非常事態宣言下における購買行動の実態:レシート調査から読み解く消費者心理
1. 調査の背景と目的
非常事態宣言が発令されると、「生活必需品が手に入らなくなるのでは」という不安から消費者の購買行動が大きく変化することがある。そこで本調査では、実際にどのような商品が買えなかったのか、買えない場合どのように行動したのかなどを探ることで、非常時における消費者の心理や行動パターンを明らかにすることを目的とした。
2. 調査概要
- • 調査主体:株式会社リサーチ・アンド・イノベーション
- • 活用アプリ:「CODE(コード)」
- • レシートや商品バーコードを登録すると家計簿として管理でき、さらに登録情報がお金に変わる機能を備えている。大量のレシート情報が集まりやすいため、実購買行動を可視化できる特徴がある。
- • 調査対象:2020年4月9日(緊急事態宣言発令後)に実際に買い物をした全国約1万人
- (7都府県+その他道府県、合計9,875人)
- • 調査方法:買い物直後(レシート・バーコード登録直後、最短1分後)にアンケートを実施し、記憶が鮮明なうちに回答を得る。
3. 主な調査結果
3.1 買いたくても買えなかった商品
• マスクが圧倒的1位
全エリアで「買いたくても買えない」商品として最も多く挙げられたのは「マスク」(4割弱)。次いで、「野菜・果物」「乾物・めん類」「即席麺」などが続いた。
• 東京でのトイレットペーパー不足
「トイレットペーパーが買えなかった」と回答した割合は、東京都が10.3%と他の道府県(4.5%)に比べて高い。しかし一方で、「買えなかったものは特にない」と回答している人も3〜4割程度存在し、初期に見られた極端な買い占めはあまり起きていない傾向がみられる。
3.2 買えない場合、他店舗を探す割合
• 6割以上が複数店舗を回る
買おうと思ったが買えなかった商品のために、追加で他の店舗を探した人は全体の6割弱。そのうち約2割は3店舗以上を探し回ったという結果が得られた。
• マスク探しの苦労と冷静な対応
「マスクを探すためにあちこち回った」という声が多い一方で、買い占めに走らないよう意識しているという回答も散見された。
3.3 野菜・果物への意識と行動
• 衛生面への不安や価格高騰
• 野菜が袋に入っておらず、他人が直接触れることへの抵抗感が高まっている。
• 野菜や果物の値段が高騰しており、購入を控える・品数を減らすという声が多い。
• 外出自粛に伴う料理回数の増加
• 外食機会が減り、家庭での調理が増えたことで「保存のきく野菜を多めに買う」「マンネリ化しないように新しい商品を試す」といった行動が見られた。
• 午前中に買い物を済ませ、品数が減ってしまう前に確保するなど、買い物の時間帯にも変化が生じている。
3.4 買い占めに対する消費者の声
• 普段通りを意識する人が多数
• 「買い占めはしたくない」「必要以上に買わない」といった声が多く、冷静さを保つ消費者が目立つ。
• 一方で、「スーパーの来店回数を減らしたいから2〜3日分まとめて買う」という声もあり、“必要最低限の備蓄”という動きは増えている。
• トイレットペーパーの在庫状況
• 購入者の6割以上が「在庫は残っていた」と回答。一時的な不足はあったが、流通が回復し始めている様子がうかがえる。
• それでも「品薄騒動以降、今回ようやく購入できた」(34.5%)という回答もあり、地域・店舗によってはタイムラグが生じていると考えられる。
4. 考察と今後の示唆
• 急激な売り上げ変動と在庫バランスの崩れ
非常事態宣言下では、一時的に極端な需要が高まり在庫が不足するなど、急激な売上変動が起きやすい。しかし、今回のように消費者が比較的早い段階で冷静さを取り戻すと、在庫バランスは徐々に安定していく傾向がある。
• 長引く外出自粛の中での生活変化への対応
生活様式が大きく変わることで、購買行動にも変化が生じる。
- • 料理機会の増加に伴う新商品需要
- • 衛生面を考慮した包装や商品配置の工夫
- • “まとめ買い”需要への柔軟な対応
• 小売・流通業への提案
生活者の声からは「買い占めたくないが外出を減らしたい」「衛生面に配慮された商品が欲しい」というニーズがうかがえる。小売業や関連メーカーは、こうした新たな生活パターンに合わせた商品開発や売り場づくり、情報提供を行うことで、消費者の不安軽減と購買意欲向上につながると考えられる。
非常事態宣言がもたらす一時的な混乱はあるものの、実際には多くの消費者が冷静な行動を心がけていることが本調査から読み取れる。今後も状況の変化に合わせ、消費者のニーズを的確に把握・発信することで、より適切な商品提供やサービスの改善につなげられるだろう。