Disney、稼ぐ力が復活──「体験」と「ストリーミング」が支える2025年Q3決算
ウォルト・ディズニー・カンパニーは、2025年6月28日に締めた2025年度第3四半期(Q3)の決算を発表しました。売上・利益ともに前年同期比で着実に成長し、特にストリーミングやテーマパークを含む「Experiences」部門が全社の利益成長をけん引しました。本稿では、その決算を構造的に紐解き、今後の展望や注目すべきポイントを整理してみよう 。
一歩ずつ、確実に。数字に表れ始めた回復の兆し
2025年6月28日をもって締められたウォルト・ディズニー・カンパニーの2025年度第3四半期(Q3)決算。その中で最も目を引いたのは、堅調な売上成長よりもむしろ「利益構造の再構築」に対する自信だった。
売上は236億5,000万ドルで、前年同期比で+2%。大きなジャンプではないが、これまでのコスト削減や事業構造の見直しが着実に効いており、税引前利益は+4%の32億1,000万ドル。GAAPベースのEPS(1株あたり利益)は前年の1.43ドルから2.92ドルへと倍増以上を記録し、調整後EPSも16%の伸びとなる1.61ドルを達成した 。
さらに注目すべきは、キャッシュ創出力の強化だ。営業キャッシュフローは前年同期の26億ドルから36億7,000万ドルへ、フリーキャッシュフローも53%増の18億9,000万ドルとなった。これは、ディズニーが過去数年間苦しんできた赤字体質から脱却し、いまや「自ら稼ぐ体質」へと転換しつつあることを示している。
ストリーミングがついに黒字化、Disney+は1.28億人に
何より象徴的なのは、長年投資フェーズにあったストリーミング事業(DTC:Direct-to-Consumer)がついに黒字化したことだ。DTC全体の営業利益は前年同期の1,900万ドルの赤字から一転、今期は3億4,600万ドルの黒字に転じた。Disney+単体の加入者数は前四半期比で180万人増の1億2,780万人、Huluとの合算では1億8,300万人を突破した 。
価格改定も寄与し、国内のDisney+における月間ARPU(1人あたりの平均売上)は8.09ドル、国際では7.67ドルといずれも前期より上昇している。加入者数を維持しつつ単価も上げる──これはNetflixが数年前にたどった「収益化フェーズ」への移行を意味しており、ディズニーも同様の軌道に乗り始めたことが窺える。
同社はさらに次の一手として、ESPNのDTC展開やHuluとの完全統合を控えており、ここからの拡張がますます注目される段階に入ってきた。
映画とテレビは依然として苦戦──“勝ち筋”の選定が急務に
その一方で、伝統的なエンターテインメント部門は引き続き厳しい状況にある。Q3の同部門営業利益は10億2,200万ドルで、前年同期から15%の減少となった。とくに「リニアネットワーク(テレビ)」や「コンテンツ販売・ライセンス収益」が大きく足を引っ張っており、前者は28%減、後者に至っては黒字から赤字へと転落した 。
要因の一つには、前年同期に『インサイド・ヘッド2』という大型ヒットを抱えていた反動がある。今期の公開作品(『Elio』『Thunderbolts』『Lilo & Stitch』など)は、いずれも興行面での爆発力に欠け、収益性が弱かった。さらに、Star Indiaの統合解除に伴い、Hotstar関連の収益が今期には含まれなくなったことも影響している。
つまり、DTCと比べて「当たり外れ」が激しい映画やテレビは、今後より選択と集中が必要なフェーズに入ってきたといえる。
スポーツは前年の“赤字解消”で収益化、ESPNの存在感なお健在
スポーツ部門は好調そのものだった。Q3の営業利益は10億3,700万ドルで、前年同期比では+29%。前年同期はStar Indiaによる3億1,400万ドルの赤字が響いていたが、今期はその反動もあり、見た目の利益は大きく伸びている 。
ただ、ESPN単体に限って見ると、NBAやカレッジスポーツの契約費増によって、国内の営業利益は7%の減少となっている。広告収入の微増(+3%)ではコスト上昇を補いきれなかった格好だ。
それでも、スポーツ中継の魅力は健在であり、ESPNは全米で最も視聴されたNBAゲームや女子カレッジ・ソフトボール決勝などを提供するなど、強力なIPと放映権を武器にDTC向けの布石を着々と打っている。
“体験”は盤石──テーマパークとクルーズが全体を支える
ディズニーにおいて、もっとも確実に利益を稼ぐ部門が「Experiences」、すなわちテーマパーク・リゾート・クルーズなどのリアル体験領域である。
今期の同部門の営業利益は25億1,600万ドルで、前年同期比+13%。そのうち、アメリカ国内のパーク&リゾートは+22%の成長を見せた。新たな客層の取り込みや、客単価の引き上げが功を奏しており、クルーズラインでは新船「ディズニー・トレジャー」の影響も大きかったという 。
体験ビジネスの底堅さは、今後のストリーミング事業の波に左右されにくい“安定収益源”として機能しており、今後もディズニーの収益の柱として期待されている。
税務上の追い風と、再構築する利益モデル
今期はGAAPベースでの純利益が大きく膨らんだ。その主因は、Huluの税務上の取り扱い変更に伴って33億ドルの税制メリットが計上されたためだ。その結果、実効税率はマイナス85.1%という異例の数字となった。
このような一時的な要素を除いて考えるために、ディズニーは調整後EPS(adjusted EPS)を指標としており、こちらは前年比で16%増の1.61ドルとなっている。今後もこの指標が「実質的な稼ぐ力」を測る鍵となってくるだろう 。
通期見通しは上方修正、未来への布石も着々と
ディズニーは今回の決算発表で、2025年度通期の見通しを引き上げた。調整後EPSは5.85ドルへと上方修正され、前年から18%増となる見通しだ。ストリーミング部門は通期で13億ドルの黒字、スポーツは+18%、Experiencesも+8%の営業利益増を掲げている。
注目すべきは、ESPNの単体DTC展開やHulu完全統合、そしてNFLとの大型契約など、未来に向けた大型施策がすでに動き始めている点だ。第3四半期は、そうした「布石」が数字として現れ始めたターニングポイントだったのかもしれない。
締めのひとこと
ディズニーは、コンテンツのヒット頼みから脱却し、DTCとリアル体験を軸にした“新しい収益構造”へとシフトしつつあります。これまでの「夢を売る企業」から、「利益を稼ぐ企業」へと生まれ変わろうとしている現在、その先にどんな未来が待っているのか──次の四半期が、さらなる確信をもたらしてくれるかもしれません。