”や、曲げられる薄型太陽電池による建築物一体型発電など、都市エネルギーの未来像を提示。

 これらの技術は境港に設立される量産拠点での実用化を目指しており、2027年稼働予定だ。吉村氏は「自然を壊さない再生可能エネルギー」を強調し、ビル壁面や道路構造物にも発電技術を埋め込む“景観調和型インフラ”の可能性を語った。

 万博で示された実証技術を、“市民生活に根ざすエネルギー社会”へつなげる構想が動き出している。

5. 空を走る交通革命──“空飛ぶクルマ”の社会実装

 世界が注目する「空飛ぶクルマ」も万博の目玉となった。SkyDriveやANAHD、Soracleなど国内外の企業が参加し、会場上空でのデモフライトに成功。吉村氏は「空の移動革命社会実装ラウンドテーブル」を通じ、官民連携でビジネスモデル構築と運航ネットワーク整備を進めていると語った。

 Soracle社と大阪府・大阪市は協定を締結し、2026年の実証運航、2027年の商用運航を目指す。さらにOsaka MetroとSkyDriveは、大阪城から梅田・ベイエリア・森ノ宮を結ぶ“ダイヤモンドルート構想”を発表。

 2028年には観光体験型サービスの提供も予定されている。「空から街を楽しむ大阪」――万博の空に描かれた夢が、日常の交通網へと降り立とうとしている。

6. スタートアップの台頭──リボーン・チャレンジが示した日本の底力

 大阪ヘルスケアパビリオンでは、432社の中小企業・スタートアップが参画。“リボーンチャレンジ”で紹介された新技術は、まさに多様性の象徴だった。スマホで行う眼科診療、レーザー核融合発電、AIによる船舶の自動操舵──

 いずれも日本が誇る“課題解決型テクノロジー”だ。吉村氏は「この挑戦こそが万博の精神」と語り、今後もエコシステム構築と資金支援でスタートアップを支えると表明。

 さらに、グローバル・スタートアップ・エキスポを毎年開催し、大阪を“起業のハブ都市”として国際的に発信していく考えを示した。未来を創るのは行政ではなく、挑戦する個人と企業だ――その言葉には、産官学連携を超えた“共創都市”へのビジョンが滲む。

7. イノベーションが息づく“まちづくり”へ

 講演の締めくくりに、吉村知事は大阪の都市構想を描いた。北の梅田では、都心に緑を取り戻す大規模公園を整備中。南の夢洲ではIR(統合型リゾート)が2025年着工・2030年開業予定で、年間1兆円規模の経済効果を見込む。

 さらに大阪城東部では大学新キャンパス、アリーナ、自動運転・空飛ぶクルマ拠点を整備し、“知の拠点都市”として進化を遂げる構想も明かされた。

「ツインエンジンで日本を引っ張る」――

 東京と並ぶ経済圏を築き、非常時には首都機能を補完する「副首都・大阪」構想。万博が生んだレガシーは、都市の再生と新しい産業文化の礎となる。吉村氏は最後に、「次の世代が誇れる大阪を残したい」と語り、講演を締めくくった。

 

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